85 防御不能の攻撃は、誰であろうと結果を出す

❤dhiluna


 包囲網の最終地点。

 そこに奴はいた。

 人類の希望――小森公久こもりきみひさ


 転生庁の最高戦力にして、私に一撃を加えた張本人。

 流星状態となって近くへと向かった私は、近くにあった並び立つ黒い街路灯の上へと降り立った。


 まるで公園のウォーキングルートの隣に立つようなそれが大量に建てられている。

 その中の一つの上で私に向けられる熱い視線に応えながら、小森へと視線を集中させた。 


「こんにちは。手厚い歓迎いつもありがとね」


 武装した兵士に囲まれた小森。

 背中に携えた狙撃銃がこちらに向く様子はない。

 

 大量にいる兵士もただ武装をしているだけでその武器は私の方を向いていない。

 脅しの道具としてそこに在るだけ。


 どうやら即刻戦闘に持ち込もうという気は彼らには無いようだ。


「さっさと諦めてくれるとこちらとしても楽なんだけどね。君達が無駄に強いからこちらも本気を出さざるを得なくなる。大人しく捕まる気はないかい?」

「なんでそんなに敵対してくるのさ。私達は別に君達に悪影響を及ぼしてるわけじゃないでしょ」

「こっちも仕事なんでね。手を抜くわけにはいかない」


 まあ確かに。

 遊びの延長線上でここまで来た私と違って、彼らは明確な意思をもってこの場所に立っている。


 彼らが途中で手を抜くことは考え辛い。

 だが、それは好都合だ。私としても、手加減されることなんて望んでない。


「そっか。ならよかった。今度はどんな策を見せてくれるのか正直楽しみにしてたんだ」

「相変わらず上からだな。そんなに負ける可能性はないか?」

「どうだろうね。今日は美味しい夕食を食べる予定なんだ。君も一緒にどうかな?」

「その予定通りにことが運ぶと良いな」

「君達が変なことしなきゃすぐに済むんだけどね」


 取って食おうってわけじゃないんだ。

 転生庁が諦めてくれればすぐに済む。

 けど、そうは問屋が卸さない。


「それじゃ、始めようか」

「ぜひ全力を尽くして諦めてね」


 光球を召喚し、臨戦態勢をとる。

 しかし、彼らが武器を構える様子はない。

 離れた位置関係を保ったまま、会話を続ける。


「君達の能力がどういった原理で動いているのかは未だに分からない。うちの研究員も頑張ってるようだけど、その真相には辿り着けていない」

「だろうね。正直、私も細かい原理までは把握してないよ」


 能力についてはブラックボックスなところも多い。

 何が出来るかは理解していても、何故出来るかは理解していないのだ。

 冷静に考えれば、私の能力意味不明だし。


「だが、やはりその根底には君の演算能力が関係しているに違いない。君の周りを舞う光球は自動運転だとしても、基本的に能力というのはその頭で考えて使ってるんだろ?」

「だったらなんだっていうの?」


 脳を潰せばいいって話なら、それは無理な話だ。

 私に一撃を加えるのが精一杯の彼らにとって、致命傷を突くという

 というか、脳を潰されれば私だって死ぬし。


「君達の弱点は何なんだろうとずっと考えていた。物理的な攻撃では、君達の能力によって阻まれる。かといって、毒物はそもそも当たってくれない上に、自爆する原因になりかねない」

「そうだね。よく分かってる」


 私達のためだけに原子爆弾級の兵器を使えば、後遺症が残る。

 それは最終手段って奴だ。彼らも積極的に取りたい選択ではない。

 悩むようなジェスチャーをしていた小森が、突然私の方を向いた。


「だから考えたんだ。物理的な攻撃ではなく自爆にならないような攻撃を」


 私の方を指差しながら、意味ありげに笑う小森。

 

「良いのか? そんなところにいて」

「……何の話?」


 大量に並ぶ黒い街路灯。

 おそらくアナウンスを伝えるためであろうスピーカーとライトがついているだけの簡易的なものだ。

 

 これが全てを覆す必勝の策だとしたら見た目が貧相すぎる。

 柱に仕掛けがあるのかもしれないが、一見しただけでは分からなかった。

 そもそもこれが兵器だとは思えない。


「なら、我々が用意すべきは君の防御をかいくぐる攻撃だ」


 しかし、小森の表情は曇らない。

 確信をもって、私に理論を語っている。


 疑念を持った私が、街路灯の根元へ視線を移していくと見慣れないものが見つかった。

 街路灯にはそぐわない大きな大きなスピーカーが等間隔に置かれている。

 

「……まさか」


 気付いた時にはもう遅かった。

 街路灯に添えられるように置かれたスピーカー。

 その全てが耳をつんざくような音量で、不快な音を奏で始めた。

 

「ッ……!」


 頭が割れる様に痛い。

 思わず両手で耳を塞ぐが、その程度では防げない。


 頭を割るような不快な音が常に鼓膜を震わせる。

 睨み付けるように小森の方へ視線を戻すと口が動いているのが分かった。


「―――――――」


 小森が何か言葉を発しているがその言葉は私には届かない。

 もっと大きな音が思考を支配している。


「音か……」


 確かに音の攻撃なら、私は防げない。

 あくまで私が防げるのは実体のある攻撃だ。

 毒物をはじめとする気体の攻撃が防げないように、音波は不可避。


『安心してくれ。その音に直接的な殺傷能力はない。単純に君の思考力を奪うものだ』


 不快な音を奏でているスピーカーから小森の声が聞こえる。

 小森の姿を再び確認すると、手にトランシーバーが握られているのが分かった。

 どうやらトランシーバーはこのスピーカーに繋がっているらしい。


「インカムか……」


 違和感はあった。

 普通は片耳しかつけないはずのインカムが小森以外両耳についている。

 私と会話するのは小森だけだろうし問題はないのかとも思っていたが、どうやら伏線だったらしい。


『どうだい? やっぱり能力は使えないかな?』


 ……ふざけてる。

 まるで黒板を爪でひっかいたかのような不快感。

 意識しないようにしても、割り込むように意識に入ってくる。


『君は音より速いのかもしれない。けれど、術中にはまってしまえばその速さは生まれない』


 大量の銃口がこちらを向く。 

 せめてもの抵抗で光球を前方へと動かした。



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