79 思ってもみなかった二種類の生物が似通った進化の道筋を通っていたりする。
♤hiroaki
彼らが能力を使うのに消費する魔力。
ちょっとした説明は、以前俺が気絶する前に聞いたが、本質的なことは何も聞いていない。
正直、自分には関係のない概念だし、聞いても理解なんて出来ないと決めつけていた。しかし、ここまで来たのだから、聞かない手はない。
「魔力について説明する必要なんてある? 聞いたって紘彰は能力を使えないんでしょ?」
「聞かない理由もないだろ。もしかしたら、能力使えるようになるかもしれないし」
俺だって、一人で戦況を変えられるような戦略兵器になりたい。
ディルナやスノーマンみたいに、そこにいるだけで威圧感が出てしまうような化け物に憧れる気持ちはちゃんとあるんだ。
「はは、それは無理だろうね。勝木紘彰が能力が使えるようになるってのは現実的じゃない。だが、語る必要はあるんだ。こいつについて語らなきゃ、大前提がクリアできるかどうか判断出来ない」
「大前提?」
意味が分からず思わず聞き返すと、スノーマンは笑う。
待ってましたと言わんばかりに、ためをつくって口を開いた。
「本当に再転生者と人間は共存出来るのか?」
あまりにも大前提過ぎて、思わず固まってしまった。
正直、その疑問がなかったといえば噓になる。
ディルナとは共存が可能なのは確信しているが、以前出会った暴走状態の再転生者と共存出来ると断言出来るほど、俺の
「現実問題、共存が可能でないのなら、僕らの願いはどうやったって叶わないわけだ。だって、そうだろ? もし再転生者と人間の関係がただの捕食者と家畜なら、君たちはそれを良しとしない」
家畜と捕食者。
あまりにも忖度のない表現だが、今の状況をよく表している。
もし、再転生者が人間を殺さなきゃ生きていけないのなら、人間と共存はあり得ない。ありえるとすれば、今の人間と家畜のように、再転生者が人間を飼うという方法だけ。
「ヒカリみたいな規格外を除けば、今まで再転生者を排除出来てるんだ。なら、共存出来ないのにわざわざ妥協点を見つける必要はない。今まで通りの方針で良いんだ。けど、共存が出来るとなると、話は変わってくる。妥協しなくとも、僕らと転生庁は一緒に生きられるかもしれない」
スノーマンの言う理想が叶うかどうかは置いておいて、そもそも共存が可能かどうかを議論するのは必要なことだ。
……まあ、これからスノーマンが『共存は不可能』なんて結論を語り始めたら、聞かなかったことにするしかないかもしれないが。
「言ってる意味は分かるよ。可能か不可能かの議論をしないと、意味がないってことだろ。でも、どうだろうな。現実的に可能であっても、意味なんてないんじゃないのか?」
「まあ、そうだろうね」
俺の言葉に深くうなずくスノーマン。
「そうなの? なんで?」
対照的に、ディルナは言葉の意味が分かっていないようだった。
スノーマンと違って、ディルナはこの世界の知識に乏しい。理解出来ないのも仕方のないことだ。
「そもそも再転生者が人間を殺すっていう風評が広まったのは、再転生者を排除する方針が決まったより後なんだ。強すぎる力を持った再転生者を野放しには出来ない。世界はまず保身に走った」
本音を言えば、何かに利用したかったのかもしれない。
スノーマンレベルの冷却性能があれば、確実に転用が可能。
現代では考えられないほどのエネルギー効率を持ち合わせているに違いない。
「まあ、でも意味はあるんだ。人間は本質的に自分を正当化したがってる。僕らは、僕らを擁護してくれる人間が自分を正当化しやすいように、道を作ってあげる必要があるんだ」
共存の道を示せば、俺達を擁護しやすくなる。
「言っている意味は分かるが……」
果たしてそれは大多数からの賛同を得られるような意見になるだろうか。
「安心しなよ。たとえそれが薄氷の道だったとしても、彼らはそんなことを無視してくれる」
「なんだそれ。何を根拠にそんなことを」
人間のことを馬鹿にしているとしか思えない発言。
俺が言えた身分じゃないが、楽観的が過ぎる。
「そんな些細なことくらい無視するような奴じゃなきゃ、僕らのことを支持しない。そうだろ?」
「まあ、確かに……」
いくら悪事を働いていないからって、指名手配犯を支持するような層だ。
多少のことは看過してくれるに決まっている。
自分達を支持してくれている人間に対して、こんなことを思うのは失礼極まりないような気もするが、身内贔屓をして視野が狭くなってはいけない。
「じゃあ、本題に戻ろう。そもそも魔力ってのは何なのか。ヒカリは置いておいて、勝木紘彰にとっては馴染みのない概念だろう」
名前から概念が理解出来ないほど遠い存在ではない。
普通に生きていれば、魔力という単語は聞いたことがあるだろうし、想像も難くなかった。
「まず、前提を整理する。そもそも魔力ってのは再転生者が能力を使用する際に消費するエネルギーみたいなものだ。使用する能力によって、魔力の消費量は変化し、また、各々の保有する魔力量には個人差がある。そして、基本的に保有できる魔力量の大きさがその再転生者の強さに直結する」
情報量の多さに戸惑いながらも、ゆっくりと自分の中でかみ砕いていく。
「つまり、ヒカリの方が僕よりも非常に大量の魔力を保持しておけるってことだね。だからこそ、継戦能力も最大火力もヒカリの方が高い。詳しくは分かっていないけれど、この魔力量が転生震度に関係してるんじゃないかって思われてる」
「思われてるってなんだ」
「転生震度については詳しいことが分かってないんだ。使えるから使えるだけで、原理は解明されていない」
「……そんな真偽不明なものに転生庁は命を預けてんのか」
やつらも難儀なんだな。
俺達みたいに我が道を行ってる人間ならまだしも、国のために働く英雄たちがそんな訳の分からないものを常用してるとは。
「と、ここまでは特に疑問もないだろ。魔力って名前から察することが出来るレベルの話だ」
「まあ、そうだな」
特に驚くべき秘密があったわけじゃない。
能力に関するエネルギーの話なら、こんな感じだろうと予想していた通りだ。
「だが、ここで一つの疑問が生まれる」
「いや、だから疑問は生まれてないって」
お前が今疑問は生まれないって言ったばかりじゃないか。
全く、意味が分からないがどうやらディルナには伝わっているようだった。
スマホをベッドの上に置き、ようやく会話に参加する意思を見せる。
「魔力の供給でしょ。分かるよ。私も困ってる。この世界じゃどう考えたって供給量が足りてない」
「その通り。再転生者ならやっぱり気付くだろうと思ってたよ」
二人だけで通じ合う再転生者達。
元から仲間外れなのは知っていたが、実際この状況になると少しだけ悲しい。
「……どういう意味だ?」
「さっき言った通り、再転生者は常に魔力を体外に放出している。しかも能力を使う際にも魔力を消費する。じゃあ、この常に失われていく魔力をどうやって僕達は補充しているんだろうか」
先程までの説明だと、確かに魔力は減少していくばかり。
確かに供給の話はなかった。
けれど、そんなもの他のエネルギーだって同じだ。
「勝手に体内で作り出されてるんじゃないのか?」
「いいや、違う。再転生者にそんな便利機能はついていない。魔力は外部から取り込むしかないんだ。そもそも人間と再転生者に構造的な違いはない。魔力を生み出すための特殊な器官は残念ながら備わっていない」
だから、転生庁が再転生者の死体を解剖しても望んだ結果は得られなかった、とスノーマンは語る。
何の話だ。転生庁の解剖の結果なんて俺は知らん。
情報元を聞こうかとも思ったが、スノーマンの説明は止まらない。
「じゃあ、どうやって取り込むのか? 魔力が他の世界と同様大気に溶けていれば全く問題はなかった。けれど、当たり前だがこの世界の魔力は薄い」
さて、問題の補充方法だが――、とスノーマンが話し始めるころには、おおよそ補充方法が予想ついていた。
ディルナにあんな質問をしたってことはそういうことなんだろう。
「……人の殺害ってことだな?」
「ご名答。勘が良いね。僕らは、人を殺すことによって魔力を補充することが出来る。そして、困ったことにこの事実に転生庁は気付いているらしい」
なんだよそれ。
詰んでるじゃねえか。
「じゃあ、なぜ公表しない。公表すれば転生庁に石を投げる人間なんて消え去るだろ」
「確信してないんだ。間違ってたらどうする? より大きな石が投げられるのは目に見えてる」
確かにそれはそうだ。
自分達を正当化する論理を打ち出しておいて、それが間違ってましたなんて有り得ない。
「だが、一旦冷静になってみろ。意味が分からないだろ。なんで人を殺すと魔力が補給出来るんだ? どう考えたってゲームみたいなキルカウンターがあるわけがない。じゃあ、因果関係があるに決まってる」
正直、俺には魔力の深い理解はない。
話を聞いている今でさえ『魔力ってのはそういうもんなんじゃないのか?』という疑念を排除出来ていなかった。
けれど、魔力はそういうもんじゃないらしい。
「ここまで言えば馬鹿でも分かるはずだ」
人を殺せば回復するようなシステムじゃないのなら。
魔力の回復にはもっと根本的な理由があって、それを達成するための方法の一つが『人を殺す』に過ぎないのなら。
答えは一つしかない。
「「魔力には別の補充方法がある」」
俺とスノーマンの言葉が重なった。
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