70 予定時刻になっても待ち人が来ないというのは思った以上に不安になる。
時は戻り、紘彰が目を覚ます三日前。
❤Dhiluna
外の空気を吸いに行った紘彰を健気に待っていた私は、待ちくたびれていた。
ベッドに転がってゴロゴロするだけで暇を潰せるほど私は人生に退屈していない。
ここまで刺激的な毎日を過ごしてきた私にとって、一日丸々引きこもるというのかなりしんどいものがある。
「……帰ってこない」
もう既に夕飯の時間だ。
お腹が減りすぎて、さっきから音が鳴りやまない。
「うぅ……」
空腹を訴えてくるお腹をさすりながら、家主を待つ。
紘彰が寝てたせいで、朝食も昼食も食べてないんだ。
さっさと帰ってきてよ。
あいつは私を餓死させる気か。
「どうしようっかなぁ」
普段なら、そこまで心配することでもないが今は違う。
紘彰は万全の状態じゃない。
「なんかあったのかな?」
私と違って、紘彰は無事に帰ることが保証されてない。
ただの一般人だ。私とは体の耐久力が天と地の差。
「助けに行きますか」
手間のかかる家主だ。
仕方ないから私が助けに行ってあげよう。
「さて、どこにいるのかな」
そろそろ飽きが来ていたリプ返をやめて、ホーム画面に戻る。
買ったその日にノリで設定した自撮りの壁紙の中から地図アプリを見つけ出し起動した。
「あ、公園あるじゃん。じゃあ、ここかな」
適当に地図を眺めながら、家主が休息を取りそうな場所を探す。
ちょうど公園にピンを指した、私の耳に大きな音が届いた。
「うっさ……」
何気なく点けていたテレビからアラートが流れているらしい。
目に入ってきたのは画面上部に流れるように表示されている大文字。
『速報 指名手配犯、勝木紘彰確保』
一瞬文字の内容が理解出来ず、首を傾ける。
いや、理解出来ないというよりも理解を拒んでいる、と言ったほうが正しい。
「え? いや、そんなわけないでしょ」
正直、心配しているとは言ってもそれは本心からじゃなかった。
疲れてるとは言っても紘彰はちゃんとここに帰ってくると思っていた。
けど、現実はそんなに甘くないらしい。
「探さなきゃ」
扉を開けて、外へ出る。
目的地は先ほど確認した公園。
そこまで遠くはない。
目的地にはすぐにつく。
「……いない」
けれど、そこに探している人の姿はなかった。
……あのバカ。
ちゃんと外に出るなら目的地を教えないと。
「ま、でも意味ないか」
捕まったって言うなら多分私が向かうべき場所は決まってる。
転生庁だ。世界がひっくり返っても、そこら辺の路地にいるわけがない。
……いや、ひっくり返ればもしかしたらいるかもしれない。
「……どうしよ」
空を見上げて、呟く。
馬鹿なことを考え始めた頭を冷やして状況の整理を始めた。
「……うーん」
冷静になったのはいいものの、この状況をなんとかする作戦は思いつかない。
だが、逆に選択肢がないというのは救いでもあった。
「まあ、助けに行くしかないよね」
誰かに頼るわけにはいかない。
紘彰以外に知り合いなどいない。
残された選択肢は紘彰を見捨てるか、助けに行くか。
それならば、私が選ぶ選択肢は決まっている。
「よし、そうと決まれば体力回復。美味しい飯でも食べに行こ」
間抜けな紘彰はありがたいことに財布をホテルに残して捕まった。
前借りしろという神からのお達しに違いない。
「付近で美味しい料理店急募、っと」
呟きながらツイートをする。
もちろん、大した答えが返ってくるとは思っていない。
おすすめの場所に行く気もない。
店の迷惑にもなるし、私の身を危険に晒すことにもなる。
ただ呟くだけでも暇つぶしにはなるし、なによりこのタイミングで私が生存報告をすることは特別な意味を持つ。
「私はまだ捕まってないんだ。勝手に旅は終わらせないよ」
紘彰は捕まった。
けど、そんなの大した問題じゃない。
そもそも危険視されていたのは私だ。
私をどうにかしない限り、転生庁は仕事を終えられない。
通知欄に続々と表示される戯言を流し見しながら、付近のレストランを自分の足で探す。
特に好き嫌いのない私が求める唯一の条件は『空いていること』のみ。
さっさと腹ごしらえを済ませて、助けに行こう。
……あ、出来れば飲み物はコーヒー以外が良いな。
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