57 言葉を交わすよりも前にそれが誰か確信することはたまにある
♡dhiluna
まるで棒倒しの様に、私に群がる機械人形。
その全てからカウントダウンのような電子音が聞こえてくる。
普段からこういった規則的な音にイライラしているわけじゃないけど、360°全体から同じ音が鳴っているとノイローゼになってしまいそうだった。
「重い……」
なんでこんな意味分からない状況になってるんだか。
私を囲う化け物たちを辛うじて押し返しながら、周りを確認する。
プラネタリウムを彷彿とさせるような暗闇。
あまりに重すぎる機械人形に頭上すらも囲まれたことによって私の視界は真っ暗になっていた。
私が閉所恐怖症だったら発狂してるところだ。
転生庁には配慮が足りてない。
「……ねえ、まだ?」
返事はない。
まあ、そりゃそうか。こいつら機械だし。
にしたって何も起こらない。ただ一秒ごとに鳴る電子音を聞かされるだけ。
私の集中力をただただ削ってくるような状況に、段々とイライラしてきた。
「おーい」
呼びかけるがまた返事はなし。
うーん、壊すのは簡単なんだけどなぁ。
でも、それじゃ意味がないんだよね。
こいつらが何をしたいのかも分からないままだし、こいつらの武力を圧倒したことにもならない。
ギミックが発動する前に壊されたとなれば、今度は確実にギミックをあてに来るだろう。
そんなのは待っていられない。
「にしても長いな」
カウントが鳴るだけで何も起こらない。
目の前に餌が置かれているのに、一向に食わせてもらえないみたいな感じだ。
あれだ。いわゆる焦らしってやつだ。
「え、まさかそういう作戦?」
何か起こると見せかけて精神的に追い込む。
なるほど。確かに私に最も効くやり方かもしれない。
「まあ、でもそんなわけない」
この鉄の塊に閉じ込めておけるなんて絵空事を、転生庁様が思い描くわけがない。
ここに閉じこもっているのは私の意思。
ならば、私の飽きが来ないうちに何か起こす必要がある。
「流石になんか起きるでしょ」
さて、どう来るのか、と楽しみに待っていると、『ピィー』という大きな大きな電子音が耳に入った。
「お!」
きた!
私の輝きに負けないくらいの光が全方向から私に注がれる。
鉄の塊から次々に光の線が漏れ、この場は暗闇ではなくなった。
「スポットライトじゃん!」
惜しみなく注がれるロボットどもからの光。
大変喜ばしい状況だが、流石にこの距離からの爆破は見過ごせない。
私がいくら最強だといっても、体はか弱い少女だ。
これは謙遜じゃない。ちゃんと脆いしちゃんと死ぬ。
「出来れば普通に受けたかったけど、流石に無理だよね……」
真正面から、君たちの攻撃を受けてみたい。
そんな思いがないわけでもなかったが、さすがに耐えられなさそうだ。
光の繭に籠りながら、ゆっくりとその時を待つ。
直後、目の前が真っ白になった。
おかしな話だが、光の繭越しに外がまばゆい光を放っているのが分かる。
まあ、自分の出す光と他人の出す光ってやっぱ違うよね。
他人の匂いには敏感で、自分の匂いには気づけないみたいなものだ。
「あ、落ちる」
引っ張られる感覚。
体全体に重力がかかる。
地球と一体化したいと心が叫んでいる。
重力がかかってるってことは、爆発は終わったってこと。
光の繭を解いてゆっくりと目を開く。
「おー、壮観だね」
まず視界に入ってきたのは、落下するホテルの残骸たち。
私がさっきまで足をつけてた地面だ。
「被害を過度に恐れてるのかと思ってたけど、そんなことはないんだね」
見直したよ。
このホテル自体を犠牲にする度胸があるとは思っていなかった。
相当な火力の爆発だったらしい。
ホテルは屋上から地面まで綺麗に使い物にならなっている。
「さて、どうしようか」
立派なホテルの瓦礫と共に落下する私。
流石にホテルと心中する気はない。さっさと態勢を立て直さねば。
「にしても、瓦礫と一緒に落下してる
どっかにカメラマンでもいないかな。
ピースサインくらいのファンサならするよ?
「ま、そんなこと考えてる暇ないか」
自由落下に身を任せたまま頭を働かせる。
「空中機動が出来ないわけじゃないけど、どこに行こうか」
私の空中機動はほぼ直線。
超長距離を飛ぶのでなければ、飛んだ時には既に目標地点を決めてなきゃいけない。
不便だ。
まあ、でも普通に考えて光って曲がらないし、仕方のないことなのだろう。
「時間ないんだよなぁ」
爆発によって、打ちあがったお陰である程度の余裕はある。
だが、パラシュートなしの落下速度も尋常じゃない。
さっさと目的地を決め――
「――殺気!?」
突如、私に届く一筋の視線。
殺気の籠ったその視線は今度こそスコープ越しに届けられている。
……届けられてるよね?
さっきの誤認でこっちはちょっと自信を失ってるんだ。
「にしても、何する気なんだ?」
私と一緒に落下する沢山の瓦礫。
非常に邪魔だが、それは向こうからも同じはず。
何だ?
やっぱりただの野次馬なのか?
私の頭が混乱してきた瞬間だった。
――ドォン。
覚醒を促すかのように鼓膜に伝わる銃声。
それが私に向けられたものであることを理解し、ニヤリと笑う。
「……やるじゃん」
私の周囲を飛来する無数の瓦礫。
その数々が複数の爆発によって、不規則な跳び方をしている。
つまり、私は非常に強固な守りの中にいるわけだ。
この守りは私には予測できず、おそらく奴らにも予測できないランダム性のカタマリ。
「無茶苦茶だ」
思わず呟いていた。
心の底からの賞賛。
まさかここまでの精度を誇る狙撃が出来るなんて。
全ての隙間を縫って、こちらに届く一筋の弾道。
完璧に私の頭を抜く軌道をしている。
勘が良いとか目が良いってレベルじゃない。
「大層な名前を背負ってるだけあるじゃん」
さっきの垂直ジャンプに合わせた狙撃とは訳が違う。
正真正銘の超難度射撃。
もし紛い物だとしてもいい。
お前が人類の希望ではなかったとしても。
「そこまでやれんなら、それ相応の実力はあるってことでしょ」
空中でくるりと回って方向転換。
私と一緒に落下する瓦礫に足を乗せた。
「行くよ。敵意があるってことは準備は出来たってことだよね?」
今度はフェイクじゃない。
正真正銘、スコープ越しの視線。
こっちからは見えないが、あっちからは私の顔が完全に見えているはず。
ニコリと笑って挨拶を済ませた後、瓦礫を蹴り飛ばし前への推進力を得る。
「せいぜい楽しませてよ」
弾丸を弾き、目標を定める。
壁一面開けっ放しの開放感溢れるビルの一室。
まるで『いらっしゃいませ』と歓迎するかのような場所へ。
「おっ邪魔しまーす!」
元気よく挨拶しながら、奴の待つ聖地に足を踏み入れる。
「邪魔なのは元からだ」
広い部屋に唯一人。
私の追い求めていた人物は逃げるでもなくただそこに佇んでいた。
「ははっ、手厳しいね。まあ、でも悪くない」
確かに君達からしたら私は邪魔以外の何物でもないのかもしれない。
でも、そんなこと関係ない。
「やっと会えた。君に会いにここに来たんだよ」
完全な密室に私と人類の希望二人。
これこそが私の思い描いていた構図。
世界に感謝しながら、私は一歩歩みを進めた。
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