54 自信過剰になってはならない。けれど自信は持たなくてはならない。

❤delluna


 現在時刻11時53分。

 歩くのは面倒だったが、頑張ってホテルからもディズニーからも離れた場所まで来た。

 

 私偉い。

 これで、ここから飛んでも紘彰の位置がばれる心配はないはず。


「よし。行くか」


 ほっぺを叩いて気合を入れる。

 これで準備完了。


「せーの」


 呟きながら足に力を入れる。

 目的地へ視線を動かし、飛ぶ方向を確認した。


「飛べ」


 息を吐くとほぼ同時。

 空と体を同化させ、流星となる。

 その後、即座にメインエントランスに辿り着いた。


「五分前しゅーごー!」


 両手を使って伸びをしながら叫ぶ。

 

「うーん、相変わらず広いねぇ」


 誰もいないメインエントランス。

 たぶん、噂の転生庁様が私のために特等席を用意してくれたのだろう。

 気の使えるやつだ。


「やるね、転生庁」


 だけど、特等席にはそれだけの対価がいるらしい。


 飛んだのは一瞬。

 実は最速で飛行した場合、周囲の景色を確認する余裕なんてない。


 けど、それでも分かった。

 奴らは相当な準備をして来ている。


「思ってる以上に手厚い歓迎だ」


 たった一人に対する囲いとは思えないほど大袈裟な包囲網。

 どうやら私のことを相当買ってくれているらしい。

 まあ、これでも足りないけど。


「おーい! 人類の希望さーん! もう約束の時間ですよー!」


 集合時間になるというのに、奴の姿は一切見えない。 

 なんという礼儀知らず。

 開口一番に説教してやらなくては気が済まない。


「ねえー! ちゃんと動画見ましたー?」


 虚空に向かって叫んでみる。

 すると、私のもとに何か投げ込まれた。

 

 なんだろ。

 綺麗なタイルの上を滑って足元まできたそれを手に取る。


「なにこれ?」


 手に取ったそれは、カラオケなどでよく見るタイプのマイク。

 何て名前だっけ? 


 多分元から覚えてなどいないけど、なんとなく頭の中を探ってみる。

 探ったうえで、別のことに気付いた。


「てか、なんで?」


 どうしてこんなとこにマイクが?

 歌ってほしいの?

 いや、そんなわけないか。


 うーん、と唸っていると回答はどこからか返ってきた。


『それを使え、ヒカリ』


 男の声だ。

 どこから? 


 周囲を見回してもそれらしきものは見えない。

 テーマパークそのもの。

 何か変わったものを。


 ちょっと悩んですぐに気付いた。


「ああ、そっか。元々話しかけるものはあるか」


 館内にはいつもBGMが流れている。

 死ぬほどスピーカーがあるって言うのは当たり前の話だ。

 ただ、気付いたところで納得はしない。


「ねえ、私はこういう対話を求めてるんじゃないんだけど」


 マイクを口元に当て、返事をする。


『対談の場は用意出来ない』

「えー? いいじゃん。別に殺したりしないって」


 仲良くはなそーよ。

 なんでこんな面倒な方法を取るの?


『我々はその言葉を信用できない』

「はあ……、つくづく分かり合えないね」


 殺さないって言ってるじゃん。

 なんでそんな私のことが信用出来ないかなぁ。


 まあ、いいや。

 私を殺せるなんて驕ってる君達を説得しなきゃならないみたい。


「良いよ。じゃあ、君達の全てを屈服させたらその時はちゃんと会話してね」

『了承しかねるな』


 うるせえ、バーカ。 

 さっさと了承しろ。


「んじゃ、こっちから行くよ。君がこの世界のエースならきちんと楽しませてよね」


 マイクを投げ捨て、臨戦態勢へ入る。


『さよならだ、ヒカリ』

「やってみろ雑魚」


 直後、開戦を告げる様にグレネードが私の足元に投げ込まれた。

 完全な球体ではないそれは、不規則な転がり方をした後、光る。


 ――炸裂音。

 目を焼く光と共に、投げ込まれたグレネードが爆発した。

 白色の煙幕が展開され、私の視界が狭まる。


「煙か」


 まあ、手榴弾だとタイル壊れちゃうもんね。

 そりゃ、スモークグレネードになるか。


 でも、視界を消したところで意味はないはず。

 なんで? 

 ああ、そっか。

 知らないのか。


 メインエントランスはほぼ平地。

 さらに私は視線を読める。こんなの意味ない。

 そこまで考えてハッとする。


「いや――」


 ――違う。

 これはただの煙じゃない。

 

「――毒か」


 呼吸に違和感がある。

 吸い過ぎるとたぶんやばい。


 危険を察知した私は咄嗟に真上に跳ぶ。

 晴れた視界と新鮮な空気を堪能しながら、首を回した。


「どこだ、人類の希望」


 隠れてないで出てきなよ。

 私は逃げも隠れもしないんだ。


 私にサーチ系の能力はない。

 顔や名前を浮かべるだけで、その者の位置が分かるなんて便利なものはない。


 けれど、視線は分かる。

 集中して周囲の状況を確認した。


「やっば、視線多すぎ」


 おい、ふざけんな。

 私一人にどれだけの戦力をつぎ込んでんだよ。

 どっかで暴動でも起きたらどうするつもりなんだ。


「――ッ!」 


 ――殺気。

 明らかに他より強い視線を感じ振り返る。


 なるほど。

 確かに人間なら空中は格好の餌食だ。

 翼のない私は身動きが取れないと踏んだか。


「良いね。そうこなっくちゃ」


 周囲に光球を発生させる。


 直後、轟音。

 私を狙った一筋の弾丸は届くことなく消失した。


「でも、残念」 

 

 ピンポン玉程度のそれは、私の体を常に防御し続ける。

 いつ狙撃しようとも、私にそれが当たることはない。


「悔しかったら光の速度を超える狙撃銃を持ってきな」

 

 そうでなくちゃ私は仕留められないよ。  

 

 ニヤリと笑い、周囲を確認する。

 早まったな、人類の希望。


 君がいくら隠れていようとも、撃てば場所は割れるぞ。

 それが狙撃手の弱点じゃないか。


「そこか」

 

 強い強い視線。

 

「今迎えに行くよ」


 その視線の源に君はいるんだろ。

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