26 示し合わせたわけでもないのに、惹かれあうことはよくある
ディルナという再転生者がつい最近出現したばかりだからか、はたまたそもそも避難に慣れているのかは判別がつかなかったが、周りの住民は実に慣れた様子で避難を始めている。
「さっさと逃げるぞ、ディルナ」
俺達もそれに
「おい、どうした」
服の袖を引っ張って、避難を促すがディルナの体はびくともしなかった。
嫌な予感がする。
常識がついてきたととはいえ、まだ一週間程度の知識だ。何をしでかすか分からないディルナをここで野放しにするわけにはいかない。
「本当に逃げていいの?」
「どういうことだ?」
「だって、こんな機会ないよ。今、歪みの中心に走れば絶対に再転生者に会えるってことでしょ?」
何を言い出すんだ、この馬鹿は。
会える? そりゃ当たり前だ。でも、会ってどうする。
「自分が指名手配されてるって忘れたのか? しかも、今回は絶対に転生庁が出動してる。今までとは話が違うんだ」
「そんなの分かってる」
「分かってるならなんで――」
「――私は再転生者だ」
俺の言葉を遮って、ディルナが印象付けるように強く言う。
ディルナの発言はきちんと聞き取れた。
しかし、意味が分からない。お前が再転生者だからどうしたというのだ。
そんなの最初から知っている。
「だったらなんだっていうんだ?」
「私にとって彼らは同郷ってこと。仲間なんだよ。たとえ違う世界でもね。それに私自身でさえ、再転生者って存在をはかりかねてる。それを解決しないなんて有り得ない」
ディルナは俺の目をじっと見て語る。
その言葉が本心なのは疑いようもなかった。
しかし、こちらとしても意見を曲げるわけにはいかない。
同郷といっても、大したつながりがあるわけでもないだろう。
そんなもののためにリスクは取れない。
「ダメだ。今ここで目立つことは得策じゃない。そもそも相手も再転生者なんだ。俺達が殺される可能性だってあるだろ?」
「いや、それはありえない。私はこう見えて相当強い。これは間違いない」
なんだ、その自信は。
理由を問いただしたかったが、きっと聞いたところで俺に理解出来るものではないのだろう。
「……再転生者に会ったら何か収穫を得れる確証はあるのか?」
「そんなものはないよ」
「だったら――」
「でも、会ってみないと何も始まらないでしょ」
確かに、その通りだ。
会ってみないと情報が得られるかどうかなんて分からない。
けれど、今の俺達にそんなリスクをとれる余裕なんてないんだ。
――そんなことを言おうとしたところだった。
風を切る音とともに嫌な雰囲気が近づいてくる。しかし、そんなことディルナは興味がないのか、それとも最初から分かっていたのか見向きもしない。
こちらをじっと見つめたまま言葉をつづけた。
「知りたいの。私たちが何なのか」
言葉の終わりとともにディルナの髪が風に吹かれて激しくなびく。
その嫌な雰囲気がもうすぐそこまで来ていることを示していた。
そして、その嫌な雰囲気が何なのか、誰に教えられるでもなく理解する。
それと同時に自分が非常に苛立っているということも理解した。
苛立ちを発散するために誰も答えてくれないであろう疑問を大声で言い放つ。
「……聞いてねえぞ。なんなんだ! やっぱ能力者同士は惹かれあうってのか!」
人間の形をした、人間ではありえないほどの速度で飛翔する何か。
口喧嘩をしていた俺達の目の前に、そんな化け物が丁度着地したのを視界にとらえた。
会いに行くか、なんて考える必要なかったのだ。そんなものは不毛な議論に過ぎない。
なんせその再転生者が自ら出向いてきたのだから。
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