24 秘密を一人で抱えるのは辛いものだが、かといって話していい事でもない
怒涛だった二日間も終わり、無事に避難指示も解けた。そのほとんどの機能を機械に任せていたラビランドレにも人の手が加わり始める。
つまりは仕事始めだ。
憂鬱になりながら職場に向かっているとなんだかいつもより違和感を覚えることに気が付いた。そうか、人が多いのか。
普段は避難指示の出ている二日間を臨時休暇として家でだらだらと過ごすことしかしなかった。こんなに活発に動いたのは初めてである。
しかし、俺の心境とは違い職場の様子はいつもと変わらない。皆がみな臨時休暇を得てリフレッシュした様子で仕事に励んでいるようだった。
ここまで周りと自分は違うんだアピールを欠かさなかった俺ではあるが実際のところ、ディルナに刺激を貰えたのか仕事はいつもよりスムーズに進んでいた。
我ながら単純な人間である。
「珍しく今回はマジでなんもなかったな」
気さくに話しかけてくる男は前と変わらず佐多である。
確かに、今日の朝のニュースでは何の被害も出なかったとの報道がされていた。
「詳しく見てなかったんだが、なんか重要な報道あったか?」
「いんや、いつも通りだった。『被害が出てないのが珍しい。これも我々が頑張っているおかげだ』みたいな感じだったかな」
「厚かましい奴らだなぁ」
被害が出ていない理由はディルナが温厚だからだ。
転生庁は頑張っているんだろうが、今回の功績は彼らのお陰ではない。
「まあ、でも命かけて仕事してくれてるんだろ? 少しぐらいおおげさに報道したって罰は当たらないさ。個人的には何かしら関係ないところで被害が起きてくれれば休みも伸びて最高だったんだけどな」
休みの件は置いておいて、佐多の言うことはほとんど同意見だ。
警察と違って、転生庁は常に死と隣り合わせである。褒められてしかるべき仕事かもしれない。
「あーでも、そういや不思議なこと言ってたな。今回の再転生者はまだ生存している、とかなんとか」
思わずせき込んでしまう。
佐多が不思議そうにこちらを見ているが今は気にしないことにした。
それよりも冷静になるのが大事。
ここで、今回の再転生者はしっかりと処理しました、と報道するのは簡単だ。しかし、今回わざわざミスを認めた状態で報道している。これは、ディルナのことを警戒しているということに他ならない。
「どうした? 気分でも悪いのか」
「いや、大丈夫。ちょっと驚いただけだ」
首を振って答えた後、気付く。
慌てて誤魔化したが果たしてこれでよかったのだろうか。
正直、今抱えている秘密を一人で抱えるというのは俺にはハードルが高い。
顔をあげると、佐多の不安そうな表情が目に入った。
話しても大丈夫だろうか。答えのない問いが頭の中でぐるぐると回る。
けれど、こんな考えが浮かんだ時点で答えなんて決まっているのだ。
「……なあ、佐多。その話題になってる――」
――いや、待て。
話してどうするんだ。
ただ危険なだけじゃないか。
「……ちょっと知り合いを家に泊めてくことになったんだが、何かしたほうが良い事とかってあるか?」
「うーん。性別によるな。あと、年齢とか」
「俺よりちょっと下で女性だな。好みとは全く知らない」
言葉の途中で佐多の表情が変化していることに気付いた。
「は? お前ひとり暮らしだったよな?」
「……そうだけど」
よく分からんことを言い出しそうな雰囲気をひしひしと感じる。
「そんな奴のもとにわざわざそんな年齢近い女性が泊まりに来るわけないだろ。幻覚でも見てるんじゃないか?」
「いや――」
「――じゃあ、単純に同棲始めたってことじゃねえか。面倒な言い方するやつだな」
……いや、どっちも違うんだが。
まあ、でもいいか。再転生者を匿ってるってばれるよりは随分と良い。
「……同棲を始めたんだが何かしたほうが良いことあるか?」
「とりあえず、生活必需品はそろえたほうが良いんじゃないか? せっかく新生活スタートさせるなら、色々新調したほうが良いだろ」
「まあ、そうか」
冷静に考えれば、俺の家には男性用の服しかない。
まだ二日間しか泊めていなかったからあまりに気にならなかったが、ずっとこのままでは不便だろう。
「今週の土日にでも買いに行けばいいんじゃないか? 幸い、今週は避難指示の影響で、もう木曜日だろ?」
「確かになぁ……」
面倒だし、不安だがこのままディルナに不便を強いるわけにはいかないだろう。
貯めていたお金の使い道もなかったしいい機会かもしれない。
「……行くか」
「良い志だ。今度その同棲相手に会わせろよー」
嫌だよ。
お前は俺の何なんだ。
保護者か。
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