23 大人ぶっている人間が本当に大人かどうかは確かめてみるまで分からない
前書き
22話をかなり早めに読んでくださった方は気付いたかと思うんですが、途中三人称と一人称が混ざったり文章が終わってなかったりと、大変なことになってました。
実は最後のコーヒーを貰う下りは23の始めに入れるつもりだったんです。
そのため、変なことになってました。おそらくそこまで大きく混乱するようなミスではなかったと思いますが一応ご報告を。
前書き終わり
◇
ディルナが老人の元から帰ってきたのは夜十時になった頃だった。
連絡の一つでも寄越せ、と思わないでもなかったが、残念ながらディルナは連絡機器の類を持ち合わせていない。
俺の怒りをぶつける的確な場所は存在しなかった。
「遅かったな」
「ちょっと昔話を聞いててね。凄い参考になったよ」
ソファーに腰を下ろしながら、一息つくディルナ。
いや、一息つくどころの話ではなかった。
横になって、全力でくつろいでいる。
「こんなに長くなるのか?」
「老人の長話を舐めちゃいけないよ。1聞いたら100返ってくるんだから」
「……お前相当失礼だぞ」
「冗談だよ。正直、酒井の話はかなり勉強になったし」
「どんな話したんだ」
「あ、そう! それで思い出した。聞こうと思ってたんだ。転生事変についてちょっと教えてよ」
「は? 転生事変について聞いてきたのか?」
「そうそう。実際に体験したことあるからって話してくれたんだ。それでさ。三度の転生事変について簡単に教えてよ。何が起きたの?」
まさかそんな込み入った話をしているとは。
こいつ自分が再転生者という自覚はあるのか? そんなクリティカルな話題を振れば感づかれる可能性も上がるというのに。
「時系列順に話そうか――」
◇
第一転生事変。
被災地――大規模発電所。
詳細――発電所内に転生した炎の再転生者が暴れまわり、大規模停電を起こした。
第二転生事変。
被災地――大阪を中心とした関西圏。
詳細――サイコキネシスの再転生者が都市部で暴れまわり都市を再起不能にした。
第三転生事変。
被災地――サハラ砂漠。
詳細――砂漠に氷河を作り、生態系を崩した。未だ、その氷の影響は消えていない。
◇
「へー、砂漠を氷河か。なかなか頭のおかしなことをする人もいたもんだね」
「奴らの考えていることなんて俺達には分からん。そもそもなんで奴らは人間を殺すのかすら分からないんだ」
うつぶせで足をバタバタとするディルナ。
おい行儀悪いぞ、お前。
「あー、そういえばそんな話もあったね。でも人によるみたいな話じゃないの? 能力を持ってるから被害が大きいだけで、人間が悪事を働くのと変わんない気がするけどな」
「そうだとしたら、ここまで騒がれないさ」
奴らが人類を殺すのは何か理由がある。
むしろ理由がなくては俺が納得出来ない。
「そういうもんかなぁ」
「そういうもんさ」
凶悪犯罪者の動機が『なんとなく』で済まされるわけがない。
「あ、そうだ!」
大声を出して急に立ち上がるディルナ。
小走りで、玄関の方へ向かい綺麗な紙袋を自信満々に掲げる。
本当にマイペースな奴だな。
「これを見てよ!」
「なんだ、それ?」
「これはかわいいかわいい私が紘彰のためにもらってきたお土産だよ!」
高らかに掲げられたその紙袋にはデザインに富んだ読み辛い文字で『Sakai』と書かれていた。
流石に酒井さんが経営している店の名前だろう。
ちゃんと働いてこれたんだな。
「なんなんだ、これは」
「実は、私もそこまで深く知らないんだよね。多分、美味しいコーヒーが入ってるはず」
「コーヒー? なんでまたそんなものを」
「凄い有名らしいよ。あと、私が美味しくなさそうに飲んだからじゃないかな」
「美味しくなさそうに飲んだから……?」
嫌がらせ受けてるじゃないか。
そんなことをする方には見えなかったけどな……。
意味の分からないディルナの言葉に翻弄されつつ、丁寧に紙袋の中身を取り出していく。
最初は、変なものが入ってるんじゃないか、と疑っていたがどうやらそんなことはないらしい。
「なんか良く分からんけど凄そうだな、これ!」
紙袋に入っていたのは確かにコーヒー。
しかも随分と高そうな包装をしている。
「良く分かんないのになんで凄そうって分かるの?」
「入れ物が豪華だからな。普通のインスタントコーヒーじゃこうはいかない」
「まあ確かに言われてみれば綺麗だね」
完全に素人だから理解があるわけではないが、それでも高級さが伝わってくる。
「せっかくだから飲んでみるか」
「あ、全部は飲まないでよ! 私、それを大人になったら飲むって約束してるんだから」
「大人になったら? ずいぶんと曖昧な基準だな」
「それが約束なんだもん、仕方ないでしょ」
ディルナの言っていることはちょっとよく分からなかったが、「ふーん」と適当に相槌をうった。
「結局、ディルナってコーヒー飲めるのか?」
「いいや、飲めないよ。むしろなんであんなに苦いものを飲むんだろって、いつも正気を疑ってる」
あまりの言い草に言葉を失う。
しかし、それも一瞬だった。
「さすがに言いすぎだろ。そこまで思ってるならなんでもらってきたんだ」
「だって、あまりにも美味しそうに飲むんだもん」
まあ、そうか。
隣の芝生は青く見えるように、美味しそうに飲んでる人を見れば苦手でも飲みたくなるか。
それにしても、これどうやって淹れるんだ?
インスタントしか飲んでこなかったから本格コーヒーの飲み方なんて分からんぞ。
「ずいぶんとゆっくりだねぇ」
手間取っている俺をからかうディルナ。
こいつも出来ないのは明白なのに、生意気な奴だ。
「じゃあ、お前には出来るってのか?」
「出来るわけないじゃん。でも私はそもそも飲まないんだから関係ないんだよ」
ふふん、と威張るディルナに腹を立てながらも見様見真似でコーヒーを作り切った。
そして口をつける。
「どう?」
身を乗り出して、質問をするディルナ。
ニヤニヤが止まらないディルナの顔に少々苛立ちを覚えたが、少しの後、観念し言葉を吐きすてた。
「……高級な味がするな」
俺の言葉を聞いて、ディルナは声を出しながら笑う。
「素直に苦いって言いなよ、バーカ」
うるせえ。
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