17 大きなミスであればあるほど気付いた時にはもう手遅れなことが多い。

 店内には私とニッシーとお客さんと酒井だけ。

 ニッシーは多分馬鹿だし、酒井は料理中だ。

 テンセイチョウという謎の言葉は気になるが、失言したところで気付くのはきっとお客さんだけだろう。

 少し不安だが、私は雑談に混ざることにした。


「今、忙しいんじゃないの? こんなとこに来て良いの?」

「そうだね、束の間の休憩ってとこ。ちょっと野暮用があってね。今それの結果待ちって感じかな」


 机にだらーっと突っ伏すお客さん。

 相当お疲れらしい。

 テンセイチョウとやらは疲れるお仕事なのかな?

 

「どうなの? 目途は経ちそう?」

「うーん、どうなんだろう。ちょっと今回はアクシデントも多いみたいでね。私達が優秀であることは疑いようもないんだけど、相手方もなかなかやるようだよ」

「あー、だから小森さん来てないのか。人類の希望様が活躍しないわけにはいかないもんね」


 人類の希望? 

 なんだその大層な肩書は。

 現代世界にそんな化け物みたいな呼び名がついた人間がいるのか。ぜひ会ってみたい。

 

「まあ、センパイはどちらかというと戦闘員だから、今やることはあんまりないんだけどね」


 水の入ったグラスをコンコンと指で叩くお客さん。

 その後、その指はグラスの側面に着いた結露をなぞった。

 どうやら相当暇らしい。


「それで、愚痴って結局何なんですか?」

「あーそう! 忘れてた! 昨日銀行強盗あったのは知ってるよね? ニュースでもやってたし」


 知ってるも何も起こした本人だ。

 何でも聞いてくれ。答えないけど。


「その銀行強盗でさ、どっかの誰かが監視カメラをぶっ壊すとかいう馬鹿げたことしちゃったわけよ」

「あー、如何にも銀行強盗する馬鹿がやりそうなことだねー。でも、壊される前の記録が残ってるんじゃないの?」

「いい予想だね、西濱。でも、相手は人間じゃなかったんだ。彼らが入る前からカメラは使い物になならなくなってたし、強盗犯は力尽きてた」


 なんでこの客はこんなに詳しいんだ?

 監視カメラが使い物にならないなんていうただ不安を煽るだけの報道をするとは思えない。

 つまり、彼女は何か別のルートで情報を手に入れているということになる。


「まあ、かといって情報がないわけじゃない。強盗犯が犯行現場には腐るほどいたからね。そいつらから事情聴取をしたんだ」


 ふむふむと頷くニッシー。

 

「それによると再転生者は『女のガキ』だったらしいんだけど、最近怪しい人とか見なかった?」


 おかしい。明らかにこの客の知識は常軌を逸している。

 強盗犯から直接話を聞けるだなんて普通の立場じゃない。


「見てないなー。ていうか、その強盗犯ってのは信用できるの?」

「それが難しい話なんだよね。強盗犯ってのは――」



 いや、待って?

 テンセイチョウ。

 テンセイ庁。

 転生庁。

 もしかして、この人、再転生者用の警察的な奴?

 

 後ろの会話を聞き流しながら、考える。

 これは危険。

 しかも、全てを知るアドバイザーである紘彰は今ここにいない。

 

「……どうしよ」


 どうやらこの窮地を自分一人で解決するしかないらしい。

 

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