13 スタンプが増えていくのは思っているよりも嬉しかったりする

「……なんか洗脳的な能力でどうにか出来ないのか?」


 身元を偽造なんて不可能。

 ただの一般人にそんなことを求める前にお前が努力しろ。

 てか、どうにか出来るんじゃないのか。


「いや、私にそんな便利な能力は使えない。私が得意なのは壊すことだけ。治すことも出来ないし、洗脳みたいなテクニカルな能力もない」


 そう願っての質問だったが、どうやら無理らしい。


「……意外と不便なんだな」


 常識を捻じ曲げる様な能力がないと、再転生者は最低限の生活を送ることすら許されないのか。

 冷静に考えれば俺がこいつを匿わなかったら、食事も出来なかったわけだ。

 転生庁が二日間で再転生者を始末してしまえるというのは正しい情報なのかもしれない。


「みんなが全ての能力を使えたらそこに個性なんてなくなっちゃうじゃん。向き不向きはもちろんあるよ」

「いや、そりゃそうなんだが……。再転生者ともなると無限の能力を持ち合わせていると錯覚しちゃうんだよな」


 再転生者は無敵。

 度重なる再転生者の報道や教育によってその考えは人々に定着している。俺も例外ではない。


「まあ、そんなことどうでもいいからさっさと案出してよ」


 うるせえな、こいつ。




 ◇


 


 この世界に存在を許されない再転生者でも出来そうな社会勉強。

 はじめてのおつかいでもさせてみるか、なんて思ったが、それでは彼女の欲求は満たされないだろう。

 となると、飛び入りが出来そうなバイト、ってのがこの馬鹿にあっているわけだ。


「ゴミ拾いが無難かぁ」

 

 三十分ほど、パソコンの前で言い争いを続けた俺とディルナは、現在公園に来ていた。


 非常に単純で、なおかつ他人との交流がある。

 しかも、乱入したところで誰も気にならないであろうやつ。

 そのすべての条件に合致していたのが公園の清掃だったわけだ。


 そこまではいい。

 だけど。


「なんで俺まで来なきゃいけないんだよ……」


 お前が社会勉強したいだけなんだろ。

 俺まで強要するな。


 そう思ったが、この馬鹿が失態を犯す可能性もある。

 不安だった俺は、保護者として、重たい足を動かして公園まで来ていた。

 

「俺達は兄妹。忘れるなよ」

「おっけー、任せて。記憶力には自信あるんだ」

「ホントかよ……」


 もちろん俺とディルナは兄妹ではない。

 知らないだけで実は……、みたいなパターンもあり得ないだろう。

 こいつと生きてた年代ちがうっぽいし。


「今日はこの公園から博物館までの道を散歩しながら道中を掃除していきます」


 目の前で業務内容について説明を始めた白髪の紳士。

 彼がこのボランティアの主催者らしい。

 

 それを表すかのように、広い公園の隅にポツンと固まったボランティア目的の老人達が雑談をやめ、彼の方へ視線を向けた。

 

 どうやら、相当信頼を得ているようだ。

 まあ、それも納得の人当たりだった。


 いきなり飛び入り参加した俺とディルナを非常に快く受け入れてくれた聖人。

 人手は大歓迎。さらに若手となれば断る理由はない。むしろお金を払ってでも欲しいだなんていうお世辞までも言ってくれたほど。


 まあ、ディルナは


『え、お金くれるの!』


 と、うきうきだったが失礼なことを言う前に叩いて黙らせておいた。

 まあ、紳士とディルナでは年季が違う。ディルナが多少失礼を働いたところで、大事になることはないだろう。


「……疲れた」

 

 やりたくもないボランティアを全力で探させられた挙句、参加。

 全く、どんな苦行だよ。

 ため息の一つでも吐いてやろうか、と息を吸った時、すぐ隣まで老婆が近づいてきていることに気が付いた。


「若いのに偉いわねぇ」

「むしろ高齢の体にこそ、こういう力仕事は辛いと思われますが」

「いやいや、老後の運動に丁度いいのよ、これが。それに運動と共に善い行いが出来るって一石二鳥でしょう?」

「確かに!」


 俺の返答の前に、全力で肯定するディルナ。

 恥ずかしいからそういうのやめてくれ。


「ふふっ、元気がいいね」


 老婆の笑い声でより羞恥心を刺激される。

 何か良い言い訳でもないかと頭を動かしていると、目の前の紳士がまとめに入ったのが目に入った。

 

「それじゃあ、準備運動をしましょう。我々、老人はすぐに怪我をしますからね」

 

 幸い、公園にボランティア目的以外の人間はいない。

 十分に広いスペースを取って準備運動をすることが出来た。

 まあ、避難指示が出ているのだから当然と言えば当然のこと。ここに集まっている老人達がおかしいのだ。


 それにしても公園で準備体操か。

 まるで夏休みの小学生にでも戻ったような気分だ。

 少しだけ恥ずかしさを覚えながら、俺とディルナは先人達に倣うことにした。






 

 




 

 

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