11 一日経つと自分の行動を客観的に見てしまうこともある

 再転生者が出現してから二日間は『特別避難期間』となる。

 様々な理由はあるが、『転生庁が再転生者を殺害するまでにかかる平均日数が二日間』というのが主な理由らしい。

 能力を持つ化け物を二日間で殺してしまえる転生庁というのはやはり優秀のようだ。


『昨日の銀行強盗――』

「――あ! ねえ、紘彰。これ昨日のやつじゃん!」


 部屋の中央に鎮座するソファーでふんぞり返ってニュースを見る少女。

 奴も再転生者だが、どうやら例外らしい。

 今日中に彼女が死ぬ未来がどうしても見えない。


「情報はやいなぁー」


 俺が朝食代わりに渡した菓子パンをかじりながら、小学生並みの感想をこぼすディルナ。

 こんなに人畜無害な姿の中に、現代科学では説明出来ない化け物みたいな能力が眠っているというのだから、再転生者というのは恐ろしい。


「随分と警戒してるんだな。どうしたって証拠はあそこに残ってただろうに、お前の情報が出てこない。顔写真の一つでも拡散した方が、発見確率は格段に上がるだろう」

「ん?」

 

 何を言ってるんだ、こいつは。と言わんばかりの目で俺を見るディルナ。

 なんだ。こいつ監視カメラを知らない時代の人間なのか。

 事細かに監視カメラの説明でもしてやろうかとも思ったが、どうやらそういうことではないらしい。


「いや、そりゃ全部証拠消すでしょ。私、視線には敏感なんだ。付近の私達を見てたものは全部壊しておいたよ」

「はあ……?」

「光を扱う能力者だからね。そういう光学系は気になって仕方ないんだ」


 ストーカーとか覗き見とかも一瞬で気付くよ。悪いことは考えないでね。

 家主を脅すという肝の座ったことをしながら、にっこりと笑うディルナ。


「んじゃ、記録には残ってないってことか?」

「だと思うよ。まあ、至る所にカメラが置いてあったわけじゃないからそこまで派手なことにもなってないだろうけど」

「あー、その案は却下されたんだ」

「というと?」


 中身のなくなった菓子パンの袋を丸めてボールの様にするディルナ。

 バレーのトスのように丸まったビニールで遊ぶ。まるでガキだ。


「安全を常に確保するために監視カメラを至る所に設置するっていう案は当然出た。でも、嫌だろ。常に監視されてるってわけだからな」


 再転生者確保には人の目だけで充分というのも理由にはあったらしい。

 ディルナも、俺が通報していればこうはならなかったわけだし、実際監視カメラがなくともそこまで困ることはないのだろう。

 全ての道路に設置するなんていう案は元から過剰だったわけだ。


「へー」


 そんな歴史を踏まえて改めてもっと詳しく説明してやろうとも思ったが、既にディルナの興味は失われているらしい。

 あまりにもやる気のない相槌を聞いて、開いた口を閉じた。


「やっぱ、思ってるよりいろいろ変わったみたいだね」

「そりゃやかんを使ってた時代よりは相当進んでるだろうさ」

「そっかぁ……」


 こいつどれくらいの年数こっちの世界にいなかったのかは知らないが、電気ケトルにすら驚いていたのを見るとそこそこ昔の人間のはずだ。


「ねえ、紘彰」


 そんな考え事をしている俺に声をかけてくるディルナ。


「なんだ?」


 聞き返しながらディルナの方を見て思う。

 無視すればよかった、と。


 こちらに何かをお願いするような媚びた目。

 普通ならばこんなもの恐れる必要はないのだ。

 けれど、目の前にいるディルナとかいう女には常識がない。

 


「私、バイトがしたい!」

 


 ああ、ほらまた頭のおかしなことを言い出した。

 お前、国から追われてんだぞ。ちゃんと状況理解してんのか馬鹿。

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