28 一方面から見た真実が本当に正しいとは限らない

 前書き


 23話以来二回目の前書きです。

 作品も本筋に入っていき、若干視点がぐちゃぐちゃになっていくことが予想されます。


 というわけで少し説明を。

 本作で使う視点は基本的に四つです。


 ♤=紘彰視点

 ♡=ディルナ視点

 ♢=小森視点

 ♧=堀口視点


 上のマークは覚える必要はありませんが一応分かりやすいように冒頭に記しておきます。

 さて、そろそろ本編に戻りますが一応さらに注釈を入れると『28』は『27』の少し前の時間軸のお話です。


 視点移動の回数を減らすために意図的に順番を入れ替えたせいで時間軸に少し齟齬が出てしまいました。

 それでは、本編どうぞ。



 ◇◇


♧1


 いつものように忙しなく動く旗を眺めながら仕事をする。

 しかし、今回忙しなく動いているのは旗だけではない。

 転生庁てんせいちょうにいるほとんど全員が何かしらの職務についていた。

 

 一週間前、ずっと暇そうにしていた私も例外ではない。

 前回の再転生者のように巧妙に身を隠していないのであれば、私達戦闘員の仕事はすぐに回ってくる。


 つまり、今回の再転生者は例外ではないということだ。


転生震度てんせいしんど3、ですか。大したことないですね、センパイ」

「転生震度が世間に公表されない理由知ってるだろ。馬鹿なことを言うな」


 転生庁が独自に利用している転生震度という指標。

 地震に用いられる震度と同様に、十段階で規模を表すが、一般人にこれが公表されることはない。


 何故か。

 指標になる値があるのだからとりあえず公表すべき、と思われがちだが実際のところそうはいかないからだ。


 そもそも転生震度が計測しているのは『再転生者の潜在魔力』。もちろん魔力量が高ければ高いほど出来ることは多い。しかし、一番重要なのはその用途だ。


「前回8だったんですから、3だと物足りなく感じるのは当然でしょ」

「だからと言って油断はするな。そもそも我々は8を討伐したわけではない」

「まあ、それはそうですけど……」 


 例えば、再転生者が節約家であれば、少ない魔力で大規模な被害を起こすことだって可能だろうし、そもそも能力が戦闘向きでない場合もある。


 つまり、転生震度だけでは不明瞭な点が多すぎる。

 よって、転生震度は一般に公表されることはない。

 

「んじゃ、そろそろ出ますか」


 私は、部署に設置してある全員分のの中にある自分自身の遺影に礼をする。同じように隣にいたセンパイも自身の遺影に挨拶を済ませた。



 『いつ死んでもおかしくない』



 これは転生庁の大原則だ。

 相手取るのが未知の怪物。生物としてのスペックが明らかに違う。

 他の死の危険がある職業とは違い、事故が起こった場合のみではなく、常に死と隣り合わせ。

 

 それを理解してなければ話が始まらない。

 死の危険、というのを明確に意識させるために転生庁に勤める人間は全員、遺影を用意する。

 もちろん遺言もだ。


「センパイまた更新してるじゃないですか。それ四年に一度でいいんですよ」

「相変わらず緊張感のない奴だな。これを目の前にしてそんな軽口を言うなんて、罰当たりだぞ」


 入社時にまず遺影を撮影するのだが、それを退社するまでずっと使い続けるわけにはいかない。

 だから、四年に一度、免許更新のように遺影を撮りなおすのだがセンパイの更新頻度は群を抜いて多い。

 

 センパイの更新速度はわずか一年。

 どう考えたって撮りすぎだ。何をしてるんだか。


「だって、そんなことしてるのセンパイだけですよ。一回、良い写真撮れたらそれでいいじゃないですか。次撮ったからって良いの撮れるとは限らないですし」

「……いつ死ぬか分からないんだから備えるに越したことはない」


 訳の分からないことをセンパイがしみじみと呟いている。


「何言ってんすか。センパイが一番優秀なくせに」


 あなたが死んだら全員死ぬでしょ。

 人類の希望様がなんとも弱気なもんだ。


「そんなことはないさ。たまたま俺が結果を残しているだけだ」


 そんなに謙遜しなくてもいいのに。

 事実として、センパイがこの地位についてから大規模な被害は出ていないのだ。この人が優秀であるというのは疑いようもない。

 


 ――まあでも確かに、そこまで優秀なセンパイでさえ覆せない絶対の原則がある。


「そんな俺よりもっと優秀なのが再転生者という存在だ。それを常に忘れるな」


 あくまで私達は数の暴力を行っているに過ぎない。

 それは確かだ。

 やつらが単身であり、単純だから勝利を収めている。 


「分かってますよ」


 はいはい、と面倒そうに返事をしながら、私は胸につけているバッジの角度を直した。


 胸についているのは、誇り高き転生庁バッジ。

 転生庁に勤める選ばれたエリートしか着用することの許されない極めてレアなバッジである。もちろん複製することは重罪。


 有事の際、『統制が取れるように』と簡単に見分けられる特徴を付与した結果がこのバッジである。

 有事の際は制服ではなく、バッジをつけることが通例。


 なんでそんな面倒なことを、と思ったことだろう。

 実際私も思っている。


「まあ、でも理由があるなら仕方ないか」


 この世界について何の知識もない再転生者といえども、さすがに同じ格好をした人間に囲まれると違和感を覚えるはずだ。

 そう考えた偉い人は制服ではなくバッジを用意した。


 これによって、再転生者は見分けがつかないが、一般人なら見分けがつく程度の特徴が確立されたわけだ。


「それにしても、私としてはいまだに捕まってない不届きもの方が気になりますけどね。変なことにならなきゃいいですけど」

「分かりやすくフラグを立てるんじゃない。さっさと出るぞ」


 未だに捕まっていない不届きものについて一抹いちまつの不安を残しながら、私とセンパイは転生庁を後にした。

 

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る