6 フラグじみた言葉は多すぎてすべてを避けるのは不可能かもしれない

 歓迎会をしよう、と意気込んだところでお金がなければ買出しにも行けない。

 というわけで、我々は最初に向かうべき場所――銀行に来ていた。

 

「本当に人いないね。もしかしたら君が私を騙してるかも、なんて考えてたけど杞憂だったみたい」

「横にテレビあるだろ。そこにすべてが映されてる。それに、こうやって無人の銀行で俺が金をおろしてるのが一番の理由」


 警報発令時は、基本的にすべての仕事がストップする。よって、普段は有人の銀行も今は無人。

 しかし、これは想定の範囲内。

 こういう事態に備えて、基本的にこの都市は無人でも稼働するようになっている。

 その証拠に、壁に掛けられているテレビは警告を続けていた。


「みんなちゃんと避難してるんだね。こういう時って自分が蚊帳の外だと勘違いして、避難しない人がいるイメージだったけど」

「まあ、いるにはいるだろうさ。けど、みんな案外記憶に刻まれてるのかもな」

「……何が?」


 首をかしげて、オウム返しする少女。


「ああ、いや恐怖が記憶に刻まれてるって話な。再転生者がこうやって災害扱いされだしたのは最近になってからでもないし、突然でもないんだ。ちゃんと歴史がある」

「へー、そいつは興味深いね。何があったの?」

「君達みたいな再転生者のためにつくられた造語に『転生事変』ってものがあってな。主にこれのせいで君達は恐れられてる」


 『転生事変』と呼ばれる『再転生者』が起こした未曽有の大災害。

 未だ三度しかこの名を冠した災害は起こっていないにも拘わらず、転生事変による影響は計り知れない。

 

「実際に俺が体験したわけじゃないが、映像を見れば再転生者ってのがいかに恐ろしいもんかってのは理解出来ると思う」

「うーん、でも理解出来ないなぁ。なんで、先人は人を襲ってるんだろう。普通に考えて襲う理由なくない?」

「何か相当な恨みでもあるんだろうさ。それか、何か呪いがかけられてるみたいな。俺を殺したくなったり、何かを壊したくなったりしないか?」

「なにそれ、ならないよ。もしかして、私のことサイコパスだとか勘違いしてたりする?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」


 明らかにおかしいのは俺。

 初対面の少女に向かって殺人衝動の有無を聞くなんてどうかしてる。

 そんなことは分かっているというのに、納得のいっていない自分がいた。

 

「まあ、良いじゃん。そんな難しい事なんて今考えたって意味ないよ。あなたが知らないなら、私が知ってるわけないんだし」

「そりゃそうか」


 今答えは出ないのだ。

 考えても仕方がない。 


「でも、不安だね」

「何がだ?」

「こういう災害時って空き家被害が多いとか聞かない? しかもここって銀行でしょ? 真っ先に狙われそうな気もするけど」

「……確かに」


 盲点だった。

 災害時にわざわざ外に出るような変わり者ではない俺にとって、再転生者来訪時の外界は未知。

 隣に警報の原因がいるのだから安全だと思い込んでしまっていた。

 言われてみればそういった被害があると、耳にした記憶がある。


「まあ、でももうやること終わったんでしょ。じゃあ、もう大丈夫じゃん」


 外から様子が分かるように、ガラス張りになっている銀行の壁。

 にっこりと笑う少女の方に目を向けると、外の様子がしっかりと確認できた。


 全く、この少女は常識がなってない。

 異世界帰りだからってやっていいことと悪いことがあるんだ。

 じゃあ、もう大丈夫じゃん。だと? 


「……そういうフラグじみたセリフは言っちゃダメって異世界じゃ教わらなかったか?」


 少女の背中越しに見えるフルフェイスマスクの集団。

 どれだけ好意的に考えても、やつらが穏便に銀行を利用しに来た客だとは思えなかった。 

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