再転生者『ヒカリ』

ディルナとの出会い

3 転生者はもう既に珍しい存在ではない

 転生都市ラビランドレの片隅。

 首都を想起させるような摩天楼が立ち並ぶ端っこのビルが俺の勤務先。もちろんここは首都ではない。

 日本の首都は変わらず東京。

 けれど、この都市は負けず劣らずの景色を見せていた。



 しかし、都市が凄いからと言ってそこに住む人間も凄いわけではない。

 会社の社内食堂。

 一人寂しく、料理をつまみながらテレビを見ているのが俺だ。

 おかずを箸で持ち上げると、様々な人が見れるように壁に埋め込まれた大きな液晶テレビから音声が聞こえてきた。


『第四地区にて魔力の増大が見られました。転生者に遭遇する可能性が非常に高いです。転生者に遭遇した時には慌てず身を隠しましょう』


 まったく物騒な話だ。

 昼食を食べるついでに流し見しているテレビは『転生者予報』なんて馬鹿げたものをしている。けれど、必要なのだ。


 彼らに会わないで済むのであれば会わないほうが良い。

 この考え方はもう既に一般常識と化している。


 社内食堂で流れているテレビ番組の中では、おそらく視聴率が一番高いんじゃないだろうか。

 現代人は『天気予報』なんかより『転生者予報』を重視しているなんて統計も出ているくらいだ。


「物騒な世の中になったなぁ、勝木かちき


 一人寂しく昼食を食べているところに空気を読まず話しかけてくる男が一人。

 おいしく食べているのだから邪魔はしないでほしい。


「一番危機感なさそうなお前からその言葉を聞けるとは思わなかったな」


 声をかけてきた男は佐多修二さたしゅうじ。同期のよしみでそこそこ仲良くさせてもらっている。陽気な性格とは裏腹に、仕事には真剣な男だ。


「俺だって危機感は持つさ。転生者に殺されるなんて笑い話にすらならない」


 異世界に転生し、その後もう一度こちらの世界へ転生してくる者たち。

 彼らを総称して『再転生者』と呼ぶ。

 彼らはこの世界の原理では説明できないような無茶苦茶な力をその身に宿し、この世界の災厄となった。


「防災意識が足りてないって思われちまうだろ?」


 はたして再転生者に殺される原因は防災意識なのだろうか。少し疑問に思ったが、大した問題ではないのでスルーした。


「んで、何の用だ? 何の用もなく話しかけるような奴じゃないだろ?」

「あー、そうだった。昼食を健気に食べてるお前にお知らせがあったんだった。今日はもう帰れるぞ」

「は? なんで」


 佐多は俺の質問に言葉ではなく、指さしで答える。人差し指の先に視線を移すと辿り着いたのは先ほどまで見ていたテレビ。

 テレビには目立つようにでかでかと『再転生者出現――転生警報発令』と表示されている。


 なるほど。警報が出たのか。

 なら、会社は社員を帰さないわけにはいかない。ありがたく休ませてもらうとしよう。


「避難するか?」

「悩みどころだな……」


 『緊急転生警報』。

 他の緊急警報と違い、注意報などと併用しその危険度を表すものではない。

 ただ単純に、再転生者がこちらに来たということを示すもの。

 彼らは来ただけで、警報に値すると現状評価されているというわけだ。

 

「まさか避難しないつもりか?」

「だって、どうせ会わないだろ。せっかくだから家に帰って寝たい」


 地震や津波などの、他の警報と同格とされてはいるものの、あくまで警戒すべきは現れた再転生者ただ一人。

 俺にはどうしても無差別で広範囲の他の災害と同じとは思えなかった。

 

「楽観的だなぁ。人に向かって危機感なさそうなんて言葉を吐いた人間とは思えん」

「疲れてるんだよ。もし会って死んだら仕方ないさ。運が悪いと割り切ろう」


 やばすぎ、と佐多は笑った。頭のおかしい奴であるという自覚はある。ただ、本当に疲れているのだ。顔も名前も分からない転生者なんかに俺の休息は止められない。

 そもそも家と会社は歩いて帰れる距離。

 流石に会わないはずだ。


「んじゃ、俺は避難するから気をつけて帰れよ」


 こういう時だけ真面目なんだよなぁ、と佐多のことを少しだけ尊敬した。

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