漲る国


 短い草が疎らに生え、石が転がる平原の中の道を、小さな一台の車が駆け抜けていた。その車の運転席には少女がおり、助手席には灰色の猫がいた。後部座席には荷物が積まれていた。


 平原にあった“それ”を見て少女は思わず


「何あれ…」


 と呟いていた。鉄か何かで出来た板のような物がズラリと並んでいた。


「サクラ、あれはソーラーパネルだよ」


 助手席の灰色猫が少女に向かってそう言った。サクラと呼ばれた少女は聞き慣れない単語に首を傾げて


「シロ、それどういうもの?」


 猫にそう聞き返していた。シロと呼ばれた猫が再び発言する。


「簡単に言うと、太陽の光を使って電力を作るものだよ。これまで電気を使っている国が何度かあったでしょ?ああいう電気を生み出す為の装置だね。これ以外にも色々あるけど」


「じゃあ今回は技術の発達した国?フカフカの布団あるかなぁ…」


「サクラの頭の中はコットンで出来てるの?…ごめんごめん冗談だから拳銃に手をかけるのやめて下さいお願いしますまだ死にたくない」


 暫くすると、国が見え始めた。しかし…



 「では、入国を許可します」


 入国審査の最中、サクラは不思議な感覚に襲われていた。国を覆う筈の防壁が存在せず、申し訳程度の木の柵があるだけだったのだ。更に国の内部も大した建造物も無く、とてもソーラーパネルを使うような先進国には見えない。


「変だね。ソーラーパネルを持ってるのに、防壁を作る技術すら無い国なんてさ。投資するところ間違えてない?」


「多分違うのよ。ソーラーパネルは放置されていたもので、この国にはそれを活用することが技術的に出来なかった…ってところかな」


「サクラ、いつか言ったけどやっぱり探偵しよう」


「あれ、またシロを出し抜いたの?」


「…」


 あれこれと話しながらサクラとシロは国の中を回る。しかし、道路は砂利道で家は煉瓦造り。挙げ句の果てには田畑が広がっているだけだった。サクラはやはりソーラーパネルを使える文明国家には見えないと感じていた。シロはフカフカのベッドで寝られないサクラが激昂して暴れないかと思っていた。危惧半分、期待半分に。


 結論から言うと、サクラはフカフカベッドで寝ることが出来た。元々農業の盛んなこの国には農家が多く、当然ながら羊農家も多い。その為良質なウールが生産されていた。宿に着くと、サクラは晩御飯と入浴を高速で済ませて即刻寝た。シロは安心したような落胆したような目で、突っ伏して寝るサクラを見ていた。


 翌日にはこの国の長と面会することになった。サクラとシロは車で宿から国の中央部に行った。中枢だからか建物は多少建ってはいるが、やはり文明国には見えない。



 サクラは国長に周辺国の情報などを包み隠さず話した。別に本当の事を言う必要が無いことはサクラもシロも分かっていたが、彼らのプライドが許さなかった。


「情報の提供、感謝します。…こちらから何か語るような事はありますか?」


 ここぞとばかり、シロは聞いた。


「国の近くにソーラーパネルがあったけど…」


「やはりそれですよね。ええ、これまで幾度となく旅人に聞かれているので分かっていますよ」


「おっ、じゃあ説明してー」


「良いですよ。あれは…



 国民のパワーを作る装置です」



「…はい?」


 サクラは思わず首を傾げていた。シロが言うにはあれは電力を生み出す装置であって、人間のエネルギーを生み出すものではない。しかし国長は自信満々にそう言っている。


「もう少し詳しく説明してー」


 シロが促すと、国長は満面の笑みで答える。


「ええ、寧ろ早く説明したくて仕方ありませんよ!元々あの装置は我々のものではありません。我々は何百年も前からここに住んでいるのですが、ほんの数年前まであの装置は確認されていませんでした。しかし四年前、丁度私が国長となった直後にあれが発見されたのです。実はあの周辺は悪魔の土地と呼ばれ代々触れずに居ましたが、他に土地が無いのでやむを得ず農地を増やすべく周辺を探索していた時に見つけました。最初は皆謎の装置にひやひやしていたのですが、とある商人からエネルギーを生み出す装置であることを聞きました」


 サクラは、その商人の言葉不足か国長の理解力が欠如しているのかどちらかだと思った。勿論、馬鹿正直に言ったりはしなかったが。


「それ以降、我々はあれのお陰で生活出来ています!日が上がればあの装置は作動し皆を元気にしてくれます!逆に雨の日は装置が動かないので強制的に休日になります。我が国の平日、休日はあの装置に左右されていると言っても過言ではありません!」


 国長との面会の後、サクラは国を後にした。


 そして、当てもなく道を走る中でサクラとシロは話していた。


「ねぇシロ。あの装置、誰が作ったの?」


「恐らくずっと昔ここに住んでいた人達。ここの近くって石が沢山落ちてるでしょ?ここに何かしら大きな国があったけど滅んだってところかな?」


「でも、見つけたのは今の国長さんが就任してからじゃないの?」


「予測だけど、これまでの国長の時に既に発見されていたんだよ。でも、未知の物体を恐れたのかな?悪魔の土地と呼んで国民に隠し続けてきたんだよ。でも、今の国長さんはそこに足を踏み入れて公表しちゃったんだろうね」


 シロの見解が正しいのか間違っているのかはサクラにはわからなかった。


「サクラ、ソーラーパネルが壊れたらあの国滅ぶんじゃない?」



「思い込みで物事を判断しているなら自業自得」



 そう言いながら、サクラは車を走らせた。シロは、昔のサクラがそうじゃないか、と思っていた。勿論馬鹿正直に言ったりはしなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

風の旅人〜美しい世界は醜く出来ている〜 ホシタネ @Hositane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ