ゴールラインの向こう側

GK506

ゴールラインの向こう側

 結婚する事をゴールインと言ったりする。


 結婚はゴールインであり、ハッピーエンド。


 私は今までそう信じて生きてきた。


 そして、私は無事ゴールインして、ハッピーエンドを迎えたのだけれど、それでも人生は終わらずに続いていくのである。


 私の夢は、小さな頃から変わらず、お嫁さんになる事であった。


 周りの子達は、お花屋さんになりたいとか、ケーキ屋さんになりたいとか、アイドルになりたいであるとか、何かしらの職業を夢見る子が多かったけれど、私の夢はずっとブレずにお嫁さんになる事一択。


 だって女の子に生まれたからには、お嫁さんを目指すのは当たり前の事でしょう?


 そして昨日、私は長年の夢を叶えて、晴れてお嫁さんとなったのである。


 ずっとお嫁さんになる事を夢見ていた私だけれど、よくよく考えてみると、その夢の果てを想像した事など一度もなかった。


 ゴールイン。


 ハッピーエンド。


 結婚が人生の終着点なのだと、私は本気で思っていた。


 まさか、結婚が人生の新たな門出かどでだなんて思いもよらなかったのだ。


 私がずっとゴールラインだと思っていた場所は、実はスタートラインだったのである。


 綿密めんみつにペース配分を考えながら、フルマラソンの様に戦略的に歩んできた結婚ゴールまでの道のり。


 それは決して平坦へいたんな道のりではなかった。


 何度も挫けそうになって、立ち止まってしまおうかと思ったけれど、それでも必死に歩んできた道のりだ。


 全力でフルマラソンを走り切った後で、もう一歩だって足を前に踏み出す気力は残っていないのに、もう一度42.195㎞を走れというのか?


 こんなの聞いてない。


 冗談じゃないわよ!!


 もう、私はちゃんとゴールしたんだから許してよ!!


 これ以上走れる訳がないじゃない!!


 新しい門出?


 人生のスタートライン?


 幸せな家庭を築く?


 はぁ?


 何言っちゃってるの?


 私はそんなの望んでない。


 私が目指していたゴールは結婚なのだから。


 もう、私はゴールしたのだ。


 精一杯、力の限り、歯を食いしばって走り抜いて、満身創痍まんしんそういでようやくゴールしたのである。


 それなのに。


 ゴールラインだと信じて必死に目指していた場所が、スタートラインだったなんていくらなんでもむご過ぎるではないか。


 結婚はゴールラインなんでしょう?


 結婚はハッピーエンドなんじゃないの?


 私の人生の終着点はここなんじゃなかったの?


 暢気のんきに幸せそうな顔で笑っている花婿をぶん殴ってやりたい。


 私の新しい門出を祝福する列席者れっせきしゃ共を、片っ端からぶっ飛ばしてやりたい。


 私はゴールしたのよ!!


 私はハッピーエンドを迎えたの!!


 今が人生の最高潮さいこうちょう


 私の全盛期は今なのよ!!


 今ここで終らなければ、この先の人生はただひたすらに下降の一途いっとを辿るだけ。


 もはやこの先の人生に、私の目指すべきゴールなど存在しない。


 気が付けば、私はどこへともなく走り出していた。


 ゴールはどこ?


 私はちゃんと走り切ったのよ!!


 それなのに、ゴールが無いなんておかしいじゃない?


 その時、不意にどこからともなく潮騒しおさいが聞こえた。


 なぁ~んだ。


 ちゃんとあるじゃないの、ゴール。


 母なる海の限りない優しさに抱かれて、私はようやく、私のゴールに辿りついた。


 夢が、叶った。


 最後に私の目に映ったのは、雲一つない、美しい青空だった。


         おわり


 



 


 

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