無自覚危険信号

うさぎのしっぽ

無自覚危険信号

 俺の幼馴染兼親友は、こう言っちゃなんだがアホだ。主に恋愛方面で。


「彼女にフラれた!」


 今日も突然俺の部屋に来て、開口一番にこれだ。俺はゲーム画面からは目を逸らさずに相手する。


「今度はなんだって?」

「俺が彼女より、りゅーちゃんを優先するからって」

「またかよ」


 こいつがフラれる理由は大抵同じ。なぜか幼馴染の俺が原因らしい。正直言って、女に恨まれるのはあとが怖いので、勘弁してほしい。


「おまえが彼女との記念日ほっぽって、俺と映画にいったから?」

「それもある」


 ひとつじゃねえのかよ。


「だって、りゅーちゃんと映画にいくのは、ずっと前から決めてたし」

「だけどその日って、一ヶ月記念だったんだろ? 言ってくれたら俺だって気を遣ったよ。次の日彼女、激おこだったじゃん……。刺されんのかって思ったわ」


 決して大げさな表現ではない。視線だけで焼き殺されるのではと、本気で命の危険を感じた。


「それだけが原因じゃないなら、あとはなに?」

「りゅーちゃんの誕生日に遊園地いっただろ」

「ああ、おまえがチケットくれたもんな」

「そのチケット、彼女とデートした時の福引きで当てた」

「バカだろ」


 いや、もうバカを通り越して無神経だ。自分一人の時ならまだしも、デート中に手に入れたチケットを、なぜ二人で使おうとしない。


「彼女と遊園地いってもつまんねえんだもん」

「いやいや、それにしたってねえわ」


 彼女が怒るのは当たり前だ。


「まさかと思うけど、彼女にもそれ言っちゃった?」

「言った。その場で」

「最悪」

「係のおねーさんに「どなたといきますか」って聞かれたから「親友を誘います」って答えただけだよ」


 その係のおねーさんは、「彼女と一緒にいきます」って言うのを期待したんだと思うけど?


「絶叫系乗れない彼女といくより、りゅーちゃんといく方が楽しいもん」


 いやいやいや、嬉しいけどね? 誕生日むっちゃ楽しんでたけどね? 二人で絶叫マシン二周制覇とかしたけどね?


「やっていいことと悪いことがあんだろ」

「えー、りゅーちゃんは俺と遊ぶの嫌なわけ?」

「そうじゃなくて」


 ってか、なんで俺の方が問い詰められてる彼氏みたいになってんの?


「この前おばさんたちと一緒にいった日帰り旅行も、気に入らなかったみたいでさ」

「あー、土産に選んでたぬいぐるみ、絶妙にキモかったよな」

「それだけじゃなくて……。彼女の誕生日だった」

「最低だな!」


 俺の誕生日を祝っている場合じゃない。そりゃキレるよ。誕生日祝ってもらえないばかりか、プレゼントが絶妙にキモいぬいぐるみだけとか、もはや嫌がらせだよ。


「だって俺、ちゃんと言ったよ。その日はいきたいところがあるんだって。そしたら彼女、俺に任せるって」

「いやそれ絶対サプライズデートを期待してたんだよなんでわかんないのバカだよおまえやっぱバカ」


 道理でここ最近、彼女の俺を見る目が敵意しかないはずだ。


「しかも毎晩電話したいとか、俺絶対無理。りゅーちゃんとゲームしてて忙しいし。デートだって、普通に学校で会えるからいいじゃん? 放課後はりゅーちゃんの方が家近いから帰るの楽だし、朝わざわざ早起きしてまで一緒にいくのも面倒だし。……って言ったらビンタされた。俺なにか問題ある?」

「あるよ。問題しかねえよ」

「え、どこ⁉」


 おまえはいい加減、俺のことが好きなんだって認めろよ。

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無自覚危険信号 うさぎのしっぽ @sippo-usagino

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