「私もうゴールしたからいいよね?」と、幼馴染が合格祝いにエッチしてと頼んできた
真木ハヌイ
二人きりの夜に
「合格おめでとう、ユカリ!」
僕は幼馴染の女の子、ユカリに言った。彼女は今、スマホを持って震えている。
そう、たった今、ユカリは自分が受験した大学に合格したことをスマホで確認したのだった。
「す、すごい……何回見ても、私、ちゃんと合格してる! C判定だったのに!」
ユカリはスマホの画面を何度もリロードしてながめながら、大はしゃぎしている。歳は僕と同じ十八歳だけど、年齢よりはいくらか幼く見える、かわいらしい顔立ちの女の子だ。長い髪を今は三つ編みにしてまとめている。
そして、そんなユカリと僕は今、ユカリの部屋で二人きりでいた。少し前に、ユカリが一人では合格発表を確認できないから家に来てと、僕に頼んできたのだ。まあ確かに、ドキドキするよなあ。落ちたたらすごくショックだろうし。
「よかった。これで春からシンヤと同じ学校だね!」
ユカリはやがてスマホから顔を上げ、満面の笑みで僕に言った。僕はすでにその大学に推薦で合格していたのだった。
「そうだね。家から近い学校だし、本当によかった。何かお祝いしないとな」
「お祝い?」
「ああ。ユカリ、すごい勉強頑張ってたもんな」
僕はユカリの頭を軽く撫でて、微笑みかけた。今は心からこいつを祝福したい気持ちだった。
「じゃあ、今日は一緒に晩御飯を食べようよ。今日はお母さん帰ってこない日なの」
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えて」
と、僕たちはそのままユカリの家で夕食をとった。ユカリはお母さんと二人暮らしだが、お母さんは仕事の関係で家に帰ってこない日が多いようだ。
やがて夜も更け、夕食の後片付けをすませてそろそろ家に帰ろうと思っていた時、ふいにユカリが「まだ帰っちゃダメ」と言ってきた。
「あ、あのね……私、今日はもっとシンヤにお祝いしてほしいかなって……」
「もっと?」
何かプレゼントでもあげればいいのかな。
「何か欲しいものでもあるのか?」
「いや、モノは別にいらないの。今はその、シンヤに……」
ごにょごにょ。ユカリのやつ、なんだかうつむいたままモジモジしていて、すごく歯切れが悪い。
「モノじゃないなら、何か僕にしてほしいのか?」
「う、うん……」
「何を?」
「……エッチ」
「え」
「……お、お祝いだからいいでしょ! 一回ぐらい!」
と、ヤケクソのように言うユカリの顔は真っ赤だった。
「お、お祝いでエッチって……?」
予想外すぎる発言にポカンとしてしまう僕だった。
すると、
「べ、別に私、シンヤの彼女になりたいとかじゃないんだから! シンヤなら、どうせ彼女の一人や二人ぐらいいるだろうし!」
今度は何か強がっているように言うのだった。僕には今現在付き合っている彼女なんていないんだけど。
「じゃあ、なんで僕としたいの? 性欲を持て余してるの?」
「そ、それはそのう……私もう受験勉強ゴールしちゃったから!」
「え?」
「ほら、シンヤって昔、サッカーやってたでしょ?」
「やってたね」
「サッカーってゴールした選手を、みんなですごくお祝いするじゃない?」
「するねえ」
「そ、それと同じなの! わかるでしょ!」
「いや、サッカーと受験勉強はだいぶ違う――」
「違わないの! 同じなの! 私、いっぱい勉強頑張ったんだから、シンヤにいっぱいお祝いしてもらわないとダメなの!」
そう叫ぶと、ユカリは僕の手をぎゅっとつかんで、僕を強引に自分の部屋に引っ張っていった。その窓際にはベッドが置いてある。
「や、やっぱり私じゃいや? そういう気持ちにならない?」
と、ユカリは今度は不安そうに震える声で尋ねてきた。
「いや、ユカリはすごく……か、かわいいと思うよ」
僕も次第に胸がドキドキしてきた。
「でも、こういうことは、お互い恋人になってからやるもんじゃないのか? ユカリはどうして、僕の彼女になりたくないのに、僕とエッチしたいって言うんだ?」
「……本当は、彼女になりたくないわけじゃないの」
「え?」
「でも、シンヤは私のこと、そういうふうには見てないでしょ。だから……」
「え? え?」
ごめん、何言ってるのかさっぱりわからない。
「えーっと……つまり、ユカリは、僕に恋愛対象として見られてないって思ってる?」
「そんなの当たり前じゃない」
「どうして?」
「私たち、幼馴染だもん」
「お、幼馴染? まさかそれが理由?」
「私、知ってるもん! ゲームとかアニメとかじゃ、幼馴染の女の子はだいたい主人公の男の子に相手にされないのよ! ずっと主人公の男の子のことを想いつづけながら、ぽっと出の美少女メインヒロインに主人公を取られちゃうの! 幼馴染ってそういう役回りなのよ!」
「……そうなのか?」
そうじゃない作品もある気がするんだけど……。
「だ、だから、シンヤが私のこと好きじゃなくても、私は別にいいの。そういうものだって、昔からあきらめがついてるから。ただ、その……今日くらいはシンヤに特別にお祝いしてほしいかなって……。きょ、興味のない相手でも、男の人なら一回エッチするくらいどうってことないでしょ!」
「いや、僕は興味のない相手とはしたくないかなあ」
「え……」
ユカリはとたんにおろおろしたようだった。僕は笑った。
「なあ、ユカリ。僕は今日、君の合格発表を一緒に確認しに来てやったんだぞ」
「う、うん……ありがとう」
「興味のない相手にそんなことすると思うか?」
「……友達なら、するかも?」
「でも、僕はユカリが合格して喜んでいる姿を見て、自分のことのようにうれしくなったよ。また一緒に同じ学校に通えるってことにもね。そのあと、一緒に食べた晩御飯もとてもおいしかったよ」
僕はユカリの震える手をぎゅっと握って言った。
「だから、僕としてはユカリの今のお願いは聞けないかな。ユカリとはちゃんと恋人同士になってからしたいことだと思うし……」
言いながら、やはり胸がどきどきしてくる僕だった。
そう、僕だって昔からユカリのことは、すごくかわいいと思っていたのだ。けれど、お互いの距離があまりに近すぎるから、きっと異性としては意識されていないのだと思っていた。さっきユカリはちょっと変なことを言ったけれども、結局僕も同じことを考えていたのだった。
「わ、私、恋人になれるの? シンヤと?」
「な、なれるさあ……」
目をそらしながらうなずいた。恥ずかしくてユカリのかわいい顔がまともに見れない。
「や、やっぱり、こういうのはお互いの気持ちを伝え合ってなるものよね?」
「そ、そうだな。まずは告白しないとな……」
うわあ。心臓が口から飛び出しちゃいそうだ。告白だって!
「じゃあ、一緒に言いましょ」
「うん……」
僕たちは手をぎゅっと握りあった。
「わ、私、シンヤのこと――」
「僕はユカリのことを――」
「好き!」
「大好き!」
「……あ」
と、直後、ユカリはむっとした顔で僕を見た。
「なんで、『好き』で統一しないのよ! これじゃ、私の気持ちがシンヤに負けてるみたいじゃない!」
「……ごめん」
僕は笑った。そして、その後、ユカリを抱きしめてキスした。昨日までは僕の幼馴染、今日からは僕の彼女の、世界で一番かわいい女の子だ。
「私もうゴールしたからいいよね?」と、幼馴染が合格祝いにエッチしてと頼んできた 真木ハヌイ @magihanui2020
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