あなたと一緒にうちにいたい   ~最後のテレワーク~

三枝 優

最後のテレワーク

 金曜の夕方17時。

 定例会議にて。


「係長、お疲れ様です」

『お疲れ様、夕方の進捗会議を始めましょう。会議の録画します。それではプロジェクトの進捗を報告してください』

「はい、まず開発の状況です。開発そのものは完了しております。

 品質部門による検査中ですが、本日中に完了予定です。

 発見された不具合もすべて改修済みとなっています。

 来週の納期に対して、かなり余裕を持って納品できそうです。」

『ほぼ、プロジェクト完了ですね』


「プロジェクト状況のまとめは来週提出いたしますが、予算に対して下回り黒字を確保できる見込みです。

 途中で顧客にて発見されてトラブった不具合ですが、すべて他社が原因と判明しております。顧客からは原因の究明への協力に対しての感謝の言葉をいただきました。

 来週以降、プロジェクトの振り返りを実施していく予定です」

『了解しました、プロジェクトは大成功ですね。

 おめでとう。

 通常なら打ち上げをしたいところですが、この状況下では残念だけどできないですね。それが残念です』


「はい、でも今日は業務を早く終わらせる予定です」

『了解しました。

 すぐに次のプロジェクトが計画されているので、よろしくお願いします。

 このプロジェクトを成功させた君ならば、きっと大丈夫だと思います』

「ありがとうございます、頑張ります」


『あと、連絡事項ですが緊急事態宣言が解除されたので来週より事務所への出勤をすることになりました。

 私たちは新しいプロジェクトの立ち上げが始まるので、しばらくは出勤対応をお願いすることになります』

「はい、了解いたしました」

『まぁ、立ち上げが終わったらテレワーク対応に戻るかもしれないので、そこは随時対応していくようにしましょう』

「はい」


『他に報告事項はありますか?』

「いえ、特にありません」

『では、これが最後の定例のWeb会議ね。来週からは事務所でよろしくね』

「こちらこそ、よろしくお願いします」

『それでは、会議を終了します。お疲れさまでした。録画を終了します』

「お疲れさまでした」



「それで、係長。大切な話があるのですが。いいですか?」

『え?大切な話って?』

「はい。ぜひ聞いていただきたいと思います」


 ヘッドセットを外し、リビングの扉を開け寝室兼書斎に入る。

 そこにはヘッドセットをしたままの係長。


「どうしたの?改まって」

「実は・・・プロジェクトが成功したら決めていたことがあるんです」


 ヘッドセットを外し、デスクの椅子を回転させてこちらを向く係長。

 僕はズボンのポケットから取り出したものの蓋を開けて係長に見せた。


 そこには、きらりと輝くダイアモンドの指輪。


「僕と結婚してください!お願いします」


 目を白黒させて驚く係長。


「あ・・・・・・わ・・・私は年上よ・・アラサーの女なのに・・本当にいいの?」

「もちろんです。年齢だって、そんなに離れていないじゃないですか」


 驚いて、あわあわとしている係長。

 とてもかわいい、と思う。

 そういうところも含めて、全部好きになったのだ。


「どうですか・・返事を聞かせていただけないでしょうか・・」


 真剣な僕の表情に、係長も真剣な顔になり言った。


「はい。喜んで結婚させてください!」


 そして、にっこりと笑うと抱き着いてきた。

 目の端に涙が光っている。



 僕たちは、抱き合ったまま熱いキスをした。

 

 そして、横にあるベッドに腰かけて・・・









 そこで、PCの画面表示が目に入った。

 まだ、Web会議画面のまま。だけどさっきと表示が変わっている。


 そこに表示されていたのは、いつもなら参加していない課長の困ったような顔。

 

 チャットウィンドウに、文字が表示された。



”あぁ・・連絡事項があって参加したのだが。

 君たちがそんな関係になっていたとはな。

 まずは、ゴールインおめでとう。


 しかしながら、勤務時間が終わっているとはいえWeb会議を立ち上げたままそういうことをされるとまずいのだよ。

 他の同僚が見るかもしれないし。”




 

 僕たち二人は、あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら、平身低頭謝罪した。

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あなたと一緒にうちにいたい   ~最後のテレワーク~ 三枝 優 @7487sakuya

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