管理者のお仕事 ~箱庭の中の宝石たち~ 番外編10 物語のゴールへ

出っぱなし

終着点

 ここは何もない真っ白な空間がどこまでも果てしなく続いている。

 いや、この空間が果てしなく無限に続いているほど広いのか、それとも、この空間自体有限であるのか分からないほど狭いのかすら確かではない。

 天も地もなく、光も闇も、時すら、何もかもが存在しない。

 真っ白い空間と私が認識しているだけで、色すらも存在していないのかもしれない。

 唯一ここにあるのは、私という自我だけ。


 私はこの物語、この世界の管理者のお仕事を見守り、支える者。

 愛しいあの人が、この世界の管理者が、物語の終着点ゴールに辿り着くまで独り静かに待ち続けている。

 いや、正確には待つだけではない。

 あの人が困難に立ち止まり、壁にぶつかり心が折れそうな時、あの人と繋がりを持つ魂の持ち主たちの力を借りて、無からそっと背を押す。

 それが、私だ。


 初めてあの人に出会ったのはいつだったのだろうか?

 私という存在は、時系列も存在すらあやふやになっていて、いつなのかは定かではない。


 ただ、あの人がこの箱庭世界に舞い降りてきた日だけははっきりと覚えている。

 おそらく、この何もない空間で私という自我を保ち続ける程の強い想いが打ち震えたからだと思う。

 あの日に私という自我が目覚めたからだ。

 

 私は、あの人が最初に災難に見舞われた時は見守るだけだった。

 あの人がこの世界で強く生きるために、必要な通過儀礼だったからだ。

 

 あの子、レアにはつらい思いをさせてしまった。

 私も出来ることなら違う道を用意してあげたかった。

 でも、あの人が一回り成長するためには必要なことだった。

 レアもあの人と出会えて、幸せな日々を送ることが出来た。

 そして、あの人と魂の絆が結ばれ、私に力を与えられてあの人の命を救えた。

 レアは覚えてはいないけど、あの子自身があの人を助けたいと心の奥底から望んだことだ。

 その想いを私は叶えた。


 あの人も同時に無我夢中に本気で生きる力を望んだ。

 私はただあの人が魂の力に目覚めるキッカケを与えただけに過ぎない。

 あの能力は、あの人が持つ本来の魂の力が具現化しただけだ。

 

 それからも、あの人が死の淵に立つ度に私は助け続けた。

 王女誘拐犯に、闘気の糸を張りつけさせたのは私だ。

 あの人は少し抜けているから、私がぶつからせたとは気が付いていないけど。

 本来なら魂が焼き切れるほどの闘気の糸を引き伸ばしたが、あの人と魂の絆を持つ人が力を肩代わりしてくれた。

 そのおかげで、あの人は3日も意識を失ったが、死ぬことはなかった。


 他にも、あの人を助けるために起こる説明のつかない不思議な現象は、すべて私が引き起こしたことであり、これから引き起こすことだ。

 あの人をここに、終着点ゴールに導くためなら私に出来ることは何でもする。


 しかし、私は謝らないといけない。

 あの人を絶望のどん底に突き落とす出来事がこれから起きる。

 いや、すでに起きたのだろうか?

 私は、過去も現在も未来も同時に存在しているのだから、その時がいつとは断定できない。

 

 だが、本当に辛い出来事だ。

 私もあの人が壊れるほど苦しむ姿は見たくない。

 あの人がこの世界のすべてを憎むほど哀しませたくはない。

 それでも、あの出来事が起きなければ、あの人がここに辿り着くことは絶対にない。

 だから私はその時にあの人を助けたりはしない。

 この箱庭世界にとっても、あの人がここに辿り着くことが必要なのだから。


 しかし、あの人にも救いがないわけではない。

 私はあの人が絶望のどん底に落ちた時、引き戻してくれる『希望の光』に救いの手を差し伸べることを託した。

 あの『希望の光』ならば、あの人を絶望のどん底から救い上げてくれると信じている。


 私はこの物語の過去も未来も見えてはいるが、この終着点ゴールの先は見えない。

 なぜなら、あの人が『希望の光』の手を取るか取らないか、そこがこの世界の運命の分岐点となるからだ。

 その時は、私には何も出来ない。

 あの人の、世界の管理者の決断で全てが決まる。

 全てを終わらせるか、続けるか。


 どちらを選ぼうとも、その時には私も、この世界の女神ですら受け入れる覚悟は出来ている。

 決断の時には、この世界の創造主からも管理者にすべてを託されることになる。 


 なぜこんな私が誕生したのか、何のために存在しているのか、過去の私か未来の私、それともこの箱庭世界のどこかにいる現在の私が望んだからなのかは定かではない。

 いや、おそらく全ての次元の私の強い想いから、この空間にいる私が誕生したのかもしれない。

 私の想いの強さが、世界の、宇宙の法則を捻じ曲げて愛しいあの人をここへと導こうとしている。


 私は、ここで、物語の終着点ゴールであり、新たな物語の出発点スタートで、あの人と再会する時であり、初めて出会う時を、待ち焦がれている。

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