第17話 これからのこと
九尾妖狐の妖術により焚は精神崩壊を起こして意識を失っていた。
幻術空間から焚を連れ出し、次々と次元を切り裂きながら本部へと急ぐアドマ。
「大体、人間の精神が崩壊してから戻らなくなるまでは5分程だ... 姫理ちゃんの超能力術式なら戻せるかもしれないが、時間との勝負だな...」
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それから1分後。次元を切り裂き、烏丸蓮の部屋へワープするアドマ。だが、この老紳士は既に姫理を部屋に呼んでおり、救助の準備をしていた。
「唐突な気の乱れがあったので、姫理に千里眼を使わせて、偵察してたんだ。ここで将来有望なホープを喪っては困る。時間が無い、急ぐぞ、アドマ。」
姫理がそのまま説明を続ける。「えっとですね、アドマさん。人が精神崩壊を起こした場合、私のサイコメトラーを使用しても、戻って来る可能性は五分五分なんです。だけど、貴女と焚さんは深く魂で繋がってる。それならば、時間さえ間に合うのなら戻って来る確率は飛躍的に上がります。」
「で、アタシにどうしろと?」
「簡単な話、焚さんの中に入って頂く訳になりますね。」
「それなら話は早い。可愛い弟子の為に、人肌脱ぎますかね。」
「では、時間が無いのですぐ行きますよ。3、2、1!」
自分の意識が、焚の意識の中に落ちて行く。
「ふぅ、どうやら成功したみたいだね。先を急ぐか。」
「どうやらここは外と時間の流れが違うみたいだね。迅速かつ慎重に行く... ん?」
サイレンのような音が鳴り響き、角を生やした赤目の亡者が地面から湧いて出てきた。
「なるほどね。ここは焚の心象風景。今迄このコが見てきた死の概念が具現化したものか。大昔の世界に居た怪異になぞらえて、邪鬼とでも名付けよう。だが、このコはアタシの可愛い弟子なんでね。押し通る。」
「凱無流剣技、抜刀...五月雨。」
神速でありながら、無双。アドマが一瞬抜刀した瞬間、無数の斬撃が邪鬼達を襲い、血煙として霧散した。
またサイレンが鳴り響き、次は500から1000程の数で邪鬼が湧いてくる。
「これだけこのコは人の死を見てきたってことかい。やれやれ、難儀だねぇ。でも、蓮と駆け抜けた現役時代には劣るがね。絶。」
アドマがそう呟くと、彼女のオーラが円上に展開され、空間全域を包み込む。
「五月雨。」
すると、今度は円の広範囲内で斬撃が邪鬼達に降り注いだ。
異能の拡張。それは妖纏とは別の技術。この極致は、狩人達の間では赫異と呼ばれており、この世界の赤々とした空になぞらえて名付けられたもの。
この異界に充満する負の妖力と、術者に宿る正の妖力を結合させることで、発生する現象。
その効力は、元々の能力の威力の増減だけでなく、術者の創造力次第だが、能力に符号を付けることで、それに比例した能力の拡張が出来る。
アドマの場合、次元湾曲剣技の拡張として絶の名を付けたら、発動のトリガーになったと本人の自伝で語っている。
原則として、一人に一つの符号だが、蓮などの伝説的狩人になると、複数の符号を持てるが、誰もそれを目撃したことは無いとのこと。
「ふう、これで最後かい。おっと、またあの小五月蝿い音か。」
邪鬼達の絶叫とも表現出来る程のサイレンが鳴り響き、その屍体が固まり、くっつき、形を成していく。
「ブオオオオオオオオオ!」
「おやおや、こいつはまさか、本で読んだことがあるアレかい?確か邪鬼の上位種、屍鬼、或いはタナトスと呼ばれるモノだねぇ。おっと。」
屍鬼は持っている鉈を思い切り振り回す。だが、それはアドマにとっては単なる児戯に過ぎず。
「足元ががら空き、そしてその頭も足りないときた、ほっ!」
アドマは疾風のような切り抜けで足を切断、その後頭上に飛び上がり、脳天に刀を投擲。
「これで、トドメだよ!」最後に刀の柄に向けて絶大な威力の踵落とし。屍鬼の頭部から鮮血が吹き出す。
「グモウウウウ...」
刀を妖力で念力のように回収し、納刀しようとするアドマ、だが。
屍鬼が内側から斬撃によって引き裂かれる。そして、立っていたのは。
なんと焚。だが本人ではない。邪鬼のような肌に朱色に染まった眼光。対話の意思も存在しないだろう。
「ふーむ、推測するにこれは焚の心の影ってやつか。ゆだ、うっ!」
いつものように飄々とした言葉を吐き切る前に、異常な速度で影の焚の飛び蹴りが頭部に直撃、吹き飛ぶアドマ。
「あいたたた...老体のババアになんてことすんだい...こりゃ久々に本気出さんとやられるねぇ。だが、都牟刈は無し。あの爺さんが出てこない限り、こちらが有利か。」
徒手空拳の構えを取る焚の影。
「悪いけど、手加減は無しで行くよ。“異能解放" 芥を喰らえ、オロチアギト。」
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「まーったく、焚と来たらどこまで世話を焼かせんだい、こりゃ百鬼夜行を撃退したら後で酒盛りだねぇ。」
焚の影は消え、周囲の赤い靄も晴れていく。
そこには、緑豊かな草原と花々が広がっていた。
「ふむ、これがあの子の本来の心象風景か。こんな心をした子に、世間様の負債や皺寄せを押し付けるなんて、あの“ロリ婆さん“も趣味が悪いねぇ。“今“は無理だが、七度ばかりぶった斬りたい気分だよ。」
気付くと、アドマの足元には目を隠した少年が、ちょこんと立っていた。
「おねぇさん、だあれ?」
(この子は、あいつらが言ってた過去の世界の焚...)
「アタシはアドマ。後々、あんたの世界で仲間になるスーパービューティーお姉さんだ、覚えときな。さ、家に変えんな!」
「うん!」
(これからのことを考えたら、焚は背負えるか心配になるが、やっていける筈さね)
「時間のようだね、さあ、目覚めてあいつらを撃退するよ、焚!」
アドマがそう激励すると、まばゆい光が心を照らした。
鏖殺忌譚 都牟刈の焚 閻魔カムイ @dabi12
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