第8話 次なる指針
僕とマニュとウォリはサウの街から少し離れた森の中に来た。
二泊三日の設計旅行だ。
街の中で能力を使えない以上、何人かに分かれ街の外に遠征していたけど、僕もマニュも引きこもり生活が快適で重い腰が上がらなかった。
マニュは僕が設計しないから仕方ないと言っていたが、クリナの作るごはんと、着替えからお風呂後のヘアセットまでをクリナに面倒をみてもらう生活に慣れきって、おそらく社会復帰はできないだろう。
僕らがこの街に来てもう二か月。
無事に地龍討伐選抜大会に落選した、それどころか討伐協会の資格まで失ったウォリに目的は既に無く、貴重な外貨はクリナが一人で稼いでいる状態だ。
クリナ以外全員無職。
全員がヒモ状態だ。
それでも、治療院で治療という人体実験に勤しむメディ、海産物を捕ってくるハント、クリナの貸家の裏で細々と家庭菜園を作るファーはまだ働いている、というか役割に引きずられているのか、ちょこちょこと動いていた。
僕には焦燥感が湧かない。
でもまあ、何も考えていないわけじゃないんだよ。
今後の予定を皆で話し合った際、一番大きな問題は、これからどこに行くかということだった。
サウで暮らすのも悪くはないけど、やっぱりみんな、テラメモリを使えないことをずいぶんと気にしていた。
セルファンも悪くないが、皆の共通する意識の中に、ファーの存在があった。
彼女の能力は、適切な場所でこそ発揮される。
そして、ここまでの旅で、彼女の能力を発揮でき、落ち着ける場所は無かった。
結論として以下のようにまとまった。
・ファーの能力が発揮できる現地人がいない場所を探す。
・まだ見つからない残り四人を探す。
この二つが優先すべき事項になり、準備を始めた。
とは言え、旅に出ようと思えば別にいつでも旅立てる僕らだが、とりあえずセルファンに行くか?という検討は、保留になった。
主に僕の、移動が面倒だという一言で。
「で、どうすんのよ」
「前も言った通り、もっと便利な移動手段が欲しい」
「……空の支配者」
「飛行船ですか?」
「ねえそれって個人用もある?」
「魔石車もすごかったけどな」
「厨房も作ってくださいね?」
何故だか青い顔のファー以外は概ね肯定的だ。
いや、知ってるよ?高所恐怖症さん。
でも、ゲームの世界だって中盤以降、行けなかったところに行くには空を移動する手段が必須じゃんか!
空を自由に飛びたいじゃんか!
……でも、問題があります。
「だがしかし、今は設計できません」
「それは能力を抑えているからじゃなく、明確な理由があるのですね?」
「うん。ボディも推進方法も、ヘリウム生成装置なんかもオーケーだけど、飛行船を構成するエンペロープ、まあガス袋の素材が決まらない」
ちなみにヘリウムは地球では天然ガスから抽出していたけど、この世界では大気中の含有が多く、生成する装置は試作済みだった。
イメージはツェッペリンNT号という飛行船の小型版だ。
ガス袋自体は、軽金属でも手持ちの繊維素材でも創れるっちゃあ創れるんだけど、なにせ空を飛ぶ魔獣がいる世界だ。
以前戦った飛龍と戦うイメージを通すと、ガス袋だけ既存の技術ではエラーになってしまう。
僕らみんな普通の人体構造なので、空から落ちれば死ぬ。
もちろん、以前の緊急ホバーみたいな隠し装備はテンコ盛りにするつもりだけど、ぶっちゃけた話、重力を操るくらいのことをするか、仮に浮力を失って落っこちても大丈夫な構造にしないと安心できない。
僕は小心者だし、僕の創るモノで皆を危険な目に合わせられない。
そんなわけで、このところ設計をさぼっていたために熟練度が足らないんじゃないの?というファーのジト目に負け、取り急ぎ、ウォリの武装を創ろうということになり、三人で森まで来たというわけ。
「これはまた、武器の展示会みたいだね」
ウォリが取り出したオリジナルのウォーリアートランクの中には、個人が手持ちできる白兵戦用の武器がこれでもかと詰まっている。
持って無いモノを創ろうか?と思って見せてもらったけど、良く考えればこの男、たぶん武器を持たなくてもこの世界で一番強い。
「実際、こいつらを使ったことないからな」
ウォリはそう言って恥ずかしそうに笑う。
ふむ、これ以上スペックマシマシにしても闘う相手がいない……いや、まてよ。
「そもそもさ、ウォリは地龍を討伐するメンバーに入りたかったんだよね?」
「まあそうだけど、地龍を倒すってのは手段で、成りたかったのはその先だからな」
「地龍がどんな奴かも知らないの?」
「まあ、……知らないな」
「じゃあどうやって倒すつもりだったの?」
「そこはほら、ばーんつってガッとやる感じ?」
ばーん、ガッじゃないわ。
「ノープランだったのかよ……仕方ない僕が教えてあげよう」
「……アキもこの前知った」
「マニュはだまってクリナのお菓子食べてなさい。えっとそれでなんだっけ?」
「地龍とやらの説明を頼む」
僕は調べていた情報を話す。
以前、ファーをごまかす際に話した時、適当に言った地龍の素材が飛行船に使えるかもしれないというのは、結果として悪くない着想だった。
巨大な脚付きのオタマジャクシとしか見えない姿絵を、サウの討伐協会に併設された資料館で見た時には、その間抜け面に失笑を禁じ得なかったが、サイズが想定を超えていた。
小さい個体でも全長20メートル。
それがサウの西の深い森からやってくる。
その真っ黒なボディは、ぬめぬめのぶよぶよで、剣で切れず、打撃も効かず、耐火性能も高く、過去に討伐した記録は存在しなかった。
じゃあなぜに「討伐隊」かというと、追っ払う行為を討伐と称しているらしい。
その方法は、四つある脚のどれかに集中攻撃し続ける。
そうしてある一定のダメージが溜まると、急に元来た方向に帰って行くんだそうだ。
もっともその累積ダメージ量は、都度変わるらしく、継続性と安定性を考えると10人でスイッチしながら攻撃を続けるのが望ましいとのこと。
「同時に複数の脚に攻撃しちゃだめなのか?」
「右前と左後ろなんて感じで試した記録があったけど、どうしても邪魔し合っちゃうらしく効率が悪いんだって。で、口から吐く酸や、脚による踏みつけ、それと尻尾攻撃に気を付けながらやるにはどれかの脚に集中するのが一番なんだってさ」
「で、アキはそいつの素材が欲しいのか?」
「そうなんだよ。もうとにかく物理耐性が強く、耐火性能も高く、伸縮力もすごそうでしょ?実際触ってみないと僕の設計するモノに使えるか判断できないけど、ほんの少しだけでも採取できれば、類似の素材を創ることもできるかもしれないんだ」
この世界にはまだまだ謎の素材、謎の鉱物、謎の元素、謎の生き物がたくさん存在する。
これまでも、魔石を初めとする多くの知見は、地球の技術と融合させることでいろんなモノを創り上げた。
魔石車、マスパ、ボート、ホバー装置、放水銃、音響銃、エアライフル、コイルガン、魔石隠蔽リング、高周波ブレード、湯沸かし器、冷蔵庫、試作中だがゴムスタンガンやアクアラング、無線装置なども作ってある。
創造に果ては無く、思い描く用途さえ明確であれば、僕はたぶん、どんなモノでも描くことができる。
そして、今のところ僕の描いた図面は100%マニュが具現化してくれている。
でもこの頃思うんだ。
僕が生活に必要な、あらゆるものの図面を書き上げた後、僕は必要なくなるんじゃないか?って。
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