第9話 地龍襲来

 結局、設計旅行で僕らが造ったのは、地龍に効果があるかわからないウォリとハントの武器だった。

 単純に討伐するだけだったら、コイルガンでもいけるんじゃないかとは思うケド、実際に接敵してみないことには詳細はわからないし、何より素材がバラバラになって回収もままならないのは困る。

 それに、地龍の魔石はその希少性故にどうしても欲しい。

 飛龍の時みたいに爆散させるわけにはいかないのだ。


 討伐協会という組織があることからもわかる通り、サウ近郊には、大小さまざまな魔獣が森の中、砂漠地帯、荒れ地、海、と各種が各所に存在している。

 協会に所属している討伐者は、食用となる肉の他に、魔石や素材を手に入れ、販売することで生計を立てている。

 どちらも魔道具を作るのに必要な素材でもある。

 もちろん僕たちの創る魔道具にも魔石は必須な存在だ。


 自慢するわけじゃないけど、この世界にある魔道具は再現できるし、地球の技術と融合させてさらにブラッシュアップできている。

 で、高機能になればなるほど、魔石の必要等級が上がる。

 現在この世界で入手できる最高レアは「龍種」と思われる。

 こいつらはマスパで見ると濃い赤の表示だ。

 赤、橙、黄、緑、水色、青の順に等級差がある。

 飛龍が赤で、うさぎが青だ。

 ただ、同じ赤系表示でも熊と龍種の差は大きい。

 計画中の飛行船では龍種クラスの魔石は欠かせないだろうと考えている。


「アキは魔道具や武器を売らないの?」


 ハントとマニュと一緒に、海辺で水中戦用の装備を確認しているとハントが聞いてくる。


「うーん、別に僕らが造らなくても、こっちの職人さんがいるからねぇ」

「でも、この水中銃だって、アクアラングだって、こっちに無いモノだよね。漁師さんや討伐者がほしがると思うんだけど」

「ハントには言ってなかったっけ?僕らが造るモノで特に地球の技術が詰まってるやつは、こっちの人に渡したくないんだよね」

「いや、それはセルファンでも聞いたし、あそこに残した武器もこっちに似たようなものがあるけどさ、は海辺の人や船乗りが持ってたらすごく便利で、おれ以外の人だって安定して魔獣と対抗できると思うんだ」


 銛や投網といった代替え可能な技術ならともかく、連装式の銛を、高圧で撃ち出す水中銃や、30分以上潜水できるアクアラングセットなんかはオーパーツだよ。

 小型潜水艇やドリル式魚雷を設計してあることは黙っておこう。


「ハントは、僕らが去った後の事を考えてる?」

「うん。おれ、街のみんなの笑顔が好きだよ」


 ハントが捕ってくる海産物は、クリナの屋台で使い始めたところ異様な人気となった。

 クリナや僕らだけでは捌ききれない量を街の市場に販売したところ、漁師ハントの名は売れに売れた。

 危険な魔獣が潜む海中は海産物の宝庫だったけど、街の人は誰も手出しができなかった。

 ハントの狩猟能力は水中でも存分に発揮され、僕らの造る装備もあり、今やこの街で最大の漁獲量を誇る。

 ていうかやりすぎだよね?


「街の皆がハントと同じような能力を持っているわけじゃないからね。生兵法は怪我の元って言うだろ?下手に手を出されて怪我でもされたら嫌じゃない?」

「そうだけどさ。うーん、もっと簡単に漁ができる方法があればいいのに」


 彼は自分が去った後の責任を考えているけど、そんな必要はない。

 討伐者だっているし、陸にいれば海の魔獣の脅威は届かない。

 セルファンの様に、狩りを学ばなければ死活問題になるってことはないんだ。

 でもなぁ、一度知ってしまった美味はなぁ、諦めたくないだろうな。


 装備を身に着け、海中に進んでいくハントを見送りながらマニュに聞く。


「もしクリナの料理が食べられなくなったらどうする?」

「……餓死する」

「いや、他のもの食べようよ」

「……ボクをこんなふうにしたクリナには責任を取ってもらう」

「自動調理ロボ、クリナちゃんでも創ろうか?」

「……クリナのクローンを作るべき」

「クローンはともかく、彼女の料理能力って誰かに引き継げるのかな?」


 収納は抜きにしても、教本の様に手法を記録すればある程度の再現ができるのではないだろうか?


「……クリナのあれは無理。天気、湿度、温度、素材ごとの成分差、水分量、その他全部自動調整してる。レシピがあっても同じ物は作れない。味覚もすごいけど味見もしないでいつもパーフェクト」


 よっぽど気に入ってるんだろうな、マニュが誰かをこんなに評価するところ初めて聞いた。


「僕らってそういうとこあるよね。確信さえあれば100%。試行に際し錯誤がない」

「……試行錯誤、トライ&エラーで文明は発達したのに……」

「トライアル&エラーだけどね。そうだね、僕らはエラーの無いトライアルを行う存在なんだろうね」


 地球の技術を試行する存在、か。


「……てら、とらいある」

「その試行の結果、どこに辿り着けばいいのやら」


 仲間を見つけ、安住の地を手に入れた後、僕らは何をするのだろう?

 この世界の文明に寄与しないとするならば、僕ら12人は、生き続けるために生きるようになるんだろうか?

 これまで、必要に応じてモノを創り上げてきたけど、必要なモノが見つからなくなったとしたら、地球の記憶は潰えてしまうのだろうか。


 それでもいいのかもね。

 少なくとも僕が設計を辞めてしまえば、新しい創造は生まれない。


 不自由なく暮らせる、創造の無い安住の世界。

 そこは果たしてユートピアなのかディストピアなのか、わかんないけどね。



 夕方、戦利品の海産物を三人で背負いながらクリナの家に帰る道、街中が浮ついている雰囲気を感じる。

 走っている人、慌ただしく動く人、こんな光景見た事ないぞ?


「お帰りなさい。数日中に地龍が来るそうです」


 帰宅すると、メディの簡潔明瞭な報告で迎えられる。

 すでに全員が食堂でもある居間にいる。


「えっと、西の森から来るんだっけ?視認されてるの?」

「俺が討伐者から聞いて来た。今はここから二日ほどの位置だそうだ。で選抜メンバーがこの街から10キロ程度離れた平原で迎え撃つってさ。さっそく移動してたよ」


 僕の問いにウォリが答える。


「じゃあ、ワタシの屋台の出番ね」


 クリナはこんな時でもニコニコしてる。


「あたしたち、ね。屋台クリナ、出張販売員メンバー一同、さっそく出発?あれ、ところで営業許可って取ったんだっけ?」

「私がしておきましたよ。討伐協会の資格もついでに取っておきました」

「おお、メディさすが!じゃおれの魔石や素材も売れる?」

「お金はいりませんからアキとマニュに預けておいたほうが私たちには有益です」

 

 僕らは地龍の素材や魔石は欲しいけど、積極的に討伐に関わるつもりはなかった。

 万が一犠牲者を出したり、街の人に見咎められた場合に逃走するリスクを考え、この街が普段やっている討伐方法を見学する方法を模索した。

 その結果、戦場となる周辺で駐屯地が設営され、一般の武器屋や食堂屋などが、駐留する人たちのため同行することを知り、そこに潜り込むことで、地龍を間近で検分しようというわけだ。

 うまくすれば素材を触れる機会もあるだろうし、最悪、討伐という追い返しが成功し、西の森に帰る途中でこっそり接触してもいい。


「腕が鳴るな!」

「ウォリ、言った通り街の人や討伐協会の人がいる前じゃ戦っちゃだめです」

「あ、う、わかってるけどさ……」


 この好戦男バトルジャンキー、フラグ立てようとすんな。

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