第6話 マニュ2

 挨拶も済んだあとは、とりあえず……メシ?

 マニュはいまだ眠そうな顔をしているので、彼女の優先順位は睡眠なのかもしれない。


「とりあえずさ、今日はもうここに泊まるしかないと思うんだけど、マニュはそれでいい?」


 聞きながら、天候や動物などの、夜間の脅威がまったくわからない事実に身震いするけど、こんな夜に、どこにあるかもわからない街や宿を探すのは難しいだろう。

 地球の「管理者」もこういった事態を想定して、物資を使えるようにしてくれているのだと思う。

 とにかく、もう一人じゃない。

 僕一人なら別にどうなってもいいなんて、ちょっと思ったけど、こうして仲間に出会えたことで、生きようとする意欲が高まるなんて、ちょっと不思議。


「……どこに泊まるの?」

「宿なんか無いから、テント張ってその中でだよ」

「……お布団はありますか?」


 寝る気まんまんだな。


「マット敷いて、あ、寝袋があったよ。寝心地はわからないけど、真っ裸で荒れ地に寝転ぶよりはよく眠れるんじゃないかな」

「……それはステキ」


 両手を合わせ、夢見心地の顔だ。

 ひょっとしてまだ寝ぼけてんのか?


「じゃあ、テントとか準備して、夕飯食べようか。僕がその準備するから、マニュは「緊急対応エリア」僕は倉庫って呼んでいるんだけど、そこから荷物を取り出して、中身を確認してくれないかな?」


 僕は簡単に召喚と送還の方法を教える。

 マニュも、その作業を当然の如く行えて、そんな事ができる自分に驚いているようだった。

 マニュが大きなトランクを並べ、開き、中身を確認し始めたので、僕も自分の作業に移る。

 マットを敷いて、テントを張る。

 ううむ、二人は楽に入れるスペースがあるのだが、念の為確認しておこう。


「マニュ」


 いろいろを物色中のところすみません。


「……なに?」

「テントなんだけどさ、一つでも二人が入れる大きさなんだけど、それぞれのテントを張る?」


 一応男女なので、緊急対応中とはいえ確認は必須だろう。


「……アキと、いっしょがいい」


 どストレートだな。

 彼女も一人じゃなくなったことで、逆に外界に対する怖さも出てきたのかな?

 いずれにせよ、いくつかは選択できる状況で、拒絶されないってのはホッとする。

 答えたあと、そのまま物色を続けるマニュは、特に何も考えていないだけにも見えるんだけどさ。


 少し離れた場所に、スコップで穴を掘り、簡易トイレを設置。

 たき火の薪を新たに用意。

 調理用に小さなたき火を作る。

 野営セットから、キャンプ用の五徳(鍋を置く台みたいな物)を取出し、鍋に水を沸かしレトルトの雑炊パックを放り込み温める。

 ヤカンでお湯を沸かし、ステンレスカップに即席スープを作る。

 レトルト食品は野営セットの中に種類豊富に詰まっていた。


「ごはんにしようか」


 なにやら熱心に、僕のリストに無かったマテリアルトランクの中身を物色しているマニュに声をかける。

 ハッと顔を上げた顔は、さっきまでの眠気顔と違い、昂揚感、わくわく感、そんな表情に見えた。何か特別なトランクなのかな?


「……ごはん!」


 どうやら腹ペコなだけだった。

 僕は簡易テーブルに用意した料理?の前に、二つの折り畳み椅子を用意し、その一つにマニュに座らせた。


「……おお」

「えっと、期待させて申し訳ないんだけど、即席スープと、即席雑炊だよ。正直、僕らは産まれたてらしくて、こういった食事がいいのかわからないんだけど……食べようか?」


 食べたい食べたいと目で訴えるマニュに気圧されて苦笑する。


「いただきます」


 二人、手を合わせて唱和する。

 プラスチックの深皿に入れた、アツアツの雑炊をスプーンでハフハフと食べる。

 携帯食料の時は、空腹を満たすのが目的だったため、味なんか気にしなかったけど、レトルトとはいえ、こうして温かい食事をすると、味覚もきちんと機能していることに気付く。


「おいしい?」


 懸命に雑炊を食すマニュに聞いてみる。


「……おいひい!」


 ちゃんとごっくんしてから喋りなさい。

 よかった。彼女にもきちんと食を味わえる機能は備わっているみたいだ。


 欲求ってのは、生存率を上げるために実装された本能なんだろうけど、やはり嬉しい楽しい大好きって感情は、生きてるって実感できていいなと思う。

 それが分かち合えるってのも、いいなと思う。


 雑炊とスープを平らげ、食後にパックの紅茶を淹れる。


「そういえば、マニュのマテリアルトランクだっけ?あれは何が入っているの?」

「……いろんな素材。ボク製造士だから」

 

 お腹が満足したからか、また少し微睡んだ表情のマニュ。


「製造士って、どんなものを製造するの?」

「……なんでも」


 なんでもって……。


「飛行機やロケットとかも?」


 マニュは紅茶のカップを両手で包みながら少し考える。


「……地球で人がつくったモノは、基本的につくれるけど……」

「けど?」

「……たぶん。燃料とかはつくれない」


 石油とかの資源がこっちの星と違うからかな?

 外側は作れるけど、機能しない。

 資源にあるものもそうだ。電化製品が無いのは、動力の代替が無いからか。

 太陽電池くらいは活用できそうなんだけどな。


「でも、まあ、それでもすごいよね。モノをつくれるって。そうすると、マテリアルってのはいろんな素材?金属とかか……でも、使い切ったらどうするんだろう?」


 それに、どうやって加工するのだろうか?

 チョップで鉄を両断したりするのだろうか。


「……たぶん、こっちの素材が手に入るまでのつなぎ、あとは希少な素材、それとトランク以外にもいっぱいあるみたい」

「トランクの中身、使い切ったらお終いじゃないの?」

「……補充されるみたい。ほしいもののリクエストも聞いてくれるみたい」


 これは重要な情報だ。

 確かに、物資のリストには個数の情報が無かった。


 僕は確認のため災害用非常食セットのコンテナを召喚し蓋を開けた。

 前回取り出した水と携帯食の隙間は埋まっていた。


 倉庫には補充員がいる!


「ほんとだ。非常食も水も補充されてた。そのリクエストってどうやるの?」

「……うーん、いまはまだよくわかんない、じゅくれんど?が上がらないとだめみたい」

「そっか」


 緊急対応エリア(レベル1)っていうくらいだから、レベルが上がるにつれて使える資源が増えるってことかな?

 ま、確かに、もし地球上に存在していたあらゆる物資があったとして、それを今すぐ全部使えるってなれば、僕だって完全に引きこもりになる自信はある。

 消費するだけの存在なら、わざわざ僕らを作って役割を与えるなんてしないだろうからね。


「……でも、もんだい。ボク、一人じゃなにもつくれない」


 マニュはしょんぼりとそう言った。

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