第5話 マニュ1
人間の、女の子?
膝を曲げた両足を抱えるように丸くなっているため、男女の差は確認できないが、僕より長い髪と全体的に丸みを帯びた肉付きは、女の子なんだろう。
僕が傍らに近づいても、その子は気持ちよさそうに眠っている。もう一度言おう、全裸で。
いくらなんでも無防備過ぎやしないだろうか?
大きさからして、僕と同じくらい、13~15歳くらいな感じだけど、どんな狼が存在するかわからないんだ。
たき火は動物除けのつもりだろうけど、逆に存在を知られるってことだってあるだろうに。
でもおかしいな?
火を熾す道具が見当たらない。
傍らには綺麗に揃った木材が何本か残っているけど……。
ああ、この綺麗に揃った木材、どっかで見たな。
「ねえ、ちょっと、起きなよ」
僕は、できるだけ少女の体を見ないようにして肩を揺する。
同意が無い状態でじろじろと眺めるような非紳士的な行為はできないからね!
グルグルグル
問いかけの返事は何故かお腹のあたりから聞こえた。
あ、聞いたことある。
僕も飼ってるからね、腹の虫。
ポケットから携帯食を取出し、少し割ってから少女の口元に運ぶ。
寝ながらでも生存本能が機能し、匂いを嗅いだと思ったら、僕の指ごと噛みついた。
「いたぁい!」
情けない声を上げてしまったが、なんとか指を抜く。
危うく携帯食と共に指を数本持って行かれるところだった。
目を閉じ、おそらくまだ眠ったまま上半身を起こした少女は、ぐっっっっと喉を詰まらせた。
すでに同じ道を歩んでいた僕はすかさず水のペットボトルを取出し、彼女を抱え、水を飲ませる。
飲み方を忘れた、というよりこの体では初めて飲むからか、気管に入ったらしく、盛大に咳き込む。
背中をさすって落ち着かせると、少しだけ目が開き、知性の色が浮かぶ。
「……だあれ?」
「僕はアキ。キミは?」
彼女は少し考えたあと「マニュ?」と答える。なんで疑問形?
ていうか、言葉が通じるのな。
「もっかいお水飲みなよ」
ペットボトルを口元に近づけると、今度は上手に飲むことができた。
「……おいしぃ」
「それは良かった。お腹は?食べ物食べる?」
「……たべる」
さっき封を開けた残りを渡すと、ゆっくり両手で少しずつ食べる。
「えっと、マニュ?マニュはどこから来たの?」
マニュは、食べながら考える素振りをして「……気が付いたらここ」と言った。
「えっと、誰かに何か言われなかった?」
もむもむと最後のひとかけらを咀嚼しながらまた考える。
「……のこり3分だから、聞きたいことないか?って言われた」
3分だと?
この子が寝坊助なだけなのか「管理者」の設定がキツ過ぎるのか。
いずれにせよ3分じゃできることは限られるだろう。
「なんて言ったの?」
「……まだ眠いから暖かくしてって言ったら、木とマッチが落ちてきた」
寝るなよ!まず服を選べよ!
「それで、火を熾して寝てたのか」
マニュは小さく頷いたあと、周りを見渡した。
「……もう、まっくら」
「夜だからね」
「……じゃあ、もう寝なきゃ」ぱたりと倒れる。
「だめだよ!せめて服を着て!」
僕はなんとかマニュを引き起こす。
目の毒なんだからさ。
それから、僕が取り出した衣料トランクからマニュに服を選ばせた。
長袖のTシャツとダボダボのオーバーオール。
全裸の上から着ようとしたので、慌てて下着もちゃんと着けさせた。
靴下とスニーカーも。
僕はお父さんかよ。
全体的に僕より1割ほど小さい体つき。
髪は黒く、肩の下までの長さ。
寝起きだからか、元々なのか、どこかぼんやりとした表情だが、印象としては可愛らしいと思う。
今は半目だが見開けばきっと大きい。
「木とマッチはそのまま落ちてきたの?」
「……うん」
この子は答えるとき、少し間が開く。脳の指令に対し口が追い付かないのだろうか?
「この、衣料トランクとおなじようなものは出てこなかった?」
「……うん。それ何?どこから出したの?」
「頭の中で「緊急対応エリア」って思い浮かべてみて」
「……きんきゅうたいおうえりあ?……おお!」お、目を見開いている。
「なんか浮かんだ?」
「……りすと?物資?ずらっと出た」
「上から読み上げてみて」
「……えっと、緊急対応エリア、レベル1、薪、マッチ、災害用非常食セット、衣類トランク、雑貨トランク、マテリアルトランク、テント、マット、炊事道具一式、野営道具一式」
僕と違うな。
僕の方は、非常食と水は単体であったし、薪とマッチも単体では無かったし、マテリアルなんちゃらも無い。
あのチュートリアルが操作すると、各トランクの中身を任意で取り出せるのだろうか?
僕は「緊急対応エリア」内の野営道具一式から、薪とマッチをイメージする。
リストに変化があった。
緊急対応エリア(レベル1)
・災害用非常固形食糧
・飲料水(500mL)
・薪
・マッチ
・災害用非常食セット
・衣類トランク
・雑貨トランク
・テント
・マット
・炊事道具一式
・野営道具一式
つまりは、存在を認識さえしていれば、任意のものを取り出せるようになるってことかな?
僕は薪を1本イメージして取り出す。
直後浮かんだ白い光から、積んであるものと同じ木材が現れる。
なるほど。
つまりは使う事、イメージすることで熟練度、できることが増えるって事かもしれない。
「設計士」とやらの能力も、イメージ次第なのかもな。
それから僕は、自分が目を覚ましてからここまでの話をした。
「星霊」による管理と地球のひとたちを収穫すること。
培ってきた文明を無くすのがもったいないと思う「管理者」がいたこと。
僕らが地球の技術を受け継いでいること。
地球上の技術以上の技術で僕らが創られたこと。
不思議な能力を持っているだろうこと。
話をじっと聞いていたマニュに質問を促すと、想像以外の質問だった。
「……名前」
「ん?」
「……名前、教えて」
「……さっき言ったんだけど……」
「……忘れちゃった」
「アキだよ。よろしくねマニュ」
僕は手を出して握手を求める。
マニュは不思議そうに僕の右手を見て、僕の顔を見る。
「僕らは、たぶん同じ存在。もしマニュが嫌じゃなければ、一緒にいさせてもらえないかな?」
これも同郷の士と呼ぶのだろうか?
チュートさんは僕らのことを「星霊」から外れた存在って言ってたけど、造られたとか輪廻から外れたとか別にどうでもいいなんて思ったけど、マニュに会えたことは、僕にとって驚くほど、安堵と、そして喜びを感じたのだ。
「……アキ、おんなじ?ボクと?」
キミ、ボクっ子なんだね。
「そ。僕らはこの世界で産まれたばかり。あらためまして、僕は「設計士」のアキ」
「……「製造士」のマニュ」
彼女は少しだけ微笑みながら、僕の右手を握った。
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