第3話 アキ3

 ちょっ、気になるセリフ。


「あなた方?」

『この惑星の上に、12体の個体を誕生させる計画と記録されています。ただ、地球自体とのパス、つながりは絶たれていますので「管理者」の意向も現状の達成率もわかりません』

「まさか、この星の覇権をかけて、殺しあえっていうんじゃ?」

『まあそれでもいいですけど、あなた方を送り込んだのは、せっかくため込んだ地球上の歴史がもったいないから、どっか別の星で活かせないかしら?という「管理者」の思いつきに過ぎません』


 そんな接ぎ木みたいな……。


「え?もったいないってどういうこと?」

『お察しの通り、地球の80億はもう未来を語らないのです』

「そんな詩的な表現はいいから。滅びたの?」

『正確には、このままだとこいつら全面核戦争で殺し合って地球もろとも大破滅だぜ。ならばいっそその前に全員ログアウトだ!とのことです』

「えっと、死ねば普通に「星霊」に戻るって話でしょ?順番に死んでも、戦争で一気に死んでもあまり変わらないのでは?」

『知的生命体、ここでは人でいいでしょう。これはどの星でもせいぜいが数千万規模の数にしかならないのに、地球では爆発的に増殖。結果として100億に近い人が存在した。この時点でもう他の「星霊」の羨望の的。その経験を全部「収穫」したときの変化について、「星霊」界隈では興味深々なわけで、中には、全部一気に味わったらどうなるんだろう?なんて焚き付ける輩もいたのです。そういう意味では、少しずつでも、一気飲みでもいのですが、ここまで増やしたから減らしたくない。次の育成舞台のため、土壌汚染は極力少なくしたいってのがありました。お時間大丈夫ですか?この話続けていいですか?』

「もうちょっときりのいいとこまで」

『過去、先史文明で放射能汚染がひどくて、結構苦労したんです。なので、自然災害で全員一気に収穫する計画だったみたいですが、その結果は知りません』

「なんで?」


 いいとこなのに!


『人を管理するため、「星霊」と人の間には、いくつかの階層があって、ま、会社みたいなものです。で、人の文化や科学技術といった発展を管理していた「管理者」が、これ全部捨てるのもったいない!って思ったのが、あなたがここにいる理由ですが、こちらの計画は収穫以前に発動しましたので、遠い地球のことはもう観測不可ですね』

「つまり、歴史の継承者?何にも持ってないのに?真っ裸なのに?まさか頭の中に全部入っているとか?」

『脳のスペックが低すぎて無理ですね』

「なんだとう!」

『あなたという個体ではありません。種の限界で、です。そもそも上位階層に届くような、下剋上を許すようなスペックで作ると思いますか?実弾の出る玩具の銃なんて嫌でしょう?』

「例えがわかりづらい」

『人と神の話とご理解いただければ結構です』

「……話を戻すけど、歴史は僕たちに何をしろと?」

『別に、何も、あなた方にはそれぞれ「役割」を設定してあり、その分野でエキスパートになれる能力を持っています。それを活かしてこの星を征服しても良し、宇宙に進出して「星霊」と同じ階層に辿り着くのも良し、お好きに生きてください』

「できればのんびり暮らしたいだけなんだけど……」

『それでもいいですけど、他の個体と出会うと、さてどうなりますかね?クックッ』

「争いになる?」

『覚醒してから、チュートリアルを聞いてどう判断するか次第ですかね。「役割」による性格の差異もあるでしょうし』

「僕は「設計士」だっけ?どんな能力があるの?」

『今はまだほとんど何もできないと思います。この星に慣れて、生きる時間によってできることが増えると思います。そこは本能に基づくとしか言いようがありませんけど。あ、消滅まで後3分ですね』

「そんな経ってないだろ!」

『話すと疲れること失念してました。情報の提供量によって残り時間が少なく……』

「いますぐだまれ!」

『……』


 何か、聞いておくことは無いか?時間が無い!


「残りの11人はどこに?」

『不明ですが「製造士」だけはそばに発生しているはずです。あなたと対になる存在なので。逆に言うとそれぞれ単体ではあまり効果が出ないので』

「なら、すぐ、となりに、発生させろ!」

『この星の元素を使いますからね。近すぎると不完全体が出来上がるところでしたけど?』

「……この星に生き物は?」

『さきほど言っていた標準生き物セットです。事前調査では、動物も、人も存在を確認しておりますが、個体数などは不明です。また、進化の仕方はともかく、ベースになる遺伝子情報は共有しているはずです。おそらく子孫も残せます』

「そいつらもこの星の「星霊」が宿っている?」

『この星の「星霊」はとっくの昔に放棄したみたいです。それでも魂の塊ってやつが星の上には存在しています。下位の「管理者」程度は残っていて、輪廻を回していますね』

「僕らにはその魂が入っていない?」

『思考できて自律できるので問題はないでしょう?死んだら無になるか、群体に戻るかの違いだけです。海に落ちた雨の一滴を区別できない以上、海になるか、蒸発するかぐらいの違いですよ。カウントダウン開始。60、59』


 あと、何かないか!

 聞きたいこと聞きたいこと……。


「せめて「製造士」とやらの方向だけでもわからない?」

『51、空間サーチをしてみます。……あ、見つけ』

「おい!おいおいおい!そんな消費電力の多い機能なら使うなよ!」


 ぽんぽんと頭を叩くが、チュートリアルアシスタントはもう完全に消滅してしまったようだ。


 仕方ない。

 とりあえず、他の仲間を探して、情報のすり合わせをしてみよう。

 出会って五秒で殺されるとかって、無いよね?

 でも、まあ自衛の準備だけはしておこうか。


 いや、もっと優先すべきことがある。

 服だ。

 僕は「緊急対応エリア」から衣類トランクを取り出す。


 四か所ある留め金を外し、重たい上部をがぱぁっと開く。

 普通のトランクのように、下部、上部が本のように開き、それぞれに衣類が詰まっている。

 下着、靴下、肌着、TシャツにYシャツ、スーツやドレスもめっちゃ詰まってる。

 サイズもまちまち、男女混合、用途もバリエーション豊富で、中には軍服のようなものまである。

 僕は、靴下と下着、Tシャツの上に麻っぽい長袖シャツ。だぼっとしたズボンを履く。

 着替えながら、だいたい身長は150cmくらいであることを知る。


 鏡が欲しいなと更に物色を進めようとした視界に、なにやら白い線が見える。

 それは遠い地平線上、狼煙のようなまっすぐな煙であることに気付く。

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