第2話 アキ2

『ちなみにワタシの寿命は残り36分です』

「……どういうこと?って聞いてもいい?」

『あなたは未来永劫頭の中に聞いたらなんでも応えてくれる似非人格を飼ったまま生きていたいんですか?あなたのプライバシーも隠し事もこっそりしたいあんなことやこんなことも全部ワタシにつまびらかにして生きていたいんですか?第一、誰かに頼るってことはあなたの成長を阻害し甘えや増長を生み……』

「そういうこと聞いてない」


 長くなりそうだったので止める。


『ワタシはあなたの脳を利用して存在してます。生成完了後から24時間がチュートリアル、つまり導入説明ですね。その時間がワタシのプログラムされた寿命。延長はありませんよ?』

「そんな大事な機能なのに、残りが36分しか無い?」

『35分です』


 やばい、バカ話は時間泥棒だ!


「僕は何故ここにいるっていうか作られた?生成ってなに?」

『地球から遥か遠い惑星なのですから、物質を移動させるより現地調達した方がいいでしょ?それに、基本的な生き物セットの構成は同じだけど、地球とは惑星のサイズも自公転も一日の長さも重力も磁力も大気成分も……』

「地球って記憶はある。住んでた記憶とかってのは無いけど。で、ここは違う惑星で、そこに合わせて体が作られたと?あれかな異世界転生みたいなヤツ?」


 話を遮って自分の理解を話す。


『厳密に言うと、元の人格ってのはありません。まあ言ってみれば人工生命、ホムンクルスみたいなもんです』


 まあこうして思考できる以上そんな存在定義の論争はどうでもいいか。

 僕は僕なんだし。


『どうしました?ショックですか?』


 なんでそんな嬉しそうなんだろう?


「いやべつに。で、僕はなんでこんなとこに作られたの?新しい資源を求め惑星調査でもするとか?もしくは占領、征服?テラフォーミングってセンもある?」


 とりあえず頭に浮かんだ知識を話してみる。

 常識的に、遠い惑星の上に人を創り出すとか、僕の知識の中にそんな技術は無い。


『人の技術ではありませんからね』

「僕の心を読めるのなら、先に言ってくれるかな?ねえ、僕は客観的に見てずっと独り言を言ってるヤバい人に見えるんだよ?」

『先ほども申した通り、ワタシはあなたの脳で生み出されてますので、口に出された方が明瞭に区別できておすすめですよ?でないと思考が混ざります。ワタシの答えと、あなたの着想、果たして区別が出来ますかね?くすくす』

「……僕がここにいる経緯を簡単に説明してくれるかな?」

『62分くらいかかりますので、途中で切れますよ?』

「ダイジェストで5分くらいで」


 知りたいことはもっとあるんだ。服とか服とか!


「やっぱ先に着るものを出してくれないかな?」

『緊急対応エリアのアクセス権は確保したので、あなたも利用できますが?ワタシに選んでほしいんですか?』

「どうやって利用するの?」

『頭の中に「緊急対応エリア」と思い浮かべてもらえば、ダウンロードできる物資が閲覧できます』


 言われた通りイメージすると、なるほど説明しづらいがリストのようなものが浮かぶ。


 緊急対応エリア(レベル1)

 ・災害用非常固形食糧

 ・災害用非常食セット

 ・飲料水(500mL)

 ・衣類トランク

 ・雑貨トランク

 ・テント

 ・マット

 ・炊事道具一式

 ・野営道具一式


「……これは、どこにあるの?亜空間収納みたいな?」

『地球の物資を全部運ぼうとすると大変ですからね、当座の生活に必要なものに厳選して、ショートワープが可能な最寄りの宙域まで運んだんですよ。イメージすれば、あなたの手元にゲートが開いて送られます』


 話せば話すほど謎が増える。

 制限時間は減っていく。

 ……テレビの構造を知らなくても、視聴できる知識があればいいさ。

 とりあえず「衣類トランク」をイメージする。

 目の前に白い光、トランクがにゅうっと出てくる。でかいなおい。

 手に取ることをあきらめ、自由落下に任せる。

 ドォォンと衣類が入っているトランクとは思えない落下音。

 サイズは2メートル×1メートル。厚みは50cmくらいの金属製だ。

 

 どうすんだよこれ。


『仕舞う時は収納をイメージしてください』


 読むな心を。

 でも実際にやってみる。

 白い光が現れ、トランクがずるずると飲み込まれていく。


 よし、使用法がわかればとりあえずいいさ。次は情報だ!


『ダイジェストをお送りします?』

「お願いします」

『地球には「星霊」っていう、星に棲む、まあ精神的な生き物がいるって思ってください。「星霊」は宇宙のそこらじゅうにいて、いろんな惑星に棲んでいるんですよ。で、スケールのでかい存在なので、ただそこにいるって感じだったんですけど、たまたま、棲んでいた惑星に生命が誕生して、それらの営みが「星霊」にとってものすごく経験値を上げる効果があってですね、一気に存在のレベルが上がったんです。真面目一本で生きてきた人が中年になってアニメにはまったみたいな?』


 スケールのデカいオタ化の話だなおい。


『で、棲んでる惑星で生き物を育てるのが流行ったんです。最初は単細胞みたいなのが、どんどん複雑な進化を辿る。もちろん介入もてんこ盛りですけどね。で、いろいろいじったら、その惑星に対応する進化、分岐の果てに、いわゆる知的生命体の元まで辿り着いたわけです。もうこのころになると、他の「星霊」も興味津々で、株分けみたいにいろんなとこに輸出されたんです。のちのち「標準生き物セット」あ、もちろん概念的な造語ですからね、これ。で、それはとても人気で、地球の「星霊」も普通に採用したわけです』


 長いなおい。


『……知的生命体に「星霊」を小さく分離して「魂」として押し込む。見ているだけではなく、自分で楽しむようになった。いいですか?全ての魂は「星霊」の分体で、歩む人生は「星霊」にとって一人全役の仮想体験でしかないのです。知的生命体に入っている時にはそんなことは知りませんけどね。だって知ってたら面白くないでしょ?リアリティが損なわれる』

「僕の中にも「星霊」とやらが入っているの?」


 話の途中だったが、大事なことの気がして聞いてみる。


『あなた方は、おそらく全宇宙の中でも珍しい「星霊」の管理から外れた人間です』

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