第一章 設計士と製造士
第1話 アキ1
はじめに知覚したのは背中の痛み。
目を開けると青い空が飛びこんでくる。
どうやら寝ている姿勢のようだ。
そして体中の産毛が爽やかな風を検知してることを感じる。
「まっぱ、か……」
声を出してみるとえらく高い声色。
股間に手をやるとしっくりした存在感に出会えたので、僕は生物学上は男なのだろう。
ぎしぎしときしむ体をやっとの思いで起こす。
慣らし運転が必要だ。
そんな感想が頭に浮かぶ。
ついでに、僕は、状況と自分の存在に対し疑問を抱く。
「ここはどこ?僕はだれ?」ってやつだ。
座り込んだまま、顔を触ったり頭をなでたり(髪は短髪だった)して、体の状態を確認しつつ、周辺を見回す。
荒れた大地。
ところどころに枯れ草が見えている。
360度、見渡す限り地平線だ。
立ち上がって眺めても地平線が見える。
てことは、確か、半径4~5Kmくらいは何も無いってことだな。
と考え、単位や知識が備わっている事を理解する。
腰に手を当て、全裸のまま仁王立ちして考える。
このままだと、死ぬんじゃないだろうか?と。
太陽はほぼ直上。
自転している惑星なら日の入りまで数時間の猶予はあるだろうが、今の心地よい気温がいつまで続くかなんて誰にもわからない。
ていうか僕しか存在しないのだから、結局は何もわからない。
衣食住、そんな単語が頭に浮かび、瞬間、腹が生理的な欲求を訴えてくる。
グォォォォと音がする。
僕のお腹には猛獣でも住んでいるのか?
そのくらいすさまじい腹の虫が鳴いている。
「腹減った……」わざわざ言う必要もないのに思わず口に出る言葉。
今の発言で何カロリー消費したのか考えたら、無性に腹立たしくなったが、怒りをぶつける矛先が無い。
OKいいさ、まずは生きることを優先しよう。
僕が何故、記憶を失った状態でこんなところで寝ていたのかは、とりあえず生き残ってから考えよう。
「……だから、誰か助けて」
『要請により、余剰エネルギーによるアシスタントシステム起動確認。常駐モードに移行します。助勢をお求めですか?』
「……女性はとくに今はいらないかな?……」
『承知しました。それではまたお声かけください』
「あ、ちょっと、待って、ねえ、助けてってば」
僕は自分の頭をガンガンと叩く。
どこだ、どこにいる!
『自傷行為はお勧めしません。助勢……助力は必要ですか?』
「すぐに必要です。お腹が減りました。服が欲しいです。足の裏が痛くてたまりません。僕はなんなんです?あなたはなんなんです?これは妄想なのですか?」
僕は頭を抱えて身悶えする。
最初っから助力って言えよ紛らわしい!
『すみません。試験もせずに実行している計画ですのでいろいろと不備があるのは事実ですが妄想ではありませんがまだ完全な自律モードの調整が不足なためアシスタントレベルは3%ほどになりますのでまずは生命維持を最優先にリソースの配分を行いますのでいろんな質問には答えかねますます』
一気に喋って急に黙る。
「……ねえ、もしもし?よくわかんないですけど、あなたは誰なんですか?僕は誰なんですか?」
『ワタシは識別名称はありませんので、ヘイでもOKでもなんでも声かけください。あなたの識別はアキ。設計士です』
「……質問した答えをもらっても新しい疑問しか湧いてこないんだけど?」
『アキという名前は、おそらくアーキテクトから来ているのでは?と推測します』
こいつはコミュニケーションを取る気があるんだろうか?
「名前はとりあえず置いといて、最初のお願いに戻りたいんだけど、OK?」
『OK』くそっいい発音しやがって……。
「まず、腹が減りました」
『何を食べたいのですか?ちなみに現地物質による合成を終えたばかりの生まれたてのほやほやですから、できれば流動食をお勧めします』
念の為、流動食の載ったテーブルでもあるのかと、その場で一回転してみる。
「無いよ!何もない!流動食も固形物も!」
『現地調達が不可能であれば、テラメモリの収納物資からダウンロードしますか?』
「テラでもギガでもいいから頼むよ!食いモンを、早く!」
『固有識別パスをつなぎます……承認。緊急対応エリアのアクセス権を確保しました。非常用糧食……ああこりゃ固形レーションです。おすすめしません』
「いいからよこせ!!」
目の前に白い光が広がったかと思ったら、そこから四角い箱がニュッと現れ、重力に引かれ、つまり地面に落ちた。
「災害用非常固形食糧」と書いてある。
パッケージを乱暴に破り、アルミ箔に包まれたブロックを取出し、封を開ける。
こげ茶色のビスケット状のそれを貪る。
ガウガウと絶食してた猛獣が餌にありついたごとく貪る。
「ぐっっっ!」
パッサパサのボッソボソだ、ゆっくり食べたって喉に詰まる。
水を用意すべきだった。
ていうか水はあるのか?
空間から現れた救いの食料に殺されそうになるなんて!僕はなんてドジなんだ!
「み、みず」
『ミミズですか?』なんてお約束な!
僕はもったいないお化けにたたられる覚悟で、喉に詰まった食料をブホッと吐き出す。
「水をくれ!」
『飲料水、生活用水、植物用の水やり、どれにしますか?それとも炉心冷却用ですか?』
「僕はなにか?原子力で動いてんのか?」
『そんなわけないじゃないですか?』
ああもうイライラする!
「あのさ、普通はさ、状況に応じて、前後の文脈やら行間やらを察して適切な対応をするもんだよね?AIなんでしょ?あなたは?」
『あなたを生成する過程で余ったエネルギーを使ってチュートリアル機能を持たせた似非AIもどきですけどね。くすくす』
笑うなや。
「飲料水をくれ」
目の前に先ほどと同じ白い光。
そこから500mリットルのペットボトルが現れるので、今度は落ちる前に掴む。
こんな簡単に出せる癖に!
僕はキャップを乱暴にひねり上げ、口の端からこぼれるのも構わず水を呷る。
「グホッ、グフッグフッ」
むせる。
でも、ようやく落ち着いた。
急に頭が冷え、状況が改善したのか、さらに困惑の度合いを深めたのか疑問しか湧いてこない。
体にこぼれた水が、そよ風に吹かれ気化する感覚に、自分が産まれたままの姿であることを思い出す。
「産まれたて?」
『はい。正確には生成完了後23時間24分が経っています』
生後0日ってとこか……なんだそりゃ。
『ちなみにワタシの寿命は残り36分です』
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