僕の日常
午前6時00分きっかり、アラームが鳴る。ベッドから起きるとペットが出迎える。
「ハッハッハッハッ」
「おはようゴールデンレトリバー。わかったわかった、エサだろ? ほらどいて」
大型犬ともなれば、腹の上に乗せているのが前足だけでもその重さは馬鹿にならない。犬種はシェパードだが何故そんな名前なのかはわからない、僕が3歳の時から一緒にいるからもう12歳だ。
寝室から出て1階に降りるとすぐ右手には誰もいないキッチンが見える。両親は共働きで夜遅くまで働いているから、朝は1人と1匹だけだ。僕の周りを妖精のように飛び回るゴールデンレトリバーに餌をやってから朝食の準備をする。トーストを焼き目玉焼き1枚にベーコン2枚を準備して、5分もすれば朝のニュースを見ながら食事を始めることができるのだ。
「へぇー、金卓銀行に強盗入ったんだ。」
チャンネルを変えるとどこもその話題で持ちきりである。金卓の専属ヒーローであるサーライトニングが初任務で主犯格の男を殺したらしい。
「犯人が錯乱して一般市民に被害が及ぶ恐れがあったのでやむ終えず殺害してしまいました。」
足をパタパタさせながら記者からの質疑に答えている。
「この人すごくせっかちなんだなぁ」
ヒーローは緊急の場合や、能力を持った犯罪者を殺害することが許されている。しかし最近では犯人を殺害するケースは無かったから彼はメディアの餌食にされていた。もともとヒーローと呼ばれる人間の能力は突然変異で、ほんの1部の人にしか発生しない。なぜ起こるのかさえまだ明らかになっていないうえその能力も十人十色である。生まれた時から親を持ち上げる孝行者もいれば、足が光と同じぐらい速かったりする人もいる。非常に珍しいケースだが、ある日突然空が飛べるようになってた人もいるそうだ。一部の専門家からは病気とも言われていて時々差別の対象にもなっていた。だからヒーローを批判するメディアも現れるのだろう。最近、警察や消防隊などの機関が無くなり、代わりにヒーローがその仕事を請け負うようになったから失職する人も現れ、恨みを買うことも多いのかもしれない。
時計を見ると6時30分になっていた。食卓を離れ、食器類を流しに置いた。7時には家を出れば学校に間に合う。顔を洗い、歯を磨く。普段、授業の準備は前日に終わらせているから時間に余裕はある。もっとも今日は終業式だから関係ないが。7時まで余った時間はテレビを見ながら過ごす、まだサーライトニングがインタビューを受けていた。防犯カメラの映像から、犯人を殺す必要があったのかと詰問されている。彼は大丈夫だろうか、もう少しで1番近くにいるインタビュアーに飛びかかりそうな顔をしている。
家を出ると10分で最寄駅に着く。学校は電車で1時間だ。駅にはいつも決まった人が決まった場所に立っていて、決まった時間に電車が来る、音楽を聴きながら外の景色を眺めているといつの間にか学校がある駅に到着している。改札を抜けると大きな友達が待っていた。
「おはようスベル!今日も同じ時間に来てるな」
剛力つよしだ。ラグビー部に入っていてこの学校の最上級ヒエラルキーに君臨する最強の男だ。こんなやつと友達になれて本当に嬉しい。
「なあ、今日もゲーセン行くんだけどさ。お前も来るだろ? 」
つよしは強引に肩を組むと一緒に歩きながら囁く。
「もちろんだよ、楽しみだね」
放課後はつよしとその仲間たちとゲームセンターで遊びに行くのが日課になっている。今日もまた誘いを受けてしまった。僕はラグビー部に入ってないし、どちらかというと根暗なグループに属しているのにこんなに仲良くしてくれるこいつらは最高だ。
教室に着くと、つよしは部活のメンバーがたまる場所へ行き大声で話に参加する。僕はというと1番後ろの隅っこの机に座り、ヒーロー図鑑を取り出して読み始める。親しい中にも礼儀ありってやつだ、互いに過干渉しないことも大切だろ?
チャイムが鳴り教室に先生が入るとそれまで立って喋っていた生徒が一斉に自分の席に座り始める。お調子者のつよしでさえ大人しく着席して先生の顔を尊敬の眼差しで見ている。教卓に立つのは、弓岡あたる先生だ。体育の受け持ちでサーライトニングよりもあるんじゃないかというぐらい筋肉質で人気者の先生だ。そのうえ人格者でつよしが僕に対する少々やりすぎなイジリをいつも止めてくれる。
「みんなおはよう、今日は終業式だ。通常は明日から冬休みに入るが、知っての通りお前たちは受験勉強のため進路が決まるまでは学校に残ってもらうという決まりだ」
クラスメイトは、話には聞いていたが改めて聞くとかったるいな。という雰囲気である。
「まあ、このクラスはほぼ全員がそれぞれのレベルにあった進路を決めているから心配はないがな、特につよし」
つよしはここぞとばかりに背筋をピンと伸ばした。
「お前はヒーロー志望だったな、明後日が群雄高校の試験か。お前なら絶対大丈夫だと思うが油断はするなよ」
彼はコクコクと強く頷き、やる気に満ちた表情をした。
「よし、ホームルームは以上だ。チャイムが鳴るまでは全員自習をしておくように。時間になったら学級委員長はクラス全員を外に整列させて先生が来るのを待っててくれ」
ホームルームが終わると先生が自分にだけわかる目配せをして廊下に出るよう指示してきた。きっと進路のことだ。僕は一足先にベンガリー高校への進学が決まっている。クラスで自分1人が立つ気まずさを感じながら外に出ると先生が待っていた。
「よし、来たな。広川はベンガリーに進路が決まってるから明日から学校に来る必要はない。今日から卒業式まで学校に来ることはないから友達に挨拶しておくんだぞ」
「はい、わかりました」
僕は精一杯の笑顔で答えた。
「広川、お前何か悩み事とかはないのか?つよしのこととか。あいつはやりすぎなんだ、なんかあったらすぐに言えよ」
先生は全てお見通しだとでも言いたそうな表情で聞いてきた。
「いいえ? 毎日楽しくて、あいつらと離れると思うと卒業が寂しいです。」
失礼します、僕はそう言うと逃げるように教室に戻った。
扉を開けるとどことなくクラスの様子がおかしい。気にしないふりをしながら席に座る。
突然尻に鋭い痛みが走る。
「ぎゃっ」
痛む場所に手を当てると画鋲が刺さっていた。始まった。僕は彼の方を見ながら微笑みかけ、やめろよと言う。傷がジンジンする。何故か体全体が痺れたような感じだ。つよしとその仲間たちはゲラゲラと笑いながら、ごめんごめんと言う。まいったな、ゲームセンターの時のノリを学校に持ち込まないでくれよ。そこでいくらでも相手してやるからさ。今度はいくら必要なんだ? なんでも言ってくれよ。
これが僕の日常だ。毎日が楽しくてたまらない。そうだ、名前の紹介がまだだった。僕の名前は広川スバル。多分いじめられてます。
Hero School The KingO @sukaaazum
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