Hero School

The KingO

僕の憧れ

 扉が開き、突然激しい重低音が轟いた。

「騒ぐな、喋ったら殺す」

武装した集団のリーダー格が開口一番にこう叫んだ。

 東京の中心部に位置する「金卓銀行」で未曾有の事件が起こった。日本の全ての銀行を合併吸収し、いまや世界一の銀行とも呼び声の高いこの場所でこんなことが起こるのは前代未聞である。

 強盗団は入口を固め、従業員に銃を向け手を上げるように命令した。周囲の客を隅に追いやると受付と一本道ができた。リーダー格がつかつかとゆっくり前へ歩いていく。そして10個ある受付の内、眼鏡をかけた男性従業員が座っている真ん中まで進んだ。

 「ここにあるすべての金をこのカードに入金しろ」

 男はおそらく尻ポケットに当たる場所から黒いカードを取り出し、受付カウンター上に乱暴に叩きつけた。

 「こ、こここれは弊行ではあつかっておりません」

 受付の従業員が絞り出すように言った。いかにも仕事ができそうな風貌をしているが[イラスト付き! 読んで楽しい業務マニュアル]189ページ(武装した強盗犯の対処法)を読まなかったらしい。大男は頭をぽりぽり掻きながら、しばらく考えこう凄んだ。

「おかしいな。ここの銀行はすべてのカードに対応していると書いてあったぞ入口にな! 」

 受付の男性はガタガタ震えながら説明する。

「ここちらのカードはフフフフィットネスジムの会員証と記載されておりっおります。似たカードをおお持ちではありませんか? 」

 強盗の男は苛立ちを露わにし迫り続けた。

「いいか? すべてのカードといったらすべてのカードだ、フィットネスジムのカードが使えないならそう書いておけ! 今すぐに!」

 受付の男はもう携帯のバイブレーションと違いがわからないぐらいになっていた。数分前まで貴婦人と資産運用についてはきはきと話していた姿はどこにもみあたらない。だがよく見ると、右手が不自然に机の下に伸びている。この従業員はこんな状況にこそ興奮するスケベなのではない。マニュアル特典の袋とじ(セクシー女優が解説する命の危機の対処法)は穴が開くほど読んでいたらしい。リーダーの男が手下達にカードの有無を聞いているうちに、机の裏にある緊急ボタンに手を伸ばした。しかしリーダーの大男は見逃さなかった。

「お前、まさか、、、、」

 終わりだ。父さん母さん先立つ不幸をお許しください。あと僕の部屋のものはすべて燃やしてください。特にベッドの下とパソコンのファイルは入念に焼いてください。

 頭の中で遺言をひとしきり考えた後、目を瞑った。

「シコってるのか? 」

大男は大真面目にそう聞いた。あまりに意外な質問に手下達も覆面の上からでもわかるほど驚いていた。

「シコってます。」

 受付の男は営業で培った機転を利かして答えた。

 「ふん、まぁいい。満足したらすぐに金を出せ。お前は見込みがある、俺と一緒にこい」

ここで多くの手下達がうちのリーダーはとんでもない馬鹿だったと気づいただろう。店内の空気が一瞬抜けた、刹那入り口で雷が落ちる音がした。さっきまでそこにいた強盗団の姿がない。炸裂音が続く。音が聞こえる度ひとり、またひとりと強盗団が減っていく。いくら馬鹿のリーダーでもこの状況がおかしいことは理解できた。

「来たなヒーロー、出てこい相手してやる」

 大男はファイティングポーズを取った、しかしどこに向ければいいかわからず、右往左往していた。手下の最後の1人が消え、あたりは一気に静かになった。

 「来るならこい!うろちょろしやがって卑怯者が」

 その時今日1番の炸裂音が聞こえ、巨漢の前に砂埃が舞う。残ったのは従業員の男1人と巨漢、そして真っ黒な下地に黄色い稲妻のような模様が付いた奇妙な服を着た男が砂埃から現れた。見渡すと他の人間は見当たらない。大男は怒りを露わにして叫んだ。

「貴様をこ」

またもや大きな音が聞こえ、大男に電撃が走ったように見えた。大男を見ると肘から先が無くなっており、地面に跪いて呻き声を上げてきた。

 「お前は」

音が鳴り止まない、男の武装が解除されていく。また音が鳴ったと思うと左腕がなくなっていたりする。ついに音が鳴り止むと、さっきまで銀行を占領していた巨漢の存在は無くなり従業員の男性と謎のスーツ男が残った。

 「君が通報してくれたんだね」

 そのヒーローは身体のわりにしっかりとした声をしていた。

 「おかげで誰も死者を出さずに済んだよ」

彼は心底笑顔で話していた。従業員は目の前で起きたことが信じられないと言った表情だった。

 「あの、政府公認ヒーローの方ですか?」

 受付の男性はしばらくの放心状態を経て、やっと質問ができた。

 「まぁ、そんな感じかな。正確には金卓の専属ヒーローなんだ。じゃあ僕はこの辺で、警察に事情を説明するから」

 ヒーローはそう言って外に出ようとした。しかし、受付の男は質問を繰り返す。

 「あの、男が何か言おうとしてましたけど、、」

 ヒーローは食い気味に答えた。

「犯罪者が何かいうタイミングこそ狙いどきだ。いちいち話してられないだろ」

とてもせっかちなようだ、足をパタパタと揺すっている。受付男は幼い頃の夢を思い出して、ここぞとばかりに質問攻めした。

 「なにか口上はないんですか?」

「何を言ってるんだ、わざわざ敵の注目を浴びる行為なんてするわけないだろ。映画の見過ぎだ、あんなこと言う暇があったら敵1人倒す方が生産的だ。」

 従業員がまた質問をしようとしたがその時には雷鳴と共に姿が消えていた。

 「あ、名前も聞いてなかった」


 


 





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