ただいまソロ育児中

カユウ

第1話 大変さが変わらないから気持ちの問題

「お父さん、YouTube 見ていい?」


「え、今?あーちょっと待って。これから詩織をお風呂に入れるところだから、それが終わってからでいい?」


「はーーい」


 目を向けるたびに遊ぶおもちゃが変わっていた健太が、洗い物を終えた僕のもとに来た。ちらりと見た時計はすでに11時を指している。詩織を風呂に入れようと思っていた時間を過ぎている。健太に謝意と代替案を伝えると、落胆したような声の返事が返ってきた。健太にはいろいろと我慢をしてもらっているのが、申し訳ない。

 7歳になった健太が今ハマっているのは、YouTube だ。ゲーム実況が楽しいらしいのだが、悪意を持った大人が上げた動画を見てしまったときを考えて、親の前で見るようにという約束をしていた。その約束があるからこそ、YouTube が見れないときの遊びが落ち着かないのかもしれない。

 そんなことを思っていると、あーうーという声が足元から聞こえた。生後半年の詩織は、腕の力だけで体を支え、ずりばいと言われる体制で部屋の中を闊歩 (?) していたようだ。


「ああ、はいはい。すぐお風呂の準備をするからね」


 詩織に声をかけると、腰ほどの高さまである安全柵をさっと開けて風呂場に向かう。

 ワンオペ育児。その言葉がインターネットの世界を飛び出し、雑誌やテレビで紹介されるようになってから、5年近く。各家庭の事情に左右されることもあるからだろう。これされやれば大丈夫、これがワンオペ育児の打開策と言えるようなものはない。


「え~っと、この後はっと」


 ざっと湯船と洗い場を洗うと、お湯をためるボタンを押して風呂場を出る。こういうとき、ホント引っ越してよかったと思う。あれこれ気にしながら、お風呂のお湯をためる音を聞いて、いい感じのところでお湯を止めに戻るっていうのは、僕には無理だ。自動的にお湯を張ってくれる機能には感謝している。

 朝ご飯で使った食器を洗ったから、詩織をお風呂に入れる。甲高い電子音に、2回目の洗濯機の運転が終わったことを知る。2回目の洗濯物を干したら、昼食を用意だな。健太と詩織に昼食を食べさせたら、夕食の買い物と仕込みをする。そういえば、昨日、健太からボディソープがなくなりそうって言われたんだった。あとで詰め替えしておかないと。さっき風呂場に入ったんだから、やっとけばよかった。この辺が妻に非効率と言われる原因なのかもしれない。

 お風呂を終えた詩織を、布団の上にころがすと、ぬいぐるみを振り回し始めた。なんとなく機嫌が良さそうだ。


「健太、YouTube 見るか?」


「うん!」


 昼食の準備をしながら、健太が YouTube を見る様子を見る。冷凍しておいた肉をレンジで解凍しながら、うどんを戻す用のお湯を沸かす。1つずつ順番にやっていかないと料理ができなかった僕も、少しはレベルアップできたのだろう。多少の平行作業をすることができるようにはなった。とはいえ、食材を切りつつ炒める、というようなことはまだまだできないのだが。そう考えると、やっぱり妻はすごいんだな。ときどき健太と会話をしつつ、昼食の準備を進める。


「健太、ご飯できたよ。手、洗っておいで」


「はーい」


先ほどより元気のよい返事。YouTube を見れたのがよかったのか。それとも、相手することができたのがよかったのか。健太からすれば注意ばかりされるのはつらいんだろうな。それに、半年前までは自分しかいなくて、僕も妻も健太の相手をすることができていたから、まだ今の状況に慣れていないのかも。1人育てるのと、2人育てるのは違うよ。


「ねぇ、お父さん。お母さんっていつ帰ってくるんだっけ?」


昼食後の洗い物をしている僕に、健太が問いかけてくる。


「今のところ、次の月曜日の予定だよ。健太が学校に行ってる間に迎えに行ってくるからね」


そう、今妻は家にいない。手術のために2週間ほど入院しているのだ。感染症予防のため、お見舞いに行くこともできないし、実家にヘルプを求めることも難しい。どうしてもワンオペ育児にならざるを得ない。


「お父さん、おやすみなさい」


「はい、おやすみ、健太」


健太を布団に入れ、ふと思う。僕は今、ソロ育児をやっているのだ、と。言葉に対するイメージだけなのかもしれない。けど、ワンオペ育児って言うよりも、ソロ育児って言うほうが自ら選んだ感があってよい。


「僕は今、ソロ育児中。もっともっと家事の経験値をつんでいくぜ」

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