第32話『しつこい店主は嫌われる』
いやーしつこかったな、あのラーメン男。食後に全力疾走とか、俺を吐かせる気なのかな? 潰すぞ、おい。
痛む脇腹を抑え、食い逃げ成功の達成感を味わいながら道を歩く。ニヤケそうになる口を必死で引き締め、出来るだけ不審に見えないように装う。せっかく食い逃げに成功しても、その後で捉えられては意味がない。
故に、道行く人々に誤解され、悪名を高くする訳にはいかん。悪名高い悪人など、今俺の目の前に現れた奴等だけで十分だ。
「へへへ、たった一人でそんな荷物を持ち歩くとか。不用心にも程があるぜクソガキ」
「気持ち悪い笑み浮かべてんなよ、盗賊」
眼前に居る盗賊3人衆。その中の一人、太った男が話しかけてきたので優しく応対すると何故か男の額に青筋が浮き出てきた。何に苛ついてんだこの豚は?
「兄貴に向かってなんて口をきくでゲスか!?」
「許せないでゲス!」
その太った男の後ろに控えている前歯の出っ張った二人組はなんか「ゲスゲス」言っている。どうやら、知能が低すぎるようだ。この二人と共に盗賊なんかしてたら。そりゃストレスも溜まる筈だ。
その八つ当たりに、この豚は俺に苛立ちを隠さずにいるのか。
「なるほどな。アンタの気持ちは分かったぜ、豚さん!」
「誰が豚だゴラァ!! もういい! てめえをブチ殺した後で持ち物を奪えばいい話だ」
右手の親指をぐっと立てて豚さんに見せると、またも豚さんは怒り狂ってしまった。腰に差してあるナイフを引き抜き、俺に襲い掛かってくる盗賊共。
だが、俺は恐怖を感じない。もっと速く、強く、怖い妹と数時間前まで共に過ごしていたのだ。こんな奴ら程度にならもう恐怖は抱かない。それに、こんな奴等は戦わなくとも撃退できる。
「――失せろ」
【気迫】を発動し、気を込めた一言を盗賊共にぶち当てる。気に当てられた盗賊共は精神が耐えられずに気絶し、遂に倒れ伏した。
ふっ、容易いものだ。
「さて、お前等は何を持ってるのかな~?」
目には目を歯には歯を、悪には悪を、だ。悪を持って悪を制す為に、致し方なく盗賊共の装備を漁る。とは言っても、コイツ等が持っていたのは3人合わせてナイフ三本と小袋、多少の金程度だ。
まぁ、ちまちまゴブリンを狩るよりは稼ぎになったが。盗賊を名乗るのなら、せめて金貨の二十~三十枚ぐらいは持っていて欲しかったところだ。
「お、おいてめえ!」
「なんだよ、また盗賊か?――げっ!」
声のした真後ろへ振り向くと、そこには先程の『ラーメン』とかいう料理の屋台を出していた男であった。この盗賊共がいなければ逃げ切れたものを、これだから盗賊という奴は。
やれやれと首を振っていると、そこにこちらへ指を差してくるマナーの悪い男が一人いた。言うまでもなく、奴である。
「誰ですか?」
「白々しいんだよ食い逃げ野郎!」
「人聞き悪い事言ってんじゃねえよ!!」
「逆ギレしてんじゃねえっ!」
怒りの形相でこちらを睨んでくる男を睨み返す。
一種の膠着状態と化したこの状況では、逃げたところで捕まるのが関の山だ。
ホントに何なんだコイツは! いくら俺が食い逃げしたからって普通屋台を放っといてまで追いかけに来るか!? 非常識にも程があるわ!
「――――おい、一つだけ聞きたい事があるんだが」
ふと、何かに気づいたような素振りを見せ、目の前の男は口を開いた。
「そこに倒れてる盗賊共は、お前がやったのか?」
「あ? まぁそうだが……それが何か?」
誘導尋問でも仕掛けてるのか? 残念ながら、そんな幼稚な罠に引っかかる程このアルキバート様は甘くない。
諦めてさっさと帰れ!
「……よし! お前、うちの店の用心棒になれ。それでラーメン代は勘弁してやるよ」
「は?」
急に閃いた様に手を叩いた男の吐いたセリフに、俺は一瞬呆然としてしまった。
が、直後すぐに開いた口を動かし、噛みつくように言葉を紡ぐ。
「こ、断る! 俺はようやく自由の身となって旅に出れたんだ。それなのにお前のクソ屋台の用心棒だと? 調子乗んじゃねえ! あんな店に用心棒なんざ必要あるかボケ!」
「テメエの罪を王都の憲兵にでも報告してやろうか?」
「いやー有難いです! 私仕事が無くて困ってたんですよ~、是非貴方の店で働かせてください!」
朗らかな笑みを浮かべて申し出を受けた俺に満足そうに頷いた後、男は名乗りを上げた。
「俺の名前はラメン・コットンだ。これからよろしくな、食い逃げ兄ちゃん」
誰もテメエの名前なんざ聞いてねえよ。
真の強者は気迫だけで決着をつけるものである タラレバ @sinran
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