第11話『我が身に不幸が降り注ぐ』
ポイズンスライム戦からほどなくして時間が経ち、俺はダンジョンの五階層の攻略を進めていた。初ダンジョンで五階層まで進めるというのは、ルーキーとしては結構な偉業なのではなかろうか。
とはいえ、やはり五階層ともなると強力な魔物も出てくるようになる。化石の小龍『ガーゴイル』やら、石の身体をもつ『ロックゴーレム』やら、見るだけで気分を害する奴等ばかりで息も詰まる。
ぶっちゃけるともう帰りたいのだが、ダンジョンに入ってから未だに碌な成果も上げていない俺は、今のまま帰ってしまうと、ここでの苦労が成果と全く持って釣り合わないのである。
わざわざダンジョンまで来て? その上そこそこの魔物を倒して来たっていうのに何の儲けも無しというのはおかしな話である。世の中に蔓延っている理不尽の数々、それらに匹敵するほど納得できない。
という訳で、もう少し先へと進みたいのだが、先程名前を上げた魔物たちは俺の持っている鋼の剣では到底太刀打ちできる相手ではなく、結論として俺は隠れながらガーゴイル及びロックゴーレム以外の魔物を討伐しなければならない。
そして、出来る事なら魔石を抜き取る!
くふふ、完璧な計画である。
「――て、言ってる傍からこれですよ!」
ロックゴーレムの集団に追い掛け回される滑稽な男が、ダンジョン内に存在していた。
言うまでもなく、俺である。
岩陰に隠れていたところをあっさりと見つけられてしまった時は死を覚悟したが、そこをうまく逃げおおせたのだ。いや、逃げ切れてはいないけども。
ロックゴーレムは足が遅く、力が強いという典型的な力技のごり押しでかかってくるような魔物の筈だ。しかし、何故かこのダンジョンのロックゴーレムは足が速いというか、常に全力疾走というか。ともかく異常だ。
何にせよ、このままでは埒が明かない。あのゴーレム集団をどうにかしてぶちのめさなくては。
「ちっ! 考えてる暇がねえなクソ!」
追ってくるゴーレムたちに加え、前方にはガーゴイルとポイズンスライムが通せんぼするようにしてダンジョンの通路を塞いでいた。超困る、超厄介。
後方からゴーレムたちが迫ってきている以上、立ち止まって真正面から戦うわけにもいかん。ガーゴイルの方は無視し、瞬殺できるポイズンスライムの方を処理して先に進む。
「は――――ああ、ア」
咆哮する。
土壇場で出てくる自らの聞いたことの無い大声に驚きながらも、稲妻の如き一閃を眼前の敵に見舞った。
彼の液体の身体が変色し、砂よりも細かい灰が舞う。
顔にかかる鬱陶しい灰をはたきながら、前に足を進めることだけに全力を注ぐ。
そうして、何分かした頃。追ってくる奴らの足音が消えている事に気づいた。
――あっぶねえええ! 今のは本気で死ぬかと思った!
危うく走馬灯が見えかけるところだった。あのゴーレム共はマジで許さん、いつか地獄へと見舞ってやる。
もうちょい奴等への悪態でもつきながら、座って休憩を取っていたいところなんだが、ここに長い時間居座るのも中々にリスキーな話だ。
いつまた魔物に襲われるかも分からないし、今回のところはここら辺で終了にしよう。ま、今日の身体の酷使具合を見るに、明日は確実に筋肉痛に苛まれるから、次回がいつになるかは定かではないが。
ともかく、今日は疲れた。早く帰って寝たい。風呂入りたい。飯食いたい。
「はぁ、次回があると思うと憂鬱だぜ」
本当に憂鬱だ。少なくとも今日のような体験を後数回はこなさないといけないのだから、憂鬱な気分にもなる。
ため息をつく回数も自然と増えてしまう。
「もう考えんのやめよ」
嫌なことをいつまでもうじうじと考えていても仕方がない。取り敢えず今は、家に帰ってからの優雅な休憩時間のことでも考えて悦に浸ろう。
*
「おいおい冗談はよしこちゃんにして欲しいんだが? この世界はどんだけ俺の事を嫌っているわけ?」
思わず口に出る独り言も、世界への怒りも、今は許してほしい。
何故かって? そりゃあ勿論、今俺の身に信じられない程の不幸が舞い降りてきているからさ。
ダンジョン攻略を中断した俺は、寄り道も道草もせずにそれはそれは真っすぐにダンジョンの出入り口へと向かっていた。
途中で何度か魔物に出くわすことはあったが、先の乱戦をくぐり抜けてきた今の俺に敵うものなし。即座に潰してやった。
それは良い。それは良いのだ。むしろ流石俺と褒めて欲しいところである。
問題はその先にある。
出入口へと向かった俺を出迎えてくれたのは出入口である洞窟の穴が埋まってしまうぐらいの馬鹿でかい岩石であった。ようは、出入口が岩石で塞がれてしまったのである。
全く、不幸というのは普通幸運が来てからくるものじゃないのか? 最近の俺は碌に良いことがないにも関わらず、変に不幸ばかりが降りかかってきている気がする。
おい天よ。不幸の割り振りを間違えているぞ。
と、誰か天に教えてあげてくれ。俺の為に。
「面倒だが、退けるしかないか」
とは言っても、当然俺の腕力ではこのどデカい岩を退かすことは出来ない。故に、少し特別な手段を用いてこの異常事態を突破する。
魔物の体内に存在し、魔物の核としての役割を担う魔石。それは、加工することで武器を強化しうる魔の宝石へと変異することもあれば、魔道具における基本的な部品である魔力タンクを作り出す為の材料として使われることもある。
要は、魔石とは人類にとって素晴らしく価値のあるものなのだ。
そして、そんな魔石にはもう一つ使い方がある。
あまり知られていないが、加工のされていない純粋な魔石に魔力を込めると、その込めた魔力からは考えられない程の大爆発を起こすらしい。
因みに、師匠曰くである。信用性は五分五分だな。
「ま、何もやらないよりはマシか」
そうして、適当な魔物から魔石を抜き出そうとけだるげに振り返り足を進めようとした瞬間であった。
振り返った時に目に入ったのは、そこかしこに倒れているロックゴーレムの集団である。おそらく、さっき俺を追いかけてきていた奴等だろう。ここまで追ってくるとは、律儀な奴等だ、見習いたい。
そんなロックゴーレムたちは、このダンジョン内ではかなりの強者とされている筈だ。セレスのような超人共の挑むようなダンジョンならともかく、俺のような駆け出しの挑むこのダンジョンでは、ロックゴーレムよりも強い魔物はそうそういない。
何故なら、このダンジョンで最も強い魔物がロックゴーレムであるからだ。
その最も強いロックゴーレム様たちが無様にも致命傷を負い、道端に倒れている。では、複数のロックゴーレムを相手取り、その致命傷を負わせたのは誰だ?
心配しなくとも、今からちゃんと口にしてやるさ。口にしたくもない奴の名前だったが。
「――ミノタウロスか。ロックゴーレムを倒せる魔物と言えば納得できるが、何故このダンジョンに?」
片手に持った斧を大きく振りかざしているミノタウロスを前に、ふとそんな疑問が頭によぎり、無意識に口に出していた。
とにかく、死なないように逃げよう。
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