第9話『やはり宗教の教えは信用できない』

 近頃やたらと忙しいせいで中々に疲労が溜まってきている。にも拘わらず未だに俺の運勢は大凶のようで、つい先日はとんでもない殺気を飛ばされた始末である。


 遂に俺は神に見放されてしまったようだ。最近になってやっと信じ始めてきたのに、また神の存在が疑わしくなってしまった。やはり、宗教なんぞの教えは真に受けるものではないな。いつか損するぞ。


 元々俺は、自由で退屈な充実した生活を満喫したく思い、こうして修行という名の人生計画を遂行していっているわけで。何か危険なことに首を突っ込んだりなどは決してしたくないのだ。


 だというのに、俺の周りにいる連中は俺の悠々自適な生活を邪魔してくる奴等ばかりで、俺も気が気ではない。だからこそ、今俺は一人で活動を再開しているのだ。


 このような世間話を聞かせる相手もいないというのは中々に寂しさを感じるものだが、それ以上に俺の『充実』を求める欲望が強いので何も気にしていない。


 もしかしたら、俺の辞書には孤独などという言葉は載っていないのかもしれない。そもそも孤独というのは単に独りでいることを示しているだけであって、本来は何も悪い意味を持つ言葉ではないのだ。


 それを、今の人類が勝手に変な偏見で悪いようにしているというわけだ。くだらないにも程があるな。まださっき話した宗教の教えを聞いていた方がマシである。


 して話は変わるが、俺はもう既にあの森からは移動し、今は見かけた魔物を積極的に狩っていっている。それこそ狩猟者の如くで、いずれはそっちの道へ進むかもしれん。


 そんな才能溢れる俺なのだが、やはり修行というのは一筋縄ではいかない様であり、かなり計画に遅れが出てしまっている。元の計画では約一年ほどで修業は終える筈だったのだが、見通しが甘かったようだ。


 だが、失敗をしない人間は人間じゃないというし、いちいち失敗を引きずるのも俺らしくない。師匠とは違って、俺はメリハリのある男なのである。ここは多少きつくても無茶をするのもやむを得ない。


 もっと効率的に実践の経験が積める場所を早めに探さなければ!


 と、意気込んではいるものの、既に目星はつけている。流石俺だと褒めて欲しいところだが、それはまたの機会にしてもらおう。


 *


 砂利で出来た道を進み、途中何度か小石に足を引っかけてすっ転びそうになったところをなんとか耐えてみせた英雄である俺。


 安っぽい英雄と呼ぶのは勝手だが、言うは易し。これは中々な偉業なのである。小石に躓き、転びそうになったことを瞬時に感じ取り、転ぶよりも早く足を出して身体を支えたのだ。


 どうだ? アンタらにこんなことができるか?








――出来るだろうなぁ。


 さて、そんな雑談はどうでもいいのだが。何はともあれ、そんな安っぽい英雄である俺は、今とある洞窟の入り口に佇んでいた。


 無論、ただの洞窟ではない。ダンジョンである。


 ダンジョンとは、主に伝説の剣やら魔法の宝石やらのロマン溢れる秘宝が眠っている素敵な場所であると言われているが、ただ素敵なだけではない。


 そんな簡単に秘宝を手に入れてもらっては困るという事なのだろうか、ダンジョンには多くの魔物が徘徊しており、それらの魔物は当然強い。何が当然かなのは理解しがたいが、とにかく今言えることは、俺の修行場として、ダンジョンが適しているという事だけだ。


 それで、突撃するのはするで良いのだが、流石に革鎧と鋼の剣一本でダンジョンに突っ込むというのは心もとない。そこで、色々と準備をさせてもらった。準備がいいね。


 キチンとした前準備を忘れない自分に感心しつつ、さながら当然の如く松明を取り出して火をつけ、明かりを用意する様は、流石俺と言ったところだろう。


 もしセレスが見ていたならば、流石兄弟子と言ってこちらが引く程に褒めちぎってくれるところであるが、今はそんなことをしてくれる親切心に塗れた阿呆もいない。


 少しの寂しさを感じながらも、勇敢に洞窟型ダンジョンへと入っていく俺なのであった。


 


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る