満日書紀

 むかしむかしのそのむかし。天地あめつちが出来たばかりで神々から作られた人というものも生まれたばかりの頃、数多くの神が人間に交わりながら過ごしていた時代です。それはとてもとても幸せに満ちておりましたが、そう長くは続きませんでした。

 豊かになりすぎたせいか、争いが起こり始めたのです。

 たくさんの物が壊されました。たくさんの建物が焼かれました。たくさんの人が殺されました。田畑も焼かれ辺り一面焦土が広がり始めました。

 神々は人の愚かさに嘆き、哀しまれました。しかし、いくら止めてもいくさの火は鎮まりません。遂には神々に仕えていたおかんなぎめかんなぎまであやめられはじめました。

 これに大層腹を立てたのは大地と黄泉を司っている女神様です。

「人というものはかくも愚かだ。中でも男子おのこは、自ら子を生む事が出来ぬのに命を奪う事は女子めのこよりよほど達者ときた」

 男を創られた天空と太陽を司る女神に世の有り様を慨嘆なさいました。

「貴様の作品がこのような外道ばかりなせいで黄泉の国には男子よりもか弱い女子や子供で溢れておるわ。この沙汰をどうするつもりか」

 天の女神様は静かに涙を流しながら仰いました。

つちに生ける男子を全て我が一部として引き取りましょう。そうしたら、無闇に命が殺される事もなくなるでしょう」

 そう言うと地にいた全ての男子を自らの中へと再び収められました。

 後に残ったのは女子だけ。しかし、男子と交わらねばいずれ人は絶えてしまいます。そのため天の女神は仕方無しに残った女子の半分に男根をお付けになられました。

こうして、満日みつひの国から男子はいなくなり女子と、男子の機能が付けられた女子が地上に残されました。妖から民を護る力を持った天の女神の血を引く一族がみかどとしてこの満日の地を治めるようになりました。そして、戦を収めるのに尽力した六つの氏族、卜部うらべ櫻祇おうぎ清原きよはら佐伯さえき大綱たいこう安井やすいの六氏族は帝に忠誠を誓い、共に満日の国を支えていくことになりました。

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貴女に花を 紗川翔琉 @novel922

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