ソロクリア不可能のゲーム
かどの かゆた
ソロクリア不可能のゲーム
中学生くらいの時に、友達とよくやっていたゲームがある。
モンスターを集めて、育てて戦うみたいな、そういうゲームだった。
「へぇ、新作かぁ」
SNSで流れてきた情報によると、あの頃やっていたゲームの新作がもうすぐ発売するらしい。社会人になってから久しくゲームをしていなかった俺だが、アホほどゲームをしていた大学生の頃の名残でSNSにはかなりゲーム情報が流れてくる。
懐かしいキャラクター達がすっかり新たな出で立ちになっているのを目の当たりにして、忘れかけていた感情が胸の奥でざわつく。そのくすぐったい感覚に突き動かされて、俺は気づけば注文ボタンをタップしていたのだった。
発売日当日。
仕事から帰ると、ポストにゲームソフトが届いていた。
押し入れからしばらく出番の無かったゲーム機を取り出して、ティッシュで埃を拭く。何だかこういう準備の時間が楽しくて、自分の口角が勝手に上がっているのを感じた。
何ていうか、まるで、子どもに戻ったみたいじゃないか。
それから俺は心ゆくまでゲームをした。色々と勝手を忘れていたし新しい要素も沢山あったので、長い間やった割にはあまりストーリーは進まなかった。
でも、本当に楽しかった。
こんなにゲームというのは良いものだったのか、と改めて気付かされる。
「あー、おもしれー」
誰も居ない部屋で、一人呟く。
このまま、俺のペースでやろう。実家の子供部屋に閉じこもって、深夜まで目をギラギラさせていたあの時みたいに。ひたすら、自分だけでこの楽しさを享受してやろうじゃないか。
明日が休日なこともあって、俺は徹夜する気満々だった。
とはいえ、家に帰ってからずっとゲームを続けている。もうかなり遅い時間だが、腹が減ってしまった。
「何か食べるか……」
ゲームを中断して、冷蔵庫を開ける。
……なにもない。
仕方なく、俺は戸棚にあったパスタを茹でることにした。とにかく食事はぱっと済ませて、一刻も早くゲームを再開したかったのだ。
パスタを鍋に入れて、六分待つ。
その間手持ち無沙汰で、俺はふとポケットからスマートフォンを取り出してSNSのアプリを開いた。
SNSは知り合いも他人も俺と同じゲームで盛り上がっていて、あぁ、俺と同じような奴が沢山居るんだなぁ、と嬉しくなる。
「……あ、あれってそうやるのか」
タイムラインに流れてきた動画に、どうやって行くのか分からなかった場所への行き方が分かりやすく紹介されているものがあった。
丁度やっているゲームだということもあり、目線がサムネイルに吸い寄せられた。数秒の動画で俺はそのステージに隠された謎を瞬時に理解してしまう。
タイムラインが更新される度に、ゲームの最新情報が次々と出てくる。暇な奴とかこのために休暇をとっていたような奴はもう既にクリアしているようで「ラスボス余裕だった」とか「最強モンスターはこいつ」だとかって話をしていた。
「あー……」
見なけりゃよかったな、と思った。
でも、このためにSNS断ちをするっていうのも、何だかなぁ。
一人でやろうと、そう決めたのに。結局、俺がソロプレイをすることは叶わなかったらしい。これからの俺のプレイには、今見た人たちの影響がどうしても付きまとうのだ。まぁ、だからってどうって訳じゃないけど。
茹で上がったパスタをたらこソースに絡めながら、ぼんやりと考える。
SNSを断って、たった一人で部屋に籠もって、そしてようやく俺は一人になれるのだ。そしてそれは、現代人にとって、すごく難しいことだった。
「一人になるのって、こんなに難しいことだったっけ」
思えば、俺の手元には常に「誰かと電話する」という選択肢が存在していた。電話じゃなくても、メッセージを送るだけだって一人じゃなくなるのには十分だ。
「ソロプレイ、ねぇ」
俺は苦笑して、完成したパスタをリビングへ運ぶ。
どうやら俺には、ソロプレイは不可能らしい。……もしかしたら既に、ソロプレイなんてものは存在しなくなってしまったのかもしれなかった。
ソロクリア不可能のゲーム かどの かゆた @kudamonogayu01
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