第3話 巫女さん、未知の惑星に来てしまう
「……スタ……マスター……」
「うぅん……ん?うわ!?……何だ、スパイダーちゃんか。びっくりした」
私はドキドキする胸を撫でおろす。
目覚めるとスパイダーちゃんが顔に覆い被さっていた。何事かと思ったよ。
「何してたの」
「気絶シタマスターヲ、腹部センサーデスキャン。頭部ノ異常ノ有無ヲ確認。問題無イト判断シ、覚醒ヲ促シマシタ」
なるほど。心配をかけたみたいだね。いや、プログラムの命令通りかもしれないけど。私としては前者だと思いたい。スパイダーちゃんには心がきっとある。
……って待って。気絶?
「どういう状況?」
「エスペラント帝国ノ帝都、天気神社ノ巫女デアルマスターハ、裏金ノ冤罪ヲカケラレ、ソウゾウシュ様ノ進言ニヨリ緊急脱出ロケットデ……」
「その辺は大丈夫。えっと、帝都脱出に成功した後、宇宙空間を二日くらい飛んでたよね。ツクヨミとも連絡を取り合いながら」
「肯定」
「それで……あ、そうだ、いきなりブザーが鳴り出したんだ。なんかヤバめの奴」
「肯定。突如、進路上二空間歪曲ヲ確認」
「ごめん。そこから分からない」
「緊急回避ヲ試ミルモ何者カニ制御ヲ乗ッ取ラレソウゾウシュ様トノ通信モ途絶。ロケットハ空間ノ歪ミニ吸イ込マレマシタ。ソノ後、別空間二出ル。ヨッテ、ワープホールデアッタト推測サレマス」
「えぇ……」
「周囲ノ星系ノ配置図ヲレーダーデ確認。マップ二存在シナイコトカラ、エスペラント帝国及ビ周辺交流国ノ支配外ト思ワレマス」
「えぇ……」
「今現在モ制御不可能。ロケットハ未知ノ惑星ヘト着陸中」
「Oh……」
危険が現在進行中だとは知らなかったよ。
スパイダーちゃんはもっと慌てた声を出して欲しい。
私は窓に近づく。何これ、おかしすぎでしょ。何がって?大気圏に突入したロケットがふよふよ雲の上を横移動している。いくら文系の私でもこんな物理法則はないと分かる。
呆けている私の背筋がゾワリとした。
あ、この感じ、あれだ。何で気づかなかったのかな。それだけパニックになっていたんだろう。仕方ないね。
一度気づいてしまったら疑いようがない。神様の力だ、これは。でも、私の信仰する天気の神様ではなく、別の神様。もしかしなくても拉致……呼び寄せられちゃったか、私。天気の神様が怒りそう。あとツクヨミも。
「ツクヨミに連絡は取れないよね?」
スパイダーちゃんは二本の前足でお手上げのポーズをする。
まあ、あっちはどうにかなるでしょう。天才妹の心配するだけ無駄だし。それに帝都には帰ろうと思えば帰れる手段があるし。どこの神様か知らないが、空間ワープが自分だけの専売特許だとは思わないで欲しい。こっちの巫女もやる時はやるよ?
さておき、ただ今は帝都に近づきたくない。気絶する前、ツクヨミから聞いた話だとウチの神社、軍に包囲されているらしい。だから後数週間は様子見。安否だけでも妹に知らせたいところだ、その辺は後で考えよう。
今の最重要タスクは安全の確保。神様パワーの空中移動は非常に落ち着かない。
ああ、大地が恋しい。
……そう思った時が私にもありました。
あれから程なくして高度が下がり、雲の下に見えた絶望。そしてロケットが着地してハッチから実際に降り立って、改めて感じた絶望。
「なんじゃこりゃーーー!」
普段は帝国一の淑女と言われる気がする私でも叫びたくもなる。だって右を見ても左を見ても、生命も文明も微塵も感じないまっさらな砂だらけ。砂漠というやつか。初めて見た。帝国ではテラフォーミング技術が発展しているから緑がない大地なんてあり得ない。
ということは帝国よりも科学力は劣るというわけだ。
これは朗報だろう。もし現地生物や住民がいて敵対した場合、スパイダーちゃんで対抗することが出来るから。
食料と水は数ヶ月分あるし、飢え死にすることはないんだけど、これはさすがに。
「はぁ……」
気が滅入る。生き物いるのかな、これ。
一応、降りる前にスパイダーちゃんに大気の成分を確認してもらった。私たち帝国民が活動できることは確認済みである。
望み薄だけど、やらないわけにはいかないよね。
私はロケットをメンテナンスしている五機のスパイダーちゃん達を見る。
ちなみにスパイダーちゃんは小型核融合炉を内蔵しており、外部エネルギー補給なしで半永久的に動き続ける。お財布に優しいロボだ。なお本体価格は……。
「スパイダーちゃん、探索お願いできるかな」
「範囲ヲ指定シテクダサイ」
「そうだな〜、とりあえず半径五キロで。それから五キロずつ広げる感じで」
「命令ヲ受諾」
私の話を聞いていた一機が腹這いになる。両手両足をピシッと真横に揃える。まるで翼のよう。説明しよう、スパイダーちゃん、フライモードである。姉妹機「飛ぶ鳥落とす君」、私は「バードちゃん」と読んでるけど、航空戦闘特化のバードちゃんには機動力で劣るが、普通の探索ならこれで十分。
私は砂埃を立てながら離陸して空に舞い上がるスパイダーちゃんを見送った。
それから私のやるべきことは、と考え、まずは周辺の環境を整えようと思い立つ。少なくとも数週間は過ごす予定であるので暮らし易い拠点をとっとと作ってしまおう。
久しぶりに巫女の力を思いっきり使えることにわくわくしながら手始めに「御利益カタログ」を召喚した。
お天気巫女さんの惑星探索 のの字 @nonojinoji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。お天気巫女さんの惑星探索の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます