ソロの君とソロな私

ちょこっと

第1話

 さて、夜の始まりだ。


 さて、おたのしみだ。




 子どもを寝かしつけてから、隣の部屋で転がってswitchをオン。眠りにつく前の少しの息抜き。お気に入りのゲームを起動して、日課をこなす事暫し。寝る前の一時間だけプレイするゲームは、のんびりしたもの


 のんびり夏休みを過ごすのとか、自分の島を作って好きに生活するとか、ブロックで世界を作るとか。あんまり頭使わないで、感覚や好みで出来るようなの。


 息抜きだもん。のんびり、自由に。


 今は、モンスターを狩るゲーム。オンラインだけど、ソロプレイ。やっぱ、夜泣きしなくなってきたとはいえ、急に子ども起きちゃう事もあるし。人と組むのは迷惑かけそうでやってない。ただ、やっぱオンの方が出来る事多くて楽しい。他の人が売ってる物を買ったりも出来るし。


 ちなみにこのゲームは、自分の家を持ったりも出来る。住宅街があって、番地で区切られているから、好きな番地が空いていればその土地を買うのだ。まあ、大体が早番人気で、早い方からとか、キリ番で埋まってくんだけど。


 私が選んだのは、中途半端な番地。早くも無いしキリ番でもない。かといって、じゃあ一番最後かというと、そうでもない。


 結婚記念日。


 番地は結婚記念日の並びにした。一応、住宅街だから他にも土地購入者が出れば他のプレイヤーと遭遇する事になる。でも、こんな半端な番号誰も買ってなくて。やっぱり私はソロプレイで、フィールドでたまたま狩りで一緒になる人とか、その場だけの交流くらいだった。


 フィールドで狩りをしている時に、ちょっと強めのモンスターとか、レアなのだと狩るのに結構時間がかかったり、そもそもソロではほぼほぼ無理だったりもする。


 そんな時は、周囲のプレイヤーも、パーティを組んでいなくても戦闘に参加出来るからガンガンみんな参加してくる。別にチャットとかしなくても、普通に狩りしてそれぞれにドロップがランダムで出されるものを各々拾って帰るだけだ。

 何人で狩ろうがドロップはランダムなので、戦闘に乱入したからって喧嘩になったりはしない。むしろ、時間短縮かそもそもソロは不可能に近かったりするモンスターだと、手伝い歓迎されたりもする。


 そんな、適当にその日の気分でフィールド出たり、装備作ったり、家を改築したり、自由気ままなソロプレイを楽しんでいた。


 ある日、住宅街で、隣人と遭遇した。


 最近始めたばかりな人っぽくて、初期装備で挨拶のモーションをしてきた。もしかしたら私と同じswitch勢なのかもしれない。パソコン勢はキーボードあり。プレステ勢だとあったりなかったり。switch勢はだいたいキーボードなし。だから、モーションだけでチャットしてこない人はswitchかなーと思ったんだ。


 初期装備だった隣人は、あっという間に家が豪華になっていった。装備も気付けば抜かれていて、かなりのゲーマーさんなのかな。にしては、発売からちょっと経ってゲーム始めてるのが不思議だけど。好きな人は大体発売日か、一週間以内位には買ってる感じだから。


 住宅街でたまにモーションの挨拶をするくらいだった私と隣人さんは、プレイ時間も似ているみたいだった。だんだん、余ってる素材とかを分けてくれたり、私も私で欲しい素材を取りに行くのに誘ってみたりした。チャットなしだから、モーションだけで意思疎通を図る。それもなんだか面白かった。


 パーティは組んでいないし、モーションでなんとなくやりたい事を伝えて、なんとなく伝わって一緒に狩り行ったり、伝わらなくてバイバイしたり。その不自由さも、なんか楽しかった。


 そんな、楽しみが一つ増えた私。


 大人になったら、こんな遊びで友達が増えるなんて、滅多にない。少なくとも私は無い。だから、嬉しかった。楽しみが増えた事も、友達が増えた事も。


 別の部屋で、夫も同じように楽しみが増えていた。





 毎日、仕事お疲れ様、俺。


 残業を終えて帰宅して、残り物チンして食う。妻は子どもの寝かしつけ中みたいで、子ども部屋からまだ少し物音がする。やんちゃ盛りのチビ達が、いやだいやだと駄々こねているんだろう。パっと飯食って、サッと風呂入った。


 寝室に行っても、まだ妻は来ないから、一緒に寝落ちしているのかもしれない。そもそも、子どもが出来てから寝室別にしてるけどな。夜泣きがしんどくて、俺が嫌そうにしてたら、別で寝かせるようになった。良かった。良かったが、そのまま妻も別室で一緒に寝てる。あれ、俺一人じゃん。


 風呂上りの髪を乾かしながら、プレステをつけた。好きなゲームを選んで待つ。今はモンスター狩るやつだ。学生の頃にやってて、最近また新しいのが出てた。仕事忙しくて中々手を出せなかったから、ちょい出遅れたけどまあまあ装備も整ってきた。


 今回、住宅街みたいなのが出来たから、取り敢えず家買ってみた。番地は、早番かキリが良かったけど発売から出遅れたからな。当然めぼしいのはなくて、どうしようかなって適当選んで決めた。半端な番地だったのに、なんかムッキムキのごっついキャラ使ってる人が一人だけ住んでた。

 キャラメイク的に、小学生男子かよといいたくなるような、人外種族ムキムキワイルドタイプだった。なんつーか、ガキが好みそうな。僕が考えた最強のキャラ、とか、そーゆーのが似合いそうな感じ。うちのチビ達がキャラメイクするなら、こんな感じにするだろうなーみたいな。


 俺? 俺は勿論、可愛い女キャラっすよ。ゲーム中だいたい自キャラの尻見る事になるのに、男キャラより可愛い女キャラのがいいじゃん。


 学生の頃だったら、チームとか入ってガンガンプレイしてたもんだけど、今はプレイ時間だって短い。気ままに効率よくソロプレイで好きな事だけやってた。勿論、高レベミッションとか、難易度高いのに参加したい時はTwitterとかで募集みてやったから、そこそこ早く駆け上がれたと思う。


 隣人のゴツキャラ君は、初心者なのかぜんっぜん装備更新出来てなかったり、プレイ速度がめちゃ遅かった。

 でも、なんかいつも楽しそうにしてた。チャットしてこないでモーションだけだから、もしかしたらswitch使ってる子どもなのか。嫌、時間帯的に子どもはないな。せめて大学生くらいか。んで、めちゃんこ弱いのに、めちゃんこ楽しそうだった。


 だから、つい、たまに予定が空いてる時とか、一緒に狩り行ったりした。楽しかった。もたもたしてたり、効率悪いなって事もあったんだけど、なんか一緒にプレイしてたら初めてプレイした学生時代を思い出す奴だったから。


 ソロプレイでちょい楽しむだけのつもりだった。


 相手もそんな感じだった。


 けど、気が付いたら、ソロとソロでなんか居心地の良い関係になってた。


 これ、チャットしたらびっくりするかなー。俺もいつもモーションだけしかしてないもんなー。もっと効率良いやり方とか教えてあげたいけど、チャットしねーと無理だよなー。


 本日のプレイを終えて、電源落としてそんな事を考える。


 ま、いいや。今はこの気楽な関係で。親しくなりすぎてもメンドイし。余裕ある時にでも、余った素材あげてみるか。


 そう、俺は眠りについた。





 私は、俺は、同じ屋根の下にいるとも知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソロの君とソロな私 ちょこっと @tyokotto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ