ソロ花見

信仙夜祭

ソロ花見

 桜が咲いた。

 何時もの私であれば、花見になど行かない。

 でも、今年は行くことにした。

 理由はない。しいて上げるのであれば、人がいなさそうだから……か。


 地元を離れて早二十年。

 友人も知人もいない土地に就職して、孤独に生きて来た。

 まあ、仕事は熟せているので、本当の孤独とはいえないか。

 友人や恋人のいない生活。私は、他人と関わり合いたいと思うことをせずに独りで生活している。

 理由はなかった。

 話題のために、スキーやゴルフ、テニスなどのスポーツに参加してみたが、つまらなかった。

 また、陶芸や将棋なども途中で挫折してしまった。

 他人といても、話題がない。重い沈黙が嫌だったのだろうな。コミュ障だったのかもしれない。

 そして、体調を崩して休日に引き籠ったのがいけなかった。

 もう誰も、私の相手はしてくれなかった。


 くだらないことを考えていると、近場の花見スポットに来た。

 人はまばらだ。これくらいならば、特に神経に障ることもない。

 今年は宴会禁止みたいだ。庭の中には入れないみたいだ。

 歩きながら、風景を楽しむ。


 ──プシュ


 私はアルコールを受け付けない体質なので、炭酸飲料のフタを開けた。

 そういえば炭酸飲料は、肝臓に負担が掛かるらしい。健康診断で肝臓の数値が悪くなり、驚いたことを思い出した。

 

「酒も飲まないのに、こんな数値になるとは、どんな食生活をしているのですか?」


 医者にそう聞かれれて、


「酒の代わりに炭酸飲料を飲んでいます。2日で1.5リットルくらい飲んでいます」


 と答えたら、大笑いされた。

 それからは、炭酸飲料はなるべく控えている。しかし、面白い話なのだろうか?


 風が吹く。桜が揺れる。

 周りには誰もいない場所に来た。ここで大丈夫であろう。

 椅子にもなるバックを置いて座った。キャンプ用品売り場で気に入ったバックである。長年愛用している品である。


「ふぅ~」


 ため息ではないな。少し気が抜けた感じだ。全身の筋肉を弛緩させる。

 思考を止めて、ただ桜を見る。耳には風の音。鼻には春の香り。今日は肌寒くもない。

 マスクを取り外して、炭酸飲料を飲み、甘味を感じる。


「今年だけなのだろうな……」


 世間は大変である。私の会社も倒産の瀬戸際に立たされている。

 だが、この場所を独占出来るのは、嬉しいかもしれない。

 それからどれくらいの時間を過ごしたのかも分からない。ただ、風情を楽しんでいた。


「あの……、大丈夫ですか?」


 ハッとする。

 女性が声を掛けて来た。


「え……、あ。すいません。邪魔でしたか?」


「いえ。ずっと動かなかったので、少し気になってしまい……」


 何をしているのだろうか。不審者と間違わられている。

 立ち上がり、バックを背負った。

 一礼して、その場を立ち去った。


 今日はもう帰ろう。

 そのまま、出口に向った時であった。

 人の輪が出来ており、誰かが倒れている。数人が看護してるみたいだ。

 私は看護している人に話しかけた。


「救急車は、呼びましたか?」


「はい、もうすぐ来ると思います」


「見て来ますね」


 私は、そう言って出口に向かった。

 救急車は、数分後に来たので、私は場所を案内した。どうやら貧血で倒れたらしいと話している。

 私はもう大丈夫だろうと思い、その場を後にした。


 帰り道、ふと思った。


「私が倒れたら、誰か助けてくれるのだろうか?」


 私も、もう良い年だ。体もあちこち痛い。精神疾患も患っている。

 介護されてまで生きたいとは、思っていない。

 今までの人生に不満はないし、満足もしていない。とにかく何も感じないように生きて来た。

 他人から見れば、情けない人生なのだろうな。それでも私は生きており、犯罪にも巻き込まれていない。

 それと、資金だけは、それなりにある。


 ただ、何も欲しいものを見つけられない人生だった。

 これから先も希望は見いだせない人生であろう。でも生きて行こうと思う。


「……また、来年も花見に来よう」


 小さな人生の目標を見つけた。

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