出会って五分で即ペアシート。密着ドキドキソロ討伐レッスン。無防備系清楚女子のボディタッチ攻撃に、耐えてくれ俺のライフ(意味深)……!

kattern

第1話

 シノさんは俺のオンゲのフレだ。

 森でゴブリンにボコられている所を、俺が助けたのがきっかけで知り合った。


「コロコロちゃん(俺のアカ名)は、私の命の恩人です」


 とか、ゲームで言っちゃうような人。

 今時こんなピュアな返しする奴なかなか居ないよな。男をからかって遊んでるネカマか、それとも性悪オタ女かどっちかだよ。


 けどまぁ、話していて楽しいんだ。


 そんな相手から、「一度、会ってみませんか?」と突然言われた。

 まぁ、男だったとしてもそれはそれでいいかと、軽い気持ちで会ってみたんだ。


 そしたら――。


「コロコロちゃん、キングスケルトン討伐レクチャー、よろしくお願いします」


「……う、うん。まぁ、落ち着いてやれば、倒せる相手だから」


「……は、はじめてなのでやさしく教えてくださいね?」


「シノさん! 言い方!」


 黒髪清楚系の美少女がやってきた件について。


 お嬢様学校の制服着た女子高生で同い年。むっちむっちのエロカワボディ。オンゲやってるだけあって、ちょっとおとなしいオタクっぽい感じの女の子。

 けど、それが逆になんかエロティックでやばい。


 とにかくシノさんは、それなんてエロゲな超絶美少女だった。


 信じられないだろ。

 俺も信じられないんだぜ。(白目)


 いや、おかしいよね、これ罠だよね、絶対なにかあるよね。

 そう疑ってる部分がない訳ではない。


 けど、高校生でお金なんて持っていない俺をはめる理由が分からない。

 あと、思い返せば、今まで女ってことを匂わることもなかったんだよな。


「あっ、あっ! コロコロちゃん、いましたキングスケルトン! 今スコープして映します――ほらっ! ねっ、いたでしょ! ねっ?」


「うん、分かった。分かりました、シノさん。分かったから激しく動かないで」


「……あっ、ごめんなさい。ペアシート、狭くって窮屈ですよね」


「……ソウイウコトジャナインダ」


 今はめっちゃアピールしてくるけれど。

 アピールというか押し当ててくるけれど。物理的に押し当ててくるけれど。


 女の子の圧がしゅごい。

 シノさん、結構むっちりボディだから、狭い所だと身体があたる。

 特にその、フラット席のマットにどっしり接地しているあたりとか。


 ほ、ほわぁああああ。


 ダメだ。ちょっと手の甲や腕に触れる、彼女のやわやわな感触だけで、脳味噌がとろける。どうにかなっちゃう。というかなってる。バカになっちゃってる。


 今、俺たちはネカフェのペアシート(フラット席)にいる。

 会ったはいいけれどその後についてはノープラン。するとシノさんが、俺にオンゲのレクチャーをして欲しいと言ってきたのだ。


 ネットのフレが美少女だったことでテンパっていた俺は思わずそれを引き受けた。そして、「ペアシートの割引券があるんです」という彼女の言葉に押し切られて、ほいほいこんなことになってしまった。


 なにからなにまでチョロすぎじゃないか、俺。


 やっぱ美人局なんじゃないの。

 壺買わされるんじゃないの。


 けどもう、それでもいいかな――!


 カモネギ上等だよ――!


「コロコロちゃん?」


「はっ、ひっ、なんでしょうかシノさん!」


「……大丈夫ですか? なんだか顔が真っ赤ですけれど?」


 大丈夫じゃありません。


 ありませんけれど――。


 ふんわりとした黒いロングヘアー。前髪がちょっと多くって、目元が少し隠れ気味なシノさんが、その間から俺に潤んだ瞳を向けている。狭いペアシートで振り返り、こちらを見てくるその顔には、作ったような仕草は少しも感じられない。


 シノさん、わざとやっているって感じが全然しないんだよな。

 知らずにやっているっていうか。

 男に対して無防備なだけっていうんだろうか。


 俺は典型的な陰キャオタクだから、学校なんかでもよくクラスの女子にからかわれるんだ。けれど、その時のような嫌な感じが、少しも彼女はしないんだよな。


 なんでなんだろう。


「……あの、コロコロちゃん?」


「な、なにかな、シノさん?」


「もしかしてですけれど、ネカフェ来るの嫌でした?」


「……え?」


「それとも、本当は――私と友達になるの嫌でした?」


「……なんでそんなこと言うのさ、シノさん?」


 全然そんなことない。そんなこと思ったこともない。

 むしろ、俺のようなダメネカマ野郎(サブアカは女キャラでプレイしてた)を、よく気持ち悪がらずに受け入れてくれたなって思っているよ。


 それはこっちの台詞だ。


 シノさんが少し暗い顔をして俯く。

 少し前に屈んだせいで、彼女のたわわに実った二つの果実が俺の腕に触れた。

 とても柔らかくて、ほわっと飛び退きそうになったけど、そんなことをしたら彼女がひどく傷つく気がして俺は動けなかった。


 あのね、と、シノさんは言う。


「私、実はお友達がいなくて」


「……え?」


「私の学校、中高一貫のお嬢様学校なんです。高等部から私は編入したんですが、途中編入の子は少なくって。それでなくても私って性格も見た目も暗いから」


「……そうだったんだ」


「だから、友達作るのに失敗して。ネットなら違う自分になれるかなって、友達できるかなって、そう思ってオンゲをはじめたんですけど」


 いないよね、シノさん。

 知ってた。


 だって、俺がサブアカでログインすると飛んでくるもん。

 クランとか入らないのって聞くと、どう入ればいいんですかって聞いてくるし。

 薄々、それは察していました。


 オンゲの世界までぼっち引きずるのって辛いよね。

 わかりみ。


 そっかなるほど。

 シノさんてば本当に友達が欲しかったんだな。

 これ、別に俺のことを誘ってるとか、からかっているとかじゃないんだ。


 友達に対する親愛というか、親しみから来る距離感なんだね――。


「えっと、シノさんは別に暗くないと思うよ?」


「……え?」


「おしとやかとか引っ込み思案とか、そういう感じかな。暗かったらこんなふうに友達を遊びに誘ったりはしゃいだりしないよ」


「そうなんですか?」


「俺はそう思うよ」


 男としては友達扱いってのはちょっと微妙に思う。

 けど、リアルぼっちとしてシノさんの気持ちはよく分かる。

 そしてその気持ちに応えてあげたい。


 俺はシノさんの肩を持つとその顔をのぞき込んだ。

 不安に揺れるその瞳を、じっと僕は見つめてあげる。


「俺はシノさんと友達になるの嫌じゃないよ。むしろ友達になれて嬉しい」


「……コロコロちゃん」


 本当はもっと深い仲になれたらとか思っているんだけれどね。

 けど、今はまだ友達でいいや。


 急いては事をし損ずる。

 何をし損ずる訳でもないけれど、まずはちゃんと友達をやろう。

 男と女がとか、彼氏彼女がとか、そういうのはそれからでもいいよ。


 だってほら、俺らまだ若いし。


 そして、ぼっちだし。


 俺だって、恋人と同じくらい友達が欲しいんですよ。


 それに、これだけボディタッチが多ければ実質彼女では――。


「あ、ありがとぉっ! コロコロちゃん! 大好きぃっ!」


「ほっ、ほぁあああああっ!!!!」


 とか、ゲスいこと考えてたら、そのゲスさを殺すような抱きつき攻撃。

 むぎゅっと俺の胸に、シノさんのたわわが押しつけられる。


 これは――納得のボリューム感。

 満足で人が死んじゃう奴。

 やばい。


 ダメだ。シノさんは無邪気に俺に抱きついただけなんだ。これは親愛を現すハグなんだ。男女のアレ的な、肌の触れあい的なハグじゃないんだ。

 

 だから耐えろ、耐えるんだ俺!


 友情に全力で応えろ――!


 それが男だろう――!


 あっ、けど、おっぱいもお腹も柔らかいよう。ふわふわしてる。これが女の子の身体なの。やだしゅごい、どうにかなっちゃう。脳味噌オレンジフローズンになりゅ。


 あぁああああああん!(謎絶叫)


「ありがとうコロコロちゃん! 私たち、ずっとずーっと友達でいようね!」


「ウン、オレ、シノサン、ズットトモダチ。ユウジョウ、フメツノ、ジャイアンツ」


 ちょっと失礼と俺はシノさんから離れた。

 これから長くなるし飲み物取ってくるねと個室から出てドリンクバーに移動した。


 はぁ、なんだあの可愛い生物。

 ワンコかな。ちくしょう。無防備が過ぎる。


 俺、この調子で友情を続けられる自信がないよ。

 頑張ってみるけれど。


 コーラとウーロン茶をグラスに注いで俺はトレーに載せる。

 赤いストローを二人分抜き取って、ナプキンもついでに取った。


 流れ作業でそんなことをしながら、俺は、世の中どうなるか分からないものだなと、しみじみ思うのだった。


「シノさーん、ジュース持ってきたよ、開けてくれるー? シノさーん?」


 飲み物を持って自分たちのブースに戻った俺は、中にいる友達に声をかけた。

 すると、なにやら返事がない。


 いったいどうしたのだろうか。

 オンゲに没頭しているのかなと、俺は自分の手で扉を開ける。


 すると、シノさんが液晶モニタの前にかぶりついて何やら見ていた。


 それはデスクトップに貼り付けられていた広告ポップアップ。

 いつの間にか切り替わったそこには、サラリーマン達が宿側に使うこともあってか、こう――高校生が見ちゃいけないようなのが表示されていた。


 しかも! よりにもよって!


「……ね、ネットカフェで出会ったJKとあまあま密着リラクゼーション。ペアシートでしっぽり朝までリラックス。これがいまどきカップルのネカフェの使い方」


「し、シノさん! ダメだシノさん! 気づいてはいけない!」


「あ、あ、あ……」


 顔を真っ赤にしてこちらを涙目で見るシノさん。


 そんな彼女もとても可愛い。


 可愛いけれど和んでる場合じゃない!


 これは――友情の危機ですよ!


「コロコロちゃん、これって!」


「チ、チガウヨ、シノサン、ゼンゼンチガウ、ボクタチハ、ソンナンジャ」


「知ってて黙ってたの! ふ、不潔! コロコロちゃんの、え、エロエロ大魔神!」


 罵倒まで可愛いとか反則かよ。


 かくして、出会って5分で即親友、10分で友情の危機を迎えた俺とシノさん。

 その後、まぁ、なんやかんやで俺たちは人生で一番長い付き合いになるのだった。


【了】

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