薔薇の雫 ~幻影ノ魔女 外伝~

Gorgom13

魔城の伝説 小話

花の冠

 後宮奥の庭園には、庭師の他には王族の者しか立入ることが許されない。ミレイユは薔薇の香りに包まれたこの場所が大のお気に入りだ。

 拷問に近い父との剣術の鍛錬を終えたベルナートは、久々に花園に足を伸ばした。


「ベルナート兄様」


 うずくまったまま、ミレイユが顔を上げる。その小さな手には加密列カモミイユの白い花が握られていた。


「メアリとね、お花摘んでたの」


 メアリ…………物心付いて以来、ミレイユはしばしばその名を口にする。母は年頃の子にありがちな空想上の友達だと笑うが、侍女たちは気味悪がっている。


 不思議な子だ。誰に教わらずとも文字を理解し、幸せのまじないと称しては魔法陣らしきものを描いて見せる。父に見つかってはまずいのできつく叱りつけると、目にいっぱいの涙を溜めて理由わけを尋ねたこともあった。


 時に、幼子とは思えない目でこちらを見つめていることがある。単純な好意でも嫌悪でもない。ベルナートにすら解しがたい、深く淀んだ眼差し。


「メアリにお花の冠の作り方を教えてもらったの」


 跪くと、ミレイユは屈託のない笑みを浮かべ花冠を被せてくれた。


「ありがとう、ミレイユ」


 ミレイユを抱き上げると、はしゃいだ声を上げた。守らなくては。この子の瞳に映っているもの…………それが何であれ、彼女を幸福に導くものでないのなら、この俺が何とかしてやらなくては。


 ミレイユの手が、ベルナートの髪に触れた。年かさの姉が弟を愛でるような大人びた手つきで、ミレイユと異なる栗色の髪を撫でおろした。

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