第56話 (終)
観覧車の頂上から見える景色は想像以上だった。
沈む夕日が地平に落ちていくのが見える。
観覧車の頂上から見える海は夕日に照らされて凄く綺麗だ。
「綺麗」
正面に座る陽愛も、俺と同じく夕日を見ながらそう口にした。
「本当に今日は楽しかったね。最後に蒼汰とこんなに綺麗な景色が見れて良かった」
「俺も」
「あ、でも最後にだとなんか今日でお別れみたいでなんか嫌だな。デートの最後に、ね?」
俺も陽愛と同じで、今日のデートの最後に今までに見たことのないくらい綺麗な景色が見れて良かったと思っている。
陽愛と付き合う前まではこんなこと思ってもいなかった。
まず陽愛と付き合えるとすら思っていなかった。
俺と陽愛は単なる幼馴染。幼馴染といっても、中学になると仲が少しずつ悪くなったり、高校生になると通う高校が違うなら会う事すら全くなくなるかもしれない。
でも、俺と陽愛は別にそんな事も無かった。同じ高校にも通えていることだしな。
「また来たいね」
「ああ」
「次は二人っきりでこよっか」
「そうだな」
「あ、でもお化け屋敷だけは絶対にぜったーいに行かないからね!」
「分かってるって」
大人数で来たり、今日みたいにダブルデートも良いけれど。恋人と二人っきりでのデートがやはり一番いい。
それは俺だけじゃなくて陽愛も思っているのかもしれない。
「はぁ。終わっちゃうのかぁ~」
一日の終わりは必ず訪れる。
こういう幸せな時間はあっという間に過ぎ、気が付いたら一日が終わっている。
だからこそこの瞬間を大切にしなければいけない。
陽愛と過ごすこれからの時間全てを。
もしかしたら、明日に僕が交通事故か何かで死んでしまったら、この楽しい時間は二度と経験できない。
「ねぇ。明日はどうしよっか」
「へ? 明日?」
「そう。明日! 明日も一緒に遊ぼうよ」
「別に良いけど……どこで?」
「う~ん……蒼汰の家」
「俺の家かよ……何もないぞ」
俺がそう言うと、陽愛は笑顔で「蒼汰が居るからいーの!」と言った。
まぁ、こうして出かけるのも良いけれど。家で二人っきりで過ごすのもそれはそれで良いか。
そんな事を話しているうちに観覧車は頂上からどんどんと降りていく。
本当は頂上でキスの一つくらいした方が良かったのかもしれないが、完全にタイミングを逃した。
もしくは俺にはまだにその勇気が出なかっただけかもしれない。
「どうしたんだよ」
陽愛は俺の顔をじーっと見つめて動かない。
「ううん。なんでもないよ」
「そういうのが一番気になるんだよなぁ」
「ふふ、内緒」
まぁ、大体がそう返ってくる。
だからこういうことは早めに忘れてしまうのが一番良い。
「妃菜ちゃんと斗真くんはどうしてるかな?」
「さぁ? 俺達と同じようになんか話してるんじゃないのか?」
「そうかな? あ、終わっちゃうね」
そんな会話をしていると、気づいた時にはもうすぐで地上。
あれだけ歩き回ってもう歩けないと思っていたが、俺達の乗っているゴンドラが地上へ戻るときにはもう少し歩けるまでは回復していた。やはり休憩は大事だ。
少しして斗真と姫奈ちゃんとも合流した。
「ねぇ、あそこで写真撮りたい」
陽愛が俺の服を引っ張りながら、この遊園地の中心にある大きな噴水を指さした。
「別に良いけど」
「じゃあ決まり! 妃菜ちゃんも斗真くんもね!」
「うん。分かった」
そう言って陽愛は俺の服を掴んだまま引っ張って噴水の所まで連れてった。
「それじゃあ撮るよー! はい、チーズ」
そう言って陽愛は自分の持っているスマホのシャッターを押した。
これで今日の思い出が形として残った。
今は写真一つで思い出を保管できる。
人は大事な事でも、楽しかったことでも、いつかは忘れてしまうかもしれない。けれどこうして写真を見ることで当時の事を思い出せるかもしれない。
「今日は楽しかったね」
出口へと向かう途中、陽愛は皆に向けてそう言った。
斗真も妃菜ちゃんも口をそろえて「うん」と答えた。勿論俺も楽しかった。
「あ、俺ちょっと手洗いに行ってくるわ」
「あ、私も」
「ああ、じゃあ出口で待ってるわ」
「おう」
そう言って斗真と妃菜ちゃんは並んで手洗いの方へと向かった。
「ねぇ、蒼汰」
「何?」
「手、繋ご?」
陽愛は俺の前に右手差し出してきた。
勿論俺はその手を握る。けれどただ握っただけじゃない。
「ッ‼」
そのまま俺の方へと陽愛を引っ張った。
多分数秒の間。だけれど何分にも思えるほど長く感じた。
「そ、蒼汰……い、今の」
「じゃあ行くか」
俺は陽愛の手を引いて出口へと向かった。
完?
――――――――――――――――――――――――――――
こんばんは、月姫乃 映月といいます。
これにて「可愛い幼馴染が彼女じゃダメですか?」を完結? しました。
つい先日、カクヨムを開いたところ、ギフトというものをいただいていました。
ギフトの仕様などまだ色々と分かっていないところはありますが、ギフトを送ってくれた方にないもしないわけにはいきません。
そこで、私の投稿した小説で一番人気の出たこの小説の完結後のストーリーをサポーター様(ギフトを送ってくれた読者様)限定で公開しようと思います。
この物語は元々ここまでしか書く予定はありませんでした。ですがサポーター制度ができたのでこの続きを書いて限定で公開するということです。
これまでありがとうございました。
そしてこれからもよろしくお願いします。
可愛い幼馴染が彼女じゃダメですか? 月姫乃 映月 @Eru_ZC
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