短編集め
リオ
第1話 ハンカチ
失恋した。
2個上のバイトの先輩。優しくて、笑顔が可愛くて、ちょっとしたことも気づいてくれて本当に好きだった。大好きだった。
しかし、先輩に彼女が出来た。小さくて笑顔が可愛くて、ふわふわの髪が可愛らしくて……。わたしとは正反対だった。
短い髪も、男子と同じくらいの身長も、可愛いと言えないえない笑顔も……。わたしはどうしてこんなに可愛くないのだろう。
バイトはカフェ兼BARになっていて私は、カフェを主に働いている。先輩はBARが主になっており、キッチリ着こなした制服が様になっていた。
が、失恋した今そんな姿を見るのも辛く、最近は出会わないようにしていた。BARに切り替わる時間よりも早くバイトを終え、いつもより早く帰る。帰宅後は犬の散歩を兼ねた軽い運動。今日もいつもと同じコース。
「はぁぁああああ」
深いため息を吐いてしまった。ついさっき先輩と彼女さんの姿を見てしまった。公園のベンチに座り一息着くと、愛犬のヤマトは遊んでもい?と見つめてくる。伸びるリードを上手く使い、ボールを投げる。嬉しいのが丸わかりな愛犬はいつものと変わらずとても微笑ましい。
「あの、すみません!!!!」
上から声が聞こえた。明るい髪色に高い身長、少し幼さが残る顔は少し赤い。
「えっと、何か…?」
「あの、いつもわんちゃんとお散歩してますよね……?ここら辺……」
それで、あの……っと後モゴモゴ口を困らせている。ぶっちゃけこれからどうすればいいか分からない。何となく好意的なめで見ているのは確かだが、言葉がない限りこっちからもアクションは起こせない。
「っワンちゃんの名前教えてください!!!!!!!!」
やっと言葉を発したと思ったらまさかの犬の名前。唖然とした。嫌だって普通犬の名前……あれ?私の思い違い?あれ?
自分の名前を聞かれるかと思っていた自分が恥ずかしい。思わず私も赤面してしまう……。
「えっと、ヤマトです…」
「ヤマトくん……可愛いですね……!」
パァと明るくなった笑顔。本当に犬が好きなんだと分かる。
それから2人で話をした。いつの話や学校の話。初対面にも関わらず色々話した。気づいたら日が沈む前でだいぶ話し込んだことに気づいた。
「また、お話してください!」
そう言って彼は帰っていた。最後に彼はヤマトの顔はわしゃわしゃして帰路に着いた。
その後、何度か彼と話していた。今何にハマっているか、バイトをしているか、最近親がどうとか、沢山話をした。
「やっぱり好きだなぁ…」
「ありがとう、ヤマトも君のこと好きだと思うよ」
ボソッと呟いた言葉。それは当然ヤマトに向けられたものだと思った。しかし、彼は初めてあった時より真っ赤になっていた。
「いや、あの、違くて、あなたのことが……好きです…」
小さくて聞こえた声。それは思いもよらない言葉で、思わずポカンとしてしまう。昔……と、話し出したのは3年ほど前の話で、当時彼が小学生だった頃私が泣いている彼に話しかけたのが初めてだったということ。
思い出した、と言っても微かな記憶だが、確かに昔彼にあったことがあった。その当時は黒い短髪でざサッカーボールを抱えていた気がする。泣いている彼にハンカチを渡そうと思ったが、当時そんなものは持っていなく、部活で使用しなかったタオルを渡したのだ。
「それで、いつか返そうと思ってて……」
彼はそっとカバンの中からタオルを取りだした。青いタオルだ。あの時の……。
「あの時、本当に落ち込んでて……でも、あなたのおかげでまた頑張れるって思ったんです、本当に、あの頃から大好きです!!」
顔を真っ赤にして、半分泣きそうな彼は夕日に照らされもっと赤くなって涙を目に浮かべていた。
「ごめんね、わたしハンカチ持ってないから……」
そう言って、さっき受け取ったタオルを差し出した。
こんな私でいいなら、付き合ってください……と、付け足して。
fin
短編集め リオ @riooo-xxx
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