第7話 新たなる先
「おい!そっちに二匹行ったぞ!」
「任せろ!」
逃げ出した二匹の魔物の前に立つ。そして・・・
「よし!いっちょ上がり!」
語る間もないほどに一瞬にして魔物二匹が真っ二つになった。
「相変わらず早いな。こっちは一体倒すのもやっとなのにさ。」
「まぁね、お前とは鍛え方が違うんだよ。」
「そうかい。まったく、入隊式のあの発言をしたときはただの頭のおかしい奴だと思ってたのによ。」
「別に変な発言はしてないだろ?思ったことを言ったまでだ。」
「だからそれがおかしいんだって・・・お前があんなこと言うから誰もお前に近づこうとしないんだよ。ヒロ。」
「でも事実だしなぁ・・・」
そう、あれは先生の死の後、俺は討伐にやってきた守り人に救助され、その後いろいろあって守り人として入隊した。
そして入隊式で・・・
「これより、第二十三期守り人の入隊式をおこなう。ではまず、第二十三期守り人の誓いの宣誓を行う。代表者、入隊成績主席ヒロ隊員。前へ。」
「はい。第二十三期守り人ヒロ、この場を代表し、誓いの宣誓を行わせていただきます。」
「宣誓、私、ヒロは、長年我々人間の生活を脅かしてきた魔物から人々の生活を守り、わが命をもって全力で魔物を殲滅することを誓い、そして・・・」
《・・・すいません。やっぱ今のなしで。》
「ッッッッッ⁉何を⁉」
「いや~、ね?やっぱ建前で話すのはフェアじゃないなと思いまして。ですのでここからは自分の本心を示す形で宣誓していきたいなと思います。」
「まず第一に、私は守り人というものが嫌いです。理由を話せばほとんど私怨になってしまいますのでここでは話しません。ですが、私自身、魔物から人々を守ること、そして魔物を殲滅するというのは嘘偽りない本心です。ですので、守り人に対し反逆を企てたり、人々に危害を加えることは一切ありません。」
「おい!貴様何を言って・・・」
「私は守り人の使命を全うするつもりはありません。私は私のやり方、私の考えで人々の救いとなる活動を命を賭して行っていくことをここに誓います。では、失礼します。」
「おい貴様!どこへ行く⁉おい!」
「・・・やっぱりおかしかったか?」
「十分すぎるぐらいにおかしかったわ!あんなこと言ったあ嫌われて当然だろ!」
「でもエリト、お前は一緒にいてくれるじゃん。」
「それはまぁ、成り行きというかなんというか・・・俺はほかの同期の奴らに比べて全然弱いからな。誰もそんなやつとは一緒にいたくないだろ。」
「俺はエリトと一緒にいて楽しぞ?」
「・・・そうか、ありがとな。」
「別に礼を言われることなんて何も・・・」
遠くのほうから声がしてくる。
「・・・おーーい。討伐は終わったかーーー?」
「はい!魔物計五体、すべて完了しました!」
「てゆーかあんたはどこに行ってたんだよ。ソラさん。」
ソラ。守り人第七隊隊長。多くの隊員に嫌われ、途方ひ暮れてた俺たちを拾ってくれた変な隊長だ。
「俺?俺は・・・腹が減ったんで昼飯に。」
「あんた俺たちの討伐監督できたんじゃなかったのかよ⁉」
「あーうるさいうるさい。細かいこと気にすんなって。しっかり討伐できたんだからいいじゃないか。」
「そういう問題じゃ・・・」
「ところでお前たち、さっき何話してたんだ?」
「ん?あぁ、入隊式の話だよ。」
「ヒロがおかしなこと言うせいでみんなから嫌われてるってはなしですよ。」
「あぁ、なるほどね。守り人が嫌いなのに守り人に入隊した変人な。」
「他人事みたいに言ってるけど、そもそも守り人になれって言ったのはあんたじゃないか。」
「お前の人を救いたい要望に応えただけだろ?」
「でも、最初は俺に斬りかかってきて殺そうとしたじゃないか。」
「え⁉そうだったんですか⁉」
「いや、殺意むき出しいたら当然でしょ?こっちは助けに来ただけでってのにさ。」
「仕方ないだろ。・・・俺は守り人が嫌いなんだから。」
「・・・そういえばそうだったな。まぁなんにせよ、こうして人を守れてるんだからいいじゃない。肩書なんて気にすんな。自分でそう宣誓したんだろ?」
「みんなに大バッシングを受けながらね。」
「エリトは一言余計だ。」
「さて、お前たち今日はもう解散でいいからさっさと帰って寝ろ。明日も仕事があるかもしれないんだからな。」
「へいへい。帰りますよーだ。」
「ソラ隊長。本日もお疲れさまでした。」
「おう、しっかり休めよ~」
「・・・『斬りかかって殺そうとした』か」
あの日の出来事は今でも覚えている。染みついてると言ったほうが正しいのか。
市街に突然、異例の大きさの魔物が現れ、すぐに現場へ向かったんだ。
発生から十分後、現場について俺が見たものは魔物に襲われた人の死体でも、暴れまわってる魔物の姿でもない。そこにいたのは、いや、あったのは”真っ二つになってすでに死んでいた魔物の死体だった“。
そしてその近くに赤い刀を持った子供が一人立っていた。
状況が追い付かなかった。魔物の大きさは、隊長クラスでも複数人でないと手におえないほどだったはずだ。それをたった一人の子供が刀一本で倒すなんて信じられなかった。
そんなことを必死に考えてたら、子供と目が合った。
次の瞬間だった。俺は子どもを斬りかかっていた。他人事のように言ってるが、実際に他人事のようにしか思えなかったんだ。発作的に、あるいは本能的に体がこの子供を殺さないと判断したのか、自分自身の事なのに理解ができなかった。
しかし、自分でもわからないほどに一瞬だったのに、自分が斬りかかったことに気が付いたのは、子供が受け止めたことによって止まったからだ。
今ならわかる。恐らくあの時俺はヒロに恐怖心を抱いたのだろう。守り人である自分がたった一人の子供に。だから、あの時ヒロと言葉を交わして正解だった。
「そこの魔物は君が倒したのか?」
「・・・・・・・・(うなずく)」
「君、名前は?」
「・・・・・ヒロ」
「そうか、ではヒロ。君はその力をどうするつもりだ?」
「・・・人を救うために」
「なら、お前。守り人になれ。正式な手段で堂々と人間を守れ。」
「それはできない。俺は守り人が嫌いなんだ。」
「かまわないさ。守り人の肩書だけ持っていればいい。お前はお前のやりたいように人を守れ。」
「本当にいいんだな?自由にやっても。」
「あぁ。俺たち守り人や人間に危害を加えなければあとは好きにやっていい。」
「そうか・・・いいだろう。なってやるよ。守り人に。」
「よし、きまりだな。じゃあ俺についてこい。」
こいつを野放しにしてはいけない。
そう判断したあの時の俺は間違っていなかった。
ヒロという男は決して敵にしてはいけない人物なんだ。
人類のためにも
ヒロのためにも
紅の成り上がり 雪桜 @YUKISAKURA0923
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