第6話 それぞれの想いと受け継ぐ想い
突然のことでまだ頭が状況に追い付いていなかった。
さっきまで俺は先生と会話をしていたんだ。そしたらいきなり大きな音と一緒に隣の建物が爆発したんだ。それに驚いていたら、先生が血相を変えてこっちに向かってきて、そして・・・・・・・・
ネチャッ
しばらく見ていなかった、でもよく知っているそれが自分の手についていた。
それが誰のものかはすぐに分かった。いや、分かってしまった。目の前に広がる光景が俺の目をそらすことを許さなかった。
「せん、、、せ、、、い?」
自分の手についているよく知っているもの・・・血が、先生から流れ出ていた。
「先生ェ‼せんせェーー‼」
「・・・落ち着いてください。ヒロ。」
「ッッッ⁉先生‼」
「こ、ここは危険です…早くここから離れてください…」
「でも先生が‼」
「私はもう助かりません…ですから早く、ここから離れて下さい…」
「やだ‼そんなことでき・・・」
「………ヒロ。」
「⁉」
そっとヒロの頬に手を添える。
「私はね、君と同じ孤児だったんですよ。そして一人で生きてきた。助けてくれる大人も手を貸してくれる大人もいなかった。それどころか、得体のしれない私を蔑み憐れむことしかしなかった。ですから私はそんな大人を見返したくて必死に生きて普通の人として認められるまでに成長した。そしてかつて自分を見下してきた人たちは過去に行ったことがなかったかのように私を見ていた。ふざけるなって思いました。身なりや身分だけで判断する人たちに吐き気すら感じました。理不尽な物言い、身勝手なふるまい、そういったものがひどく目につきました。」
「先生、いったい何を、、、」
「それでも私は人が大好きなんだ。いくら理不尽なことをされても、いくら醜い部分があろうとも、私は人が大好きだ。だって私は知っているから。人々がみんなそうではないということを、本当の優しさ、本当の正しさを持っている人がいるってことを。でも君は恐らく、自分を助けてくれなかった、手を差し伸べてくれなかった人間が嫌いだと思います。でも、たくさんのことを見れば、聞けば、感じれば、世の中のことを知ればきっと私と同じように人が好きになると思います。なのでヒロ、君のその力を・・・」
「私が愛した《人》を助けるために使ってくれませんか?」
「困っている人、悩んでいる人、手を差し伸べて欲しい人、そんな人たちの役に立ってあげてくれませんか?」
「・・・・・・・・」
「今はまだ人が嫌いでもいい。でも、人々について知ることを拒まないでください。目の前の出来事から目を背けないでください。人にまっすぐ向き合えばきっと君にもわかる日がきっと来るから………私の願い聞いてくれますか?」
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何を言っているんだ?人を助ける?
正直意味がわからなかった。
だって、そんな願い聞けるわけないじゃないか。
今まで自分を助けてくれなかった人をなんで俺が助けなくちゃいけないんだ。守り人にしたってそうだ。そんなものになって自分の自由を犠牲にして赤の他人を助けるなんてまっぴらごめんだ。俺は一人で生き延びてきた。死にそうになっても、殺されそうになっても自分で全部解決してきたんだ。
…………でも、そうじゃなくなった。
あの日、先生と出会って俺は、俺の日常は変わったんだ。
食料の取り方、料理の仕方、物書きに剣術や体術など、先生にたくさんのことを教わり、たくさんのものを貰った。
そして今も・・・身を挺して助けてもらった。
まだ何も返してないのに。
お礼だってちゃんとしたことがないのに。
だから、俺が先生に返す言葉は一つしかない。
先生のために。
そして、俺のためにも。
「俺がすべての《人》を助けてやる!」
先生が愛した人を守る。
俺が憎むべき人を助ける。
俺を救ってくれた先生に心から誓った。
その瞬間俺の返事を聞いた先生は、安心したように温かい笑みを向けた。
そして、ずっと握っていた先生の手はとても冷くなっていた。
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