側溝血まみれ自転車事件

@alalalall

血まみれ自転車の謎

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 今から2年前の5月5日、○○町○○市、この平和な町は騒然となった。

 住宅街ど真ん中の側溝で逆さで遺棄されている由来不明の血まみれ自転車が見つかったからだ。その自転車(ごく普通のいわゆるママチャリである。)は血まみれになっているどころか、カゴやハンドルなどが大きく変形し、側溝にはまっていた。この事件の異様な不気味さは周辺住民を恐怖のどん底に陥れた。


 警察は捜査に乗り出すも、この事件の犯人と被害者を特定することはできなかった。正確には「近隣地域の不良少年グループによる犯行であり、被害者はそのグループで孤立した少年の可能性がある」と発表していた。しかし、その後の発表が途絶えたのだ。現在もいまだに捜査中とあり、被害者と犯人の特定には至っていない。

 言ってしまえばそこらの車同士の交通事故よりも規模が小さく、明確な被害者は自転車一台というがいまだに解決されていないのだろうか?


 私はこの事件には何かおかしなことが潜んでいると考え、超自然現象や陰謀、時にはUMAをも扱う本誌の記者として真実を明らかにするべく第一発見者の鈴木さん(仮名)にインタビューを行った。以下はインタビューの校正明大な記録である。

[佐藤]

(この文章は、佐藤氏がインタビュー直前まで執筆していた文章である。彼の遺作をできる限りそのまま世に出すためにこの文章を掲載する。以下の音声は佐藤氏殺害の事件現場に残されていたボイスレコーダーの録音データの文字起こしである。)

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―(私)インタビューをお引き受けいただきありがとうございます。今回はよろしくお願いします。


(鈴木さん)どうも、よろしくお願いします。


―早速ですが、例の自転車を発見したときの様子はどのようなものだったのでしょうか。


普通の日でしたね。日課のジョギングをしていました。春にふさわしい暖かな日でしたね。えー、そうですね。ちょうど1周して家の前に戻ってきたあたりでしょうか。ふと物音がして振り返ると、側溝から何かが生えてたんですよ。お隣さんの家の前ですね。ひっくり返った自転車だとすぐに気づきました。近所づきあいはここら辺ではほぼ無いのですが、流石にお隣さんが事故したかもしれないと思いながら無視するほど薄情ではありませんでした。


―そこで異常に気付いたと。


はい。びっくりしました。自転車が血まみれだったんですよ。で、しかも慌てて周りを見てもケガをした人もいない。人っ子一人いなかったんですよ!もう心の底からぞっとしました。不気味というか、非日常というか…。

警察を呼ぼうか10分ぐらい迷いましたが、一人でこの血まみれ自転車と向き合うことに耐えかねて110番通報しました。警察が来てくれた時はホッとしました。自分って意外と警察を信じてたんだなぁって感じました。


―警察はどのような対応を?


普通が分からないですけど特にこれといったものもなかったのでたぶん普通だったと思います。あとあるとしたら…そうだ、ちょっと怖かったので一晩交番で泊まらせてもらいました。

 

―その後何かありましたか?


何も。たまに警察の人が聞きに来たりしてくる程度ですね。誰か変な奴いなかったかみたいな。変な人はいなかったし意外と静かなモンでしたよ。 

 

―不良少年グループに心辺りは?


犯人かも知れないって言われてる?ないない(笑)。ここら辺の子ども達は行儀が良いし、おとなしい子たちばかりです。そもそも子供自体が少ないですね。


―そういえば、お隣の家族に息子さんいたと思うんですけど、その子は事件のことについて何か言ってましたか?


んー、そもそも事件から一回も会ってないですね。事件前はジョギング中にたまに会ってたんですけどねぇ。


―他のご近所さんは何か?


……会ってないですね。


—事件から一度も?


はい。


—おかしくないですか?


別に普通じゃないですか?元々近所付き合い自体が少なかったですし。


—いや、朝にジョギングしていながらこの1年間誰とも会っていないというのは……


…………


—あの……


……実は警察に行くとき以外ずっと家に居ました。


—外に出ていないと?


はい。


—なぜ?


怖かったんです。あの日、見ちゃったんですよ。


—何を?


○○君(隣家の子供。プライバシー保護のため名前を伏せています。)が、血まみれで倒れてたんです。自転車も近くに倒れてました。

急いで救急車呼ぼうとしたら、○○君が、人間の腕みたいなのに側溝に自転車と一緒に引き込まれて……

気分が悪くなる音を出しながら側溝に呑み込まれていって、気づいたら、血まみれの自転車だけが残されていて……


—でも○○君は今も近所の小学校に通っていますが……後、自転車は誰のものか未だに不明ですよ。


そこなんですよ。おかしいのは。

……警察が来てくれたときに、○○君が道の向こうから自転車に乗って来たんですよ。初めは安心しました。アレは見間違いだったと思いました。

でも、偽物だと気づきました。○○君はあんな物静かな子じゃなかったし、あの血まみれの自転車は確かに○○君のモノだった。偽物の○○君の自転車は全く知らないものでした。

何より、人間味が無かった。家のすぐ近くにいる警察に目もくれないんですよ。

………もう、もう、怖くって、(嗚咽)…警察にこの事はとても言えませんでした。


—○○君のご家族の方は気づいていらっしゃらなかったのですか?


気づいてました。事件から数日後、○○君のお父さんが訪ねてきて、「あの子が変なんですけど、何か知ってますか?」と聞きに来ました。私は本当の事を言おうとしました。

今思うと、この怖さを分かってくれる人が欲しかったかもしれません。

だけど……


—ご家族に何かあったんですか?


彼も引き込まれました。

私が玄関を開けた瞬間、○○君を引き込んだのと同じ腕が伸びてきて彼を引きずっていきました。あっという間でした。悲鳴すら上がりませんでした。

翌朝、彼も偽物になってました。

彼の奥さんも3日後には偽物になってました。多分、あの家の人たちが全員偽物になるまで1週間もかからなかったと思います。


—他の近所の方々は?


怖くてその日以降は誰とも会ってませんし、話してません。あの腕が私に来るんじゃないかって思うと……。

考えるのも怖いですが、今のここら一帯は、既に全員が……。


—何故そう思うのですか?


9月にある町内のクリーンデーに誰も参加しなかったんです。誰一人。

たぶん、この町がこんなに静かなのは、みんな、もう……。


—引っ越しされた方が良いのでは?


外に出ることが怖いんです。外に出た瞬間、腕が、私を引きずりこんできそうで。幸い、貯金はあるのでしばらくは何もせずとも暮らせます。


—でもこのままの状態は良くないですよ。


あんたに何がわかる!

……すみません、ごめんなさい……。いや、ああ、うん……。

そっか………そうだったんだな。


—何か?


お前が腕だな!俺を外に出すつもりなんだ!

怪しかったんだ。気づいたら全部喋らされていた。ああ、そうだ。腕について喋ったら引き込まれるんだろう。まんまと引っかかった!

あとは腕の届く外に出すだけってか!その手には乗らない。今、お前を殺せば、俺は自由だ!舐めやがって!


[罵声が響く。ここから鈴木氏が豹変し暴れ出す。]


—うわっ、わっ、落ち着いて下さい!


うるせえ!お前を殺してやる!○○君の仇だ!バケモンめ!死ねぇっ!


—やめっ、やめて!、がっ


[打撲音が何度も響く。おそらく佐藤氏が凶器であるゴルフクラブに殴打されている音と思われる。]


やった!やったぞ!じっ、自由だ!やったーっ!ウハハハハハッ!ハハハハッ!


(この直後、鈴木氏は居宅から逃走した。

物音に気づいて鈴木氏の居宅を訪ねた近隣住民により殺害されている佐藤氏が発見された。通報より12時間後、鈴木氏は確保された。鈴木氏は現在裁判中である。ニュースを見た読者なら知っていただろうが、鈴木氏の本名は太田重信であった。

本誌は最後まで真実を追い求めた佐藤氏に敬意を表し、本記事を掲載する。


また、『側溝自転車血まみれ事件』は未だ解決には至っていない。)




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