ずーっとこのままで

リュウ

第1話 ずーっとこのままで

 私は、ファミリーレストランの窓から外を眺めていた。

 世話しなく歩くサラリーマン、幸せそうな親子、騒がしい学生。

 レストランの入口に人を探している人を発見、背伸びをして一席毎確認している。

 美里だ。

 美里とは、小学校からの付き合い。高校まで一緒の学校だった。

 今は、キャビンアテンダントになったと聞いていた。

 私は、美里に手を振った。

 私に気づいた美里は、店員に「待ち合わせだ」と私の席を指さした。

 速足で、私の席にやってきた。

「久しぶり、元気?」

 相変わらず、テンションが高い。

 まずは、ここのお店評判のパフェを食べながらの近況報告。

 後は、適当などうでもいい話をした。

「そういえば、タカシはどうしてる?」

 タカシというのは、私と美里と同じ幼馴染。私の隣に住んでる。

 いや、三か月前に家を出て一人暮らしとか。

 なんとか、ちゃんとした仕事についていて、ちゃんと生きているらしい。

「元気だよ。この前、ライン来てたし」

「あんた達、どうなってんの?進んでるの?」

「どおって……、どうもなってないよ」

「タカシ、なかなかのイケメンだし、捕まえてた方がいいって」

「そんなに言うなら、美里が捕まえればいいじゃん」

「あ、私はダメ」

「ダメって?」

「前にフラれた」美里はうつむいてパフェをつついた。

「フラれた?いつ」私にとっては初耳だった。

「高2の時」美里はパフェから目を離さない。

 私は、声が出なかった。美里がタカシにこくったなんて……。

「あー、ゴメン。言ってなかったよね。

 アイツ、私よりあんたがいいんだって。

 私の方が、美人でスタイルいいのにね」

「何、言ってんのよ。失礼ね」

<私を選んでくれた?全然聞いてないけど……>

 私は、うれしくてニヤついていた。

「で、付き合ってるんでしょ?」

「・・・・・・付き合っているというか、確認したことない・・・・・・」

「えー」美里は呆れ顔だ。

「ずーっと一緒だし、今さらって思うし、違ったら悲しいし・・・・・・」

「わかった、タカシには、私から言っといてあげる」

「いいよ、そんなことしなくても」私は口を尖らして言った。

「あんたが、それでいいって言うのなら……」

 美里は、食べ終わったパフェの器にスップーンを投げ入れた。

「うまかった」と言うと、カバンの中をガサガサと何かを探していた。

「じゃーん」

 と言って、コップや皿をテーブルの端に除けると一冊の本らしきものを置いた。

 それは、アルバムだった。

 そこには、ウェディングドレス姿の美里が映っていた。

 私は、パフェのスプーンを口にくわえたままのじっとアルバムを見た。

 ニヤ付きながら、美里は次々とページをめくっていく。

 キラキラのティアラと純白のドレス。

 次は淡い色のピンク。

 高い天井から光が降り注ぐような祭壇。

 祭壇の後ろには、ステンドグラスの色の影がウエディングロードを照らす。

 物語だ。

 映画で観たような風景。

「えっ、結婚したの?・・・・・・旦那様は?」

「違うよ。今、バイトしてる所で、取ったのだ」

 私は、写真から目を離さずに訊いた。

「バイト?」

「今時は、CAもバイトしないといけないの。

 で、これはバイト先のブライダルハウスの写真。

 よく撮れてるでしょ」

「あなた、綺麗ね……」

「綺麗なうちに撮ろうと思ったの。ソロウェディングってヤツよ」

「ミ・サ・トォ、勧誘なの?」

「そう、勧誘。」

「興味があると思って。だって、綺麗に撮ってくれるから」

 美里が、笑った。


 私は、興味を持っていた。

 タカシとは、ダラダラと付き合ってしまった。

 改めて確認しようとは、考えてなかった。

 というか、避けていた。

 違っていたらこまるから。

 見るだけならと美里のアルバイト先に見学に行くと約束した。

 私も綺麗な私を残したくなったから。


 私は、ブライダルハウスに来ていた。

 美里が出迎えてくれた。

 美里の接客は、完璧。

 施設の中を案内してもらう。

 中でも、チャペルは最高。

 映画に出てくるような、テレビでよく見るアレだ。

 カメラを通すより、建物の存在感や迫力が違う。

 私は、クルクル回りながら、チャペルの中を見た。

「よく、観たほうがいいわ。

 式を挙げたら、忙しくて何があったかなんて、わからないから」

 美里が、色々教えてくれた。

 私の知らないことばかりだった。

「ウェディングドレス、着てみる?」

 私は、うなづいた。

 ドレスは、やはり、誰でも憧れる。

 白いウェディングドレス。

 プリンセスのようなスカートの裾に向かって膨らんでいるドレス。

 それとも、綺麗なシルエットのマーメード。

 ピンクのドレスもいい。

 髪は、ティアラ、リングブーケ、ベール?

 私の瞳は、大きなままだ。

「迷うわね、私が選んであげる。着替えたらチャペルに行きましょ」

 美里が微笑む。


「いくわよ。」

 美里がチャペルの重厚な扉を開ける。

 神聖な空気が私を包む。

 正面の半円形の内陣チャペルを神秘的な光が照らす。

 ステンドグラスが、外界の激しい光を色とりどりの光に変え、

 祭壇まで真っ直ぐ伸びるウェデイングロードを照らす。

「ああっ」思わず声が漏れる。

 私は、美里にエスコートされ、祭壇へ向かう。

 生まれてきた時から、年月を重ねるように。

 一歩、一歩、歩いて行く。

 祭壇前に着いた時、タキシード姿の男性が現れた。

<演出?>

 男性が振り向いた。

<タ・カ・シ。>

 私の頭の中は、混乱する。美里を探したが姿は見えない。   

 私の目の前にタカシが立っていた。

<こんなに背が高かったんだ>

 今頃、気づくなんて。

「何してるの?」

 タカシが私を見つめて言った。

「・・・・・・ソロウェディング。・・・・・・あなたは、何をしてるの?」

「俺も。」

 思わず微笑みがこぼれる。

 タカシは、半歩下がって、私を見た。

「綺麗だ。やっぱ、俺、お前のこと好きだ」

 タカシがポケットから、指輪を取り出して、私の左手を優しく持ち上げた。

 そして、薬指に指輪をはめた。

 いつの間にかタカシの手が腰にまわされ、私を引き寄せる。

 私の唇が塞がれていた。

 なぜが、涙が流れた。

 私、静かに目を閉じた。

 ずーっとこのままで・・・・・・。

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ずーっとこのままで リュウ @ryu_labo

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