負けず嫌いな友人の話

私の友人は、負けず嫌いだ。


狭い世界から出て、初めて彼と出会った日から、私はその〝負けず嫌い〟を幾度となく目にしてきた。

体力テストでトップの成績だった、研究レポートが特別な賞に選ばれた、今期の営業成績が1位だった……その他もろもろ。私からすれば何がそんなにおめでたいのか理解できないものでも、友人にとっては、苦しみ悶えるほどの努力をし、他の誰よりも輝かしい戦果を収めることが至上の喜びらしかった。


「聞いてくれよ。今日は堅物で有名の取引先から、一発でOKの返事が来たんだ。何回通っても上手くいかないのがほとんどなのにって、社内で絶賛されたぞ」

〝輝かしい戦果〟が更新されると、彼は意気揚々と報告を聞かせてくれる。それらの内容は大半が私にとってやはり理解しがたく、どうでもよいものだが、彼が嬉しそうにあれこれ喋っているのを聞くのは悪くない。時々、いつものご飯を豪華にしてくれるし。


だが、常に負けず嫌いのまま生き続けるのは、案外疲れるものらしい。

「……はあ」

彼が疲れているときは、言葉がなくとも仕草や表情ですぐ分かる。私が歩み寄り、じっと顔を見上げているのにも暫く気付かないほどぼんやりとして、溜め息ばかりついているのだ。

それほど辛いなら、周りと競うことなどやめてしまえばいいのに。私にはそう言葉をかけてやることもできないが、代わりにできることだってある。

ソファに沈み込んだ彼の膝めがけて飛びあがると、力なく伏せられていた両目がようやく私のほうを向いた。

「なんだよ、励ましてくれるのか?」

ぽつりと呟いた彼は眉尻を下げ、柔らかく笑みを浮かべる。伸ばされた指が頬や顎を撫でてくれる心地良さに任せてこちらからも擦り寄ると、それまで彼を包んでいた重たく寂しげな空気が、次第に薄れていくのが分かった。

「……本当、お前には敵わないなあ」

「にゃあん」

彼にそう言われると、何事にも負けず嫌いを貫く友人の気持ちが少しだけ理解できる気がする。本当に、少しだけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートショートシリーズ まつしまにしき @Nishiki_42

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ