白目

海青猫

訪問販売すると白目をむくマネージャーの話。

じりじりと日の光が肌を焼く。

営業の仕事で、大阪の新地を回っているが、ほとんど飛び込みのようなものだ。

アポだけはとっているにしても、一度も行ったことがない会社を訪問するにはいまだに緊張する。

売っている商品は、セキュリティ関係のソフトで販売対象はシステム開発とかを行っている会社に絞っていた。

北新地の駅からしばらく歩いた先に今日の販売先のビルがあり、受付に会社名と要件を伝えると、応接室に通してもらった。

この会社は小さな会社だが、一応年商は一億は超えていたはずだ。

軽く挨拶をして待っていると、奥からやたら痩せて背の高い男と、恰幅のいい頭の毛が寂しい男があらわれた。

一礼し、名刺を差し出して挨拶を交わす。

促されるままに、応接間のソファに座る。

差し出された名刺を見ると、やせぎすの男は支店長で、恰幅のいい男はここのマネージャーらしい。

役職だけではやせぎすの男の方が上に思えるが、年齢は頭の毛が寂しい方が上に見える。

あってもらったことに対する謝辞を述べると、社員であろう男が一礼してあらわれ、透明のグラスに氷入りのお茶が差し出された。

とりあえず、目の前のマネージャーに対し、商品の説明を始める。

マネージャーはうんうんとうなづいていて、マネージャーの隣に座っている支店長が商品に対し、厳しい質問を飛ばしてくる。これは想定内で、滞りなく答えることができた。

雑談混じりで話も盛り上がり、雰囲気もいい。

そろそろクロージングした方がいいだろうか?

クロージングというのは、相手に対して契約を締結するという感じの意味だ。

話を契約に向けてもっていくと、突然目の前のマネージャーが白目をむいた。

目がぐるりとひっくり返り、全身が震えだした。

背中に冷たい汗が滴る。

マネージャーの男はさらに震えだした。

気分を害していたのか、何なのかわからない。

頭が混乱する。何を言ったわからず、頭が真っ白になり、その日の話は終わった。

一応商品は売れ、契約をとることができたが、取引は一年で途切れ、

さらに、数年たってその会社はつぶれてしまったらしい。


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白目 海青猫 @MarineBlueCat

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