秘密の金曜日
茉白
待ちに待った…
毎月、第三金曜日。
フルタイムワーカーの私は、必ず午前中で早退することにしている。
何年も続いているので、もう誰かに何を言われることもなくなっていた。
「お先に失礼しまーす。」
今日も悪びれることなく、私は事務所を後にした。
会社の門を抜けると解放感に満たされていくのを感じる。
同僚たちが働いていると思えば、なお一層だ。
今日は幸い天気も良く、吹き抜ける風が心地よい。
夫も子供も知らない秘密の時間のはじまり、はじまり。
タイムリミットまでたったの5時間。
ひと月ぶりの自由を楽しむために、急いで車に乗り込みエンジンをかけた。
ネットで調べて気になっていたレストランへ行く。
ランチタイムでテーブル席はいっぱいだったが、カウンターは空いていた。
グループで先に待っている人達より先に案内される。
優越感と少しの罪悪感を感じながら席に着く。
「ランチをください。」
オーダーすると、すぐにハンバーグランチが運ばれてきた。
今日の為に来るのを我慢していたこともあって、より一層美味しく感じられる。
食後のコーヒーまでゆっくりと楽しんで店を出た。
ソロ活の良いところは、待ち時間という時間の無駄を省けるところである。
ショッピングモールへ行き、いつもなら入らないショップに入り、
いつもなら選ばないであろう、新作の白いシャツワンピースに手を伸ばす。
鏡の前で当ててみて、
「うーん、なかなかお似合いですねっ。」
心の中で自画自賛してみるが、ところでこちらのお値段はというと、
「うーん、なかなかのものですな。」
いつもの服が3枚は買える…
店員さんに分からないように無表情を装いながら、悩んでいるふりをする。
「買っちゃえ、買っちゃえ!」
ついでにオフホワイトのロングスカートもコーディネートしてお買い上げ。
気に入ったからまあいいか。
ソロ活の良いところは、自分の思いを我慢しなくていいところである。
そろそろ映画の上演時間だ。
今月のおすすめを人の少ない広々とした空間で見る。
夫と見るには恥ずかしく、子供にはまだ早すぎる、感動モノを好んでみる。
終盤、ハンカチなしでは見られないような作品だ。
予想通り、泣けて仕方がなかった。
ソロ活の良いところは、邪魔されず自分の好きなモノを選択できるところである。
そろそろタイムアップが近づいている。
帰るために車に乗り込みエンジンをかける。
アクセルを踏みながら頭のスイッチを切り替えて、帰路に着く。
今日を振り返って、色々考える。
「今日のハンバーグ、美味しかったな。今度はみんなで行こう。」
「買った服、タグ取って片付けておかなくちゃ。お披露目はそのうちに。」
「そういえば、あのアニメ映画、いつ見に行く約束してたかな。」
そうこうしていると、あっという間に家に着いた。
今月のソロ活は終了だ。
私のソロ活の悪いところを挙げるならば、家族と思いを共有できないところだ。
しかし、仕事の時とは違う心地よい疲れを感じる。
今度は来月の第三金曜日。
「さーて、今日の夕飯はどうしようかな。」
一人呟き支度をしながら、
次のソロ活へ向けて、美味しいと評判のレストランを検索することにした。
秘密の金曜日 茉白 @yasuebi
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